【17-01】中国の「創新創業教育改革」について―当事者に聴く中国教育事情
2017年 1月25日
馬 慶明:
「当事者に聴く中国教育事情」編集長、
日本留学信息中心総経理、
大連外国語大学名誉教授、
1987年大連外国語学院日本語学部卒業
はじめに
今回は中国の「創新創業教育改革」について解説したいと思います。
この改革に伴い、2016年12月26日に中国教育部は「全国首批深化創新創業教育改革示範高校」(全国第1回創新創業教育改革深化モデル大学)のリストを公示しました。12月30日まで意見を聴収し、2017年に正式に確定する予定です。このリストに、99の大学が並び、211*、985**の重点大学もあれば、地方の大学も入っています。
* 211とは中国教育部が1995年に定めたもので、21世紀に向けて中国の100の大学に重点的に投資していくとしたプロジェクト。
** 985とは中国教育部が1998年5月に定めたもので、中国の大学の研究活動のレベルを国際水準にあげるために、211工程の中の限られた大学に重点的に投資していくとしたプロジェクト。
中国の「創新創業教育改革」について
「創新創業教育改革」とは、基本的な教養だけでなく学生の革新的な精神と実践的な能力、起業家の資質を育成し、起業できる能力を身に着けさせるための教育改革です。大学が起業を教えることについては世界中で議論があります。欧米の大学では大学は能力を養うところであり、起業について100人なら100通りのやり方があり得るのでMBAと同じように理論を教えるところに集中しています。しかし、今回の中国の「創新創業教育改革」は新しいことを考え、新しいものを作る能力を身に着け、将来自力で操業できる能力の養成を目的にしてあり、おそらくドイツIndustry4.0を目指して構築していると考えられます。
この「改革」の目標を理解するために、まずいくつかの中国事情をご説明したいと思います。
1. 李克強国務院総理の呼びかけスローガン:「大衆創業、万衆創新」
2. 大学生の就職難の問題と教育体制改革の急務
政府は中国全体の経済体制の改革を急いでいます。
1978年からの中国経済開放は中国経済の加速をもたらしました。外資投資とOEMによって「世界の工場・中国」としての経済が成り立っていました。しかし現在、中国市場の飽和と世界経済の不振の中、政府の殖産興業による生産力の過剰は中国市場の新しい成長を見込めなくなっています。
今までの中国経済は外資投資誘致と対外貿易で発展してきましたが、将来は高品質で魅力的な中国製品を生産することで国内製造業の対外的な競争力をつけ、国産品の国内消費をも伸ばすことが中央政府の経済改革の方針です。また、現在直面する問題に中国国内の熾烈な就職競争があり、失業人口(中国では待業人数と言います)が大幅に増えています。
この主な二つの背景のもとで、2014年、国務院李克強総理が「大衆創業、万衆創新」を打ち出しました。
高等教育は「就職難」の責任を問われ、教育体制改革を要求されています
東北師範大学就業創業教育研究院執行院長王占仁教授によりますと、「創新創業教育」を通じて大学生たちが創造力を身に着け、中国製品に新しい将来を切り開いていくというような現実的効果を求める政策であると解釈されました(情報・教育信息網)。これは2014年からの「大衆創新、万衆創業」政策の一環と理解できます。
今回、公示された99の大学は(最後の表をご参照ください)自主申告に基づいて各地方教育行政が推薦し、国家教育部に認定されたものです。今後この99大学はまず就職指導、創業指導の授業を開設しなければなりません。2020年にはシステムとしての高等教育における創新創業の教育体制を作り上げる計画になっています。
創新創業教育では中国の大学にとって初めての試みとして、現在いくつかの教育の実践が考えられています。
1. アイディアを事業化できる理論教育
2. 創業をめぐるインターンシープの実施
3. 海外の創業に関する授業の導入
4. 海外の大学とシンポジウムの開催
5. 海外の大学と総合研究所の設立
私の考え
創業教育はイノベーションを目指す新しい教育政策として、上記のこれらの課題を実践するにあたって中国の大学は外国の大学との交流が不可欠になってきます。
今後、中国の大学は今まで以上に外国の大学とこの分野での交流を期待してくると思われます。先に成功事例を作れた大学が一気に政府と民間の話題になり、名門大学になることが予想できるため、各大学が競うことで大規模なニーズが生まれるのではないかと推測します。日本の大学を含め、海外の大学にとっては中国の大学と国際交流をするチャンスになるに違いありません。
ご参考に
No. | 大学名 | No. | 大学名 |
1 | 北京大学 | 51 | 済南大学 |
2 | 清華大学 | 52 | 青島理工大学 |
3 | 北京工業大学 | 53 | 山東師範大学 |
4 | 北京航空航天大学 | 54 | 山東協和学院 |
5 | 北京郵電大学 | 55 | 鄭州大学 |
6 | 天津大学 | 56 | 河南大学 |
7 | 河北大学 | 57 | 黄淮学院 |
8 | 河北農業大学 | 58 | 黄河科技学院 |
9 | 河北師範大学 | 59 | 武漢大学 |
10 | 燕山大学 | 60 | 華中科技大学 |
11 | 山西大学 | 61 | 武漢理工大学 |
12 | 太原理工大学 | 62 | 湖北工業大学 |
13 | 山西農業大学 | 63 | 湖北大学 |
14 | 内蒙古大学 | 64 | 武漢生物工程学院 |
15 | 大連理工大学 | 65 | 湘潭大学 |
16 | 瀋陽工業大学 | 66 | 湖南大学 |
17 | 東北大学 | 67 | 中南大学 |
18 | 遼寧工程技術大学 | 68 | 湖南商学院 |
19 | 大連東軟信息学院 | 69 | 曁南大学 |
20 | 吉林大学 | 70 | 華南理工大学 |
21 | 吉林建築大学 | 71 | 華南師範大学 |
22 | 吉林農業大学 | 72 | 深圳大学 |
23 | 黒竜江大学 | 73 | 広東工業大学 |
24 | ハルビン工業大学 | 74 | 広西大学 |
25 | ハルビン工程大学 | 75 | 桂林電子科技大学 |
26 | 復旦大学 | 76 | 広西財経学院 |
27 | 同済大学 | 77 | 海南大学 |
28 | 上海交通大学 | 78 | 重慶大学 |
29 | 南京大学 | 79 | 重慶郵電大学 |
30 | 東南大学 | 80 | 四川大学 |
31 | 南京理工大学 | 81 | 西南交通大学 |
32 | 南京工業大学 | 82 | 電子科技大学 |
33 | 南京信息工程大学 | 83 | 西南石油大学 |
34 | 揚州大学 | 84 | 貴州師範大学 |
35 | 浙江大学 | 85 | 貴州理工学院 |
36 | 杭州師範大学 | 86 | 雲南大学 |
37 | 温州大学 | 87 | 昆明理工大学 |
38 | 中国美術学院 | 88 | 雲南財経大学 |
39 | 寧波大学 | 89 | 西藏大学 |
40 | 中国科学技術大学 | 90 | 西北大学 |
41 | 合肥工業大学 | 91 | 西安交通大学 |
42 | 安徽工業大学 | 92 | 西安電子科技大学 |
43 | 安徽理工大学 | 93 | 西北工業大学 |
44 | 厦門大学 | 94 | 蘭州大学 |
45 | 福州大学 | 95 | 蘭州理工大学 |
46 | 厦門理工学院 | 96 | 青海大学 |
47 | 南昌大学 | 97 | 北方民族大学 |
48 | 江西師範大学 | 98 | 石河子大学 |
49 | 江西財経大学 | 99 | 新疆財経大学 |
50 | 山東大学 |
筆者より
「当事者に聴く中国教育事情」は2010年に中国現地にいる日本留学志望者に資するために設立した大学連合事務所の定期情報として発刊しました。2015年4月に現在の名称・体裁に変更しました。私たちは中国の学生向けに日本の大学について定期的に情報を提供しておりますので、より多くの日本の大学と情報交換したいと思います。ぜひお気軽にご連絡ください。
E-mail: (王妍)、(馬慶明)
※本稿は、日本留学信息中心が発行しているメールマガジン「当事者に聴く中国教育事情」2017年1月第1回を、日本留学信息中心の許可を得て転載したものである。