経済・社会
トップ  > コラム&リポート 経済・社会 >  File No.24-34

【24-34】中国共産党第20期3中全会コミュニケ、質の高い経済発展体制改革を強調

松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2024年08月07日

 中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(第20期3中全会)が、2024年7月15日から18日にかけ、北京で開催された。主な内容は下記の通りである。

1.主な内容

 今回の会議では、「改革の全面的な進化及び中国式の現代化推進に関する決定」が審議・採択された。複雑で厳しい国際環境と国内の改革・発展・安定の任務を前にして、新たな発展理念を貫徹し、「安定を保ちつつ前進を求める」という活動全体の基調を堅持し、「五位一体(経済・政治・文化・社会・生態文明の一体)」と「四つの全面」の調和的推進をはかることが打ち出された。「四つの全面」とは、「全面的な小康社会建設(全ての国民が豊かな生活を送れる状態)」「全面的改革の進化」「全面的な依法治国(法に依って国を治めること)」「全面的な党の厳格管理」を指す。

 今会議では、2035年までに社会主義市場経済体制を完成させるため、「中国式現代化の質の高い発展」の推進に重点をおき、全面的な改革を推進する予定であることが強調された。中国式現代化の目標は、2035年までに高水準の社会主義市場経済と中国の特色のある社会主義制度を構築することである。質の高い発展は、習近平氏が強調してきた理念で、先端産業が導く経済構造、高い生活の質、高い文化水準、国家安全保障等が含まれる。

 経済体制の改革のため、今回の会議では下記の14の改革分野が提示された。

■高水準の社会主義市場経済制度の構築、■質の高い経済発展制度の改善・構築、■全面的なイノベーション制度の構築、■マクロ経済ガバナンス体制の改善、■都市と農村の統合発展制度の構築、■ハイレベルな対外開放制度の整備、■人民民主主義制度体制の最適化、■中国の特色ある社会主義法治体系の改善、■文化体制改革の深化、■民生保障体系の改善、■生態文明体制改革の深化、■国家安全保障体制の現代化の推進、■国防・軍隊の改革深化の推進、■中国共産党の指導水準の向上

 また、エネルギー・鉄道・通信・水資源・工業事業等、国有企業を中心とする業種は、独立運営を基本原則とするが、競争段階では市場化改革を推進するとした。非共有性経済発展のためにより多くのチャンスを提供する方針の「民営経済促進法」も制定予定であると明らかにされた。また、経済的財産権を保護し、知的財産権に対する効率的な総合管理システムを構築していくとした。

2.科学技術・教育に関わる内容

 科学技術に対しては、企業が主導する産学官連携を促進し、科学技術のリード企業と「専精特新」企業(専門性、精巧性、特徴性、新規性の4つの優れた特徴を持つ中小企業)を育成し、国家技術移転システム建設を強化するとした。

 そして、次世代情報技術(IT)、AI、航空、宇宙、新エネルギー、新材料、先端設備、バイオ、医薬、量子技術等が戦略産業であると強調した。

 会議では、科学技術は中国式現代化を実現する主要な方法であるとし、科教興国戦略、人材強国戦略等とともに、科学技術・教育・人材全般におけるシステムを改革する予定であるとした。さらに、地域の実情に合った新たな品質の生産力の開発、実物経済とデジタル経済の融合、サービス産業とインフラ建設、産業チェーンと供給ネットワークの弾力性の引き上げを実現するためシステム改善を果たし、都市・農村の融合発展のため、新型産業化によって格差を縮めていくことが示された。

 最後に、今回の会議の核心内容である質の高い経済発展体制の改善方向についてまとめておく。

表 質の高い経済発展体制の改善方向
重点方向 主要内容
新たな品質の生産力 ■次世代情報技術(IT)、AI、航空、宇宙、新エネルギー、新材料、先端設備、バイオ、医薬、量子技術等を戦略産業と明記。
■企業がデジタル知能技術とグリーン技術で既存産業のアップグレードを果たせるよう支援する。
■これらの分野におけるベンチャーキャピタル、投資、開発を奨励・規制する。
デジタル経済 ■先端製造クラスターを育成し、製造産業のハイエンド・知能型・グリーン発展を促進する。
■次世代情報技術を基盤とした産業インターネットを発展させ、デジタル産業クラスターを育成する。
■国家データインフラを構築し、データ財産権の識別、市場取引、権利と利益配分・保護のためのシステムを構築する。
サービス産業 ■サービス産業の会計システムを改革し、サービス産業の標準化を促進する。
■生産者のサービス産業と質の高い発展を促進し、仲介サービス施設に対する法律システムを整備する。
現代化インフラ ■新型インフラ計画と標準システムを構築し、既存インフラのデジタル転換を促進する。
■低高度経済(民間の有人・無人の飛行体を利用した総合的なビジネス形態のことで、有人飛行や貨物の輸送など低高度の飛行活動を原動力としている)を発展させ、有料道路の政策を整備する。
供給ネットワーク ■集積回路、医療機器、基礎ソフトウェア、産業ソフトウェア、先端素材等の重点産業ネットワークの発展体系とメカニズムを改善する。
■国家戦略産業のバックアップを構築し、鉱物資源の探察、供給、貯蓄及びマーケティングのための全般的な計画・連携システムを整備する。

 コミュニケの翌日に開かれた記者会見では、中国のR&D人材規模が世界1位であることや高等教育を受けた人口が2.5億人を超えたことを強調しつつも、「教育強国」「科技強国」「人材強国」を基調に、中国式現代化を促進していくことが述べられた。また、引き続き企業を中心とする科学技術イノベーション、基礎研究強化に注力し、人材の育成-活用-評価-支援における効率的なメカニズムを構築し、積極的かつ開放的な人材政策を推進していくとした。

 次に3中全会が開催される2029年は中国建国80周年となり、提示した改革課題がどれほど完成できたかを評価する時期となる。科学技術や人材の重要性が強調されたコミュニケであるが、今後の中国式現代化の実現の行方に注目したい。

 

上へ戻る