経済・社会
トップ  > コラム&リポート 経済・社会 >  File No.25-16

【25-16】中国の米品種の現状と品種改良の実態と方向(第2回)ハイブリッド水稲・インディカ米の主要品種と改良系統

2025年05月23日

高橋五郎

高橋五郎: 愛知大学名誉教授(農学博士)

略歴

愛知大学国際中国学研究センターフェロー
中国経済経営学会前会長
研究領域 中国農業問題全般

 今回は中国で作付けされているハイブリッド水稲のうち、作付面積上位10位までの銘柄と、その単収、代表的銘柄についての品種改良系統を遡ってみたい。主要なハイブリッド水稲のほとんどがインディカ米(文末の写真1~3参照)である。

ハイブリッド水稲の作付面積上位10位の銘柄と亜種区分

 以下はハイブリッド水稲の上位10銘柄である。ただし、それぞれの実際の作付面積は公表されていない。

 汕優63、汕優64、威優64、汕優2号、岡優22、汕優6号、威優6号、Ⅱ優838、D優63、汕優10号(表1)。

 上の品種の亜種区分はいずれもインディカ米であり、中国ではインディカ米の作付面積がジャポニカ米を圧倒していることがうかがえる。この点は、中国の水稲文化をリードして来た南方の水稲が、インディカ米であったことからも頷けるであろう。

 中国でも食文化の地域性のカベは徐々に低くなっているとはいうものの、ことコメに関する限り、昨日まで食べていたインディカ米を、今朝からジャポニカ米に切り替えるほど、この二つのコメの間に立つカベは低くはない。コメの炊き方、箸の使い方、副食の作り方から食べ方、すべてにそれぞれのコメの特性に合った「食文化」が根付いていると思われるからである。

 なおインディカ米の銘柄に、「汕」という字が付くものが目立つが、これはインディカ米のことである。

表1 中国の作付面積上位ハイブリッド水稲10品種
出所:国家水稲データセンターの資料をもとに、筆者作成。
作付面積上位10品種(ハイブリッド) 亜種
区分
親 品 種 主要産地 認定年 収量(kg)/10a その他の特徴
汕優63 インディカ米 雌性親(♀):珍汕97A
雄性親(♂):明恢63
安徽省、重慶市、福建省、広東省、広西チワン族自治区、貴州省、海南省、河南省、湖北省、湖南省、江蘇省、江西省、陝西省、四川省、雲南省、浙江省 1990 672-726 いもち病耐性強、白葉枯病・シラミに耐性がやや弱い。
汕優64 雌性親(♀):珍汕97A
雄性親(♂):測64-7
浙江省、湖南省、江西省、湖北省など 1991 600-750 苗代播種15㎏/10a、小球菌核病の防除が必要。
威優64 雌性親(♀):威20A
雄性親(♂):測64-7
湖南省 1987 660 育成者:袁隆平。中国の高収量コメを支えた代表的品種の一つ。
汕優2号 雌性親(♀):珍汕97A
雄性親(♂):IR24
江西省、広東省 1983 600-750 1期:2月20日播種、7月6日収穫。2期7月11日播種、翌1月1日収穫。
岡優22 雌性親(♀):岡46A
雄性親(♂):CDR22
四川省、貴州省、福建省、雲南省、陝西省など 2000 750 全育成期間110日。いもち病耐性非常に強い、白葉枯病耐性に強い。
汕優6号 雌性親(♀):珍汕97A
雄性親(♂):IR26
福建省 1983 600-750 1期2月下旬播種。2期6月下旬播種、1月上旬収穫。耐寒性、耐干ばつ、土壌Ph問わず。
威優6号 雌性親(♀):威20A
雄性親(♂):IR26
福建省 1983 600-750 1期2月下旬播種、7月中旬収穫。2期6月下旬播種、翌1月上旬収穫。やや気温に敏感。
Ⅱ優838 雌性親(♀):Ⅱ-32A
雄性親(♂):輻恢838
四川省、重慶市、湖南省、河南省 2003 750 アミロース22%。中稲(なかて)。倒伏しない。いもち病耐性やや弱。
D優63 雌性親(♀):D汕A
雄性親(♂):明恢63
四川省、雲南省、貴州省、広東省など 1993 900-1050 アミロース21.4%。いもち病耐性あり。白葉枯病には中程度の抵抗性。
汕優10号 雌性親(♀):珍汕97A
雄性親(♂):密陽46
福建省、江西省、雲南省、浙江省、湖南省、広東省 など 2004 1280 中稲、晩稲に適応。高収量・高適応性・高病害耐性。

ハイブリッド水稲の上位10銘柄の作付け適地

 ハイブリッド水稲の作付け適地は、ほぼ長江以南の中部から沿岸部に集中している(表1)。

 その大部分がインディカ米であることから、作付け適地が南方にあるのは当然だが、銘柄によっては「汕優63」のように江蘇省、河南省、陝西省くらいまでが北限のような品種もある。

 インディカ米の一般的な特性として、低気温には弱い性質があるものの、品種によっては、やや耐寒性を組み込んだ品種が作られていることが挙げられる。しかし、インディカ米の性質自体は弱耐寒性であり、北方から南方まで、広く作付け適地を持つジャポニカ米と決定的に異なる。実際に南方では、ジャポニカ米の作付けはほとんど行われていない。

 以上の考察から、ハイブリッド水稲といえばインディカ米という図式が成り立つくらいに、中国ではインディカ米のハイブリッド化が進んでいる。ハイブリッド化するには、ジャポニカ米よりもインディカ米の方の技術が進んでいることも影響している可能性があるが、これについては次回以降、決定的にそうとは限らない現状も紹介したい。

順調に進む高収量のハイブリッド水稲開発―1280kg

 中国のハイブリッド水稲の品種改良のベクトルは、日本のように味覚の追及ではなく、高収量の水稲を作り出すことに置かれて来た。その成果はめざましく、日本人にとっては驚くばかりの収量水準を実現している。

 インディカ米の作付け地帯はコメの二期作地帯に属する為、作付け二回分を合わせた収量が高いのは当然である。しかし、一期、10アール当たりの収量自体が高いことも特長となっている。

 中国国家水稲データセンターによると、作付面積上位に位置する、最も収量の高い「汕優10号」という銘柄は、実験段階のデータだが収量1280kgを記録したことがあるという。二番目に高収量の「D優63」という銘柄は、900~1050kgを記録したという。なお作付面積の大小にかかわりなく、一期の10アール当たりの最高収量を記録した銘柄は、「湘両優900」で、収量は1720kg(2017年)とされている[1]

 「汕優10号」と「D優63」以外の銘柄の収量も高く、おおむね10アール当たり600~750kgが平均値となっている(表1)。

 以上のように、高収量はハイブリッド水稲の特長の一つで、中国のハイブリッド水稲の開発がベクトルに沿って順調に進んでいると評価できよう。

ハイブリッド水稲のその他の特性

 ハイブリッド水稲の主な特長を挙げると、病気に対する抵抗力、二期作可能、土壌のアルカリ性・酸性対応性の3点である(表1)。

 病気に関しては、いもち病・白葉枯病等、在来種水稲の弱点に対して、ハイブリッド水稲としての強みが加えられているといえよう。これによって、減農薬稲作が可能となった点が指摘できる。

 作付けが年に二度できる二期作水稲は、中国南方の稲作の強みである。10アール当たりの収量は播種時期の早い一期作目(早稲)よりも、気候条件がより温暖になる二期作目(晩稲)が三割程度多い傾向にある。しかし、最近では肥培管理技術の改善等から、徐々にその差が縮む傾向もみられている。

 通常、水稲の土壌pHは5.5~6.5程度と言われているが、中国で開発されたハイブリッド水稲の適正幅は、それよりも弾力的であるとされている。一般に、中国の南方地帯の水田土壌は酸性的(pHがおおむね6.0以下)であり、石灰等の散布が求められることがあるが、ハイブリッド水稲の場合、その必要性が低い特長がある(4.5~5.5まで可能といわれる)。この点は、土壌改良費用の節約にもつながっている。

「汕優63」の改良の軌跡

 ここで作付面積が最も大きいハイブリッド水稲のインディカ米品種「汕優63」の改良の足跡を遡ってみたい。表1からもうかがえるが、中国のハイブリッド水稲の親品種として目立つ品種は、母本の「珍汕97A」である。

「汕優63」の改良系統図を作成した(図1を参照されたい)。中国の品種改良の系統を遡ることができるのは、現在の世代(例「汕優63」)を除くとせいぜい第4世代前までで、その先は不明であることが多い。

 

図1 汕優63の改良系統図

image

出所:中国稲データベースを元に筆者作成。

「汕優63」の母本「珍汕97A」

 さて、「汕優63」の母本は「珍汕97A」、父本は「明恢63」である。両方とも育成品種[2]である。そのため「汕優63」は、両親とも育成品種から作られたハイブリッド水稲ということになる。

 母本の「珍汕97A」はCMS(Cytoplasmic Male Sterility:細胞質雄性不稔)で他家受粉となり、F1雑種(その種子を撒いても、完全な生育は不可能な品種)を安定生産できる特性を持っている。「珍汕97A」自体は雄性不稔(male sterile)[3]であるが、母本として、雌しべは種子をつける能力があるため、自ら花粉を作らない「雌親(母系)」として雑種種子生産に使える。したがって、「雄性不稔系統」=「種子生産に使う雌系(♀)」とされている。

 この「珍汕97A」の親品種の母本は野生種である。1970年に海南島三亜市の野生稲から発見されたという。

 父本は「珍汕97」であり、在来種インディカ米の一種とされている。「珍汕97」は「珍汕97B」という別称を持っている。しかし中国では、これを不育系(自家採種ができない品種)としている。

「珍汕97」の両親は母本が「珍球矮11」、父本が「汕矮選4号」とつづき、次の世代「汕優63」から数えて4世代遡る。4世代前から数えると、「汕優63」の母本「珍汕97A」が出来るまで、母本と父本を合わせて8種類の品種が必要であった。母本系と父本系を合わせると、現世代の「汕優63」ができるまで、18種類の品種を必要としたことになる。

「汕優63」の父本「明恢63」

 父本の「明恢63」は国際稲研究所(IRRI)が育成した「IR30」というインディカ米品種を母本に、「圭630」というガイアナ共和国で開発した育成品種を父本とする品種である。ガイアナ共和国と中国との政治・経済関係の結びつきが非常に強いことと無関係ではなかろう。また開発国の食糧情勢を鑑みるに、収量の高さをベクトルとする品種である可能性が高い。

「明恢63」の過去の世代を遡ると、国際稲研究所が作った育成品種を頻繁に使っていることが分かるが、3世代以前の父本となると不明である。これは、2世代目に当たる「圭630」が外国産の品種であるためである。

 なお「明恢63」は作付面積が多いことから、表1に掲載されている収量の高い「D優63」の父本ともなっている。

インディカ米改良の現状評価

 中国の水稲研究のすそ野と研究水準は、世界のトップクラスに位置すると断言できる。表2の7のゲノム編集技術の応用、特許出願件数の多さについては本コラムで紹介したことがあるが、同表の1~7のうち、1の伝統的な育種、3のハイブリッド育種なども盛んである。

 特にハイブリッド水稲はインディカ米の改良と相性が良く、上述のような成果が出ている。中国の水稲改良の強みは、その圧倒的な原種ストックの多さであり、現在なお続く採種活動の活発さである。どの国も、植物原種保存のナショナリズムが強くなっているが、こうした中、中国は伝統的な新種改良技術に先端技術を組み合わせた強みを持っているといえよう。

表2 水稲品種改良の方法
1.選抜育種(伝統的)
2.交配育種(主流) 固定品種(日本が得意)
3.ハイブリッド育種(F1利用) 三系統法(CMS)(中国が得意)
4.突然変異育種(照射など)
5.分子育種(マーカー選抜)
6.遺伝子組換え育種(GMO)
7.ゲノム編集育種(新興)

 次回は、作付面積上位のジャポニカ米が含まれる育成品種水稲を取り上げたい。

image

写真1 江西省で販売されているインディカ米(通常袋)。(写真1~3は東北大学東北アジア研究センター助教、籐媛媛さん提供)

image

写真2 江西省で販売されているインディカ米(真空袋)。

image

写真3 インディカ米(同品種の中でもかなり細長い)。


[1] 「科技日報」2017年10月16日。

[2] 人為的な交配・選抜で作られた品種。

[3] 雄性不稔とは、植物が花粉(雄性配偶子)を形成できない、または形成しても機能しない性質を指す。雌しべは正常であるため、他の花粉を受粉すれば正常な種子を作ることができ、雑種(F1)品種の安定的な生産では極めて重要とされている。


高橋五郎氏記事バックナンバー

 

上へ戻る