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【24-29】次の成長ステージに向けて、中国・南京でESG投資白書が発表

2024年07月18日

高須 正和

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
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 膨大な人口による労働集約型産業からイノベーション主導の成長への脱皮を計る中国では、投資の対象も変革しつつある。6月18日、南京市にて「プライベート・エクイティによるESG投資実践白書(私募股权ESG投资实践白皮书)」(リンク)が発表された。今後の中国における技術開発、投資の方向性を示す、白書の内容を紹介する。

 企業への投資活動の中で、短期的な金銭リターンだけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素を考慮するESG投資は、企業の持続可能性と社会的影響を評価し、長期的な成長とリスク管理を重視する。短期的な急成長から持続可能な成長を目指す中国でこのタイプの投資が重視されるのは自然な流れだ。

コロナ禍でも拡大を続けたESG投資、持続可能な成長を目指す

 白書は世界全体のESG投資の紹介から、中国の現状と代表的なESG投資事例を挙げている。世界5330の投資集団から数値をまとめた2006~2023年の各年度成長では、コロナ禍でもESG投資が世界的に大きく成長し、2023年度は時価総額が120兆ドルに達し、寄付でなくリターンを求める投資の分野としてすでに定着していることが示されている。

 一般的には貧困救済や寄付が注目されるESG分野だが、ESG投資としては長期的な企業成長のために、コーポレートガバナンスなども重視される。

 ● 環境(Environment):新エネルギー、エネルギーの再利用、環境モニタリングシステムなど

 ● 社会(Social):フードビジネス、サービス産業など

 ● ガバナンス(Governance):企業のキャッシュフロー、社内ガバナンス

 これらは事業分野としても有望で、「量から質への転換」を求められる社会が企業に求めるものでもあり、実際に先進国である欧米日が先行し、中国がキャッチアップする状況が続いていた。中国では2016年からの第13次五カ年計画からグリーン金融が盛り込まれ、実際に炭素排出量取引(FIT)などの取り組みが始まった。

 一方で急激な成長により環境問題が発生し、貧富の差など社会の歪みが表面化してきた中国では、こうした産業へのニーズは急拡大している。

中国でのESG投資はまだ始まったばかり。

 2024年1月に「美しい中国の建設を全面的に推進することに関する中国共産党中央委員会および国務院の意見(中共中央国务院关于全面推进美丽中国建设的意见)」(リンク)が発表された。これはガバナンスや社会からの評価を含めて、はじめてESG全体を明確に意識した文書とされる。これに従って、金融・投資を管轄している証券先物取引委員会(SFC)が指導し、上海・深圳・北京の3つの証券取引所もサステイナビリティ報告ガイドラインを発表した。2024年5月以降、上場企業はサステイナビリティについてのレポートを開示する必要がある。

有望な産業ケースはエネルギーと仕組みづくり=ガバナンス

 白書では中国の代表的なESG投資事例として、21のケースが紹介されている。全体の半分近くが新エネルギー関連で、原材料から公共交通機関のための投資まで幅広い。続いて評価づくりシステムやサプライチェーンの透明化など、ガバナンス=仕組みづくりが並ぶ。白書の主体がプライベート・エクイティ、投資集団なので、こうした仕組みづくりを投資家から要求するアプローチは、事業者にとって諸刃の剣となりやすいものの、実効性がある。また、紹介される事例の多くは、事業に対して投資家がネットワークを広げることで新しいビジネスを開発し、実際の収益拡大や、今後の拡大見込みにつなげたことを評価している。投資集団によるネットワークの紹介や企業価値の拡大は、ESG投資が社会的価値・投資価値の両方を拡大した好例だ。

実効性のある取り組みを続けていけるか?

 新エネルギー、サービスの効率化、製造業や食品などのサプライチェーンの透明化、貧富の格差解消などは、中国社会での要求が高まっている分野でもあり、自然と投資がなされていく分野でもある。一方で、長期的な評価が必要であるのに対して評価の仕組みが不透明で、政策主導の取り組みが求められる分野でもある。エネルギーと食料など、別々の産業であるものをESG投資という分野にまとめ、投資家同士を繋いだという点で、今回の白書が発表された意味は大きい。

 新エネルギー、環境保護、低炭素分野はもともと中国の政府投資や国営ファンドも積極的に活動していた分野であるため、多くの投資が行われていたが、比較・評価する客観的な仕組みがなかった。現状の投資でも評価のために第三者機関を組み入れているのは全投資の30%ほどである。今後はこうしたガイドラインが整備されていき、不十分なガバナンスが是正されていくだろう。

 また、ガイドラインに付随して、経営的には問題ないが、ESG的な評価が下がった時に経営に関与できる仕組みについても制度化が求められている。おそらくこれまで同様、政府からガイドラインが発表され、それに沿った仕組みを備えた投資機関に税制優遇が行われるなどの形で実効性を整備させていくだろう。

 今回の白書に紹介されているような産業ケースをどれだけ増やしていけるかが、中国ESG投資の拡大や、ひいては社会全体の持続的な成長を左右していく。また、持続可能な発展は日本にとっても大きなテーマであるため、今後が注目される。


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