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【18-07】初高等教育からみる中国教育の国際化―当事者に聴く中国教育事情

2018年11月7日 王璨(JTB日中教育交流中心)/日本語校正 伊藤裕子

はじめに

 中国には「国際学校」というジャンルの学校があります。その中には、「国際小学校」、「国際中学校」、「国際高校」などが含まれています。本来は中国に駐在する外国人の子女のために作られた学校でしたが、だんだん中国人学生の募集も認められるようになり、中国人学生を海外の教育システムの下で勉強させるための学校も多数出てくるようになりました。

 今回はそういった中国人のための私立国際学校である北京市海淀外国語実験学校多言語センターの秦岭主任、陳聞瑾主任、匤思如先生にインタビューすることができました。

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写真 右から:秦岭主任、陳聞瑾主任、匡思如先生

Q1.

 海淀外国語実験学校は「国際学校」として知られていますが、近年の国際教育交流状況はいかがでしょうか。

A1:

 海淀外国語実験学校では、多国籍の教師陣による豊かな言語実習、異文化交流によってグローバルな視野の育成を促進し、在学生に多様な環境を提供することによって、より多文化意識を持つ人材育成を目指しています。

 これらの目標達成のために本学はアメリカに3つのキャンパス(ノースカロライナキャンパス、ニュージャージーキャンパス、ミシガンキャンパス)を設立しました。学期ごとに、在学生はアメリカのキャンパスで3~16週間交換留学をします。中国から教員が随行しアメリカでの授業、及び学生の生活全般をケアします。そのほかアメリカ、イギリス、オーストラリアには言語実習基地も開設しました。毎年本学の小・中・高在学生がこれらの言語実習基地で、3~9週間の短期研修プログラム(言語習得・文化体験)に参加しています。

 イギリスでのArdmore言語実習基地、LTC言語実習基地とElac言語実習基地は2002年から正式に本学の小・中・高在学生の3~9週間短期研修プログラムの実施を始めました。現時点で、イギリス言語実習基地の短期研修プログラムに参加した学生は延べ6,000名を超えました。

 一方、オーストラリアではアデレードに言語実習基地を持ち、短期研修プログラムの実施するほか、アデレードコーナーストーンカレッジ(Adelaide Cornerstone College)と提携して交換留学プログラムを開催しています。この十年間でおよそ1,000名の在学生が参加しました。

 また、新たに日本語、ドイツ語、フランス語などを第二外国語課程として開設しており今後、海淀外国語教育グループはドイツ、フランスおよび日本に言語実習基地を設置する計画をもっています。こういったような言語実習基地の設立により、本学在学期間中により効果的に「万里の道に行ける・多言語を使える・異文化を感じる」ような、ジェネラリストの人材育成を目指しています。

Q2.

 海外での教育プログラムの内容が豊かですが、中国本土での教育も不可欠と思います。この部分について簡単にご紹介いただけますでしょうか。

A2:

 海淀外国語教育グループは北京市にある海淀外国語実験学校を基盤とし、優れた教育資源を共有しています。グループの核心となる北京市海淀外国語実験学校は北京市海淀区人民政府の認定により、1999年に設立されました。幼稚園、小学校、中学校、高校が完備された全寮制学校です。在学生は約5,000名、教職員が約1,000人の学校規模、教育成果でも北京有数の教育機関です。

 本学の特色教育カリキュラムといえば、「国際班」になります。国際班には、国内外の優秀な教育人材が集まり、中西(中国と西洋)調和の「ダブルレール制」教育カリキュラムシステムを採用しています。「数学」、「中国語」など国内の伝統的な授業科目を強化するとともに、グローバル教育(授業実施+授業外活動)も同時に取り上げています。学生個人の個性を伸ばし十分に発揮できるように、厳しい評価基準を定めて学生の総合的能力を育てています。

 具体的な計画としては、小学三年時に夏休み期間を利用しイギリスで短期研修に参加します。五年時にはアメリカの名門私立学校に編入し、一学期のアメリカの勉強と生活を体験します。

 中学二年時にはアメリカニュージャージーキャンパス(Paramus Catholic High School)に編入し、1年間勉強します。

 「国際班」高校二年生にはアメリカミシガン州にある公立高校(Lake Shore High School)に編入します。(高校一年次と三年次は北京本校で勉強します。)Lake Shore High Schoolと提携し、アメリカ本土公立高校の教育システムに沿い、中国高校のカリキュラムとアメリカ高校のカリキュラムおよびアメリカの大学予備課程を統合しました。授業の実施は両国のネイティブの教員が担当し、AP課程やTOEFL、ACT(アメリカ大学入学統一試験)などの対策授業も行います。在学生が高校で取得した単位とこれらの成績によって、直接アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダなどの国の名門大学に入学申請することができます。「国際班」の高校卒業時には「ダブルディグリー(北京市高校卒業証書とアメリカ高校卒業証書)」を自動的に持つことができます。さらにアメリカACT教育グループから発行された大学予科証書ももらえます。

Q3.

 先ほどおっしゃったように、日本語を第二外国語としてカリキュラムに取り上げて以来、現状はどうでしょうか。

A3:

 2014年9月に、北京市海淀外国語実験学校多言語センターが設立されました。主に英語以外の言語教育・短期研修・海外進学などのプログラムを中心としています。現在、本学の日本語学習者は約200名で、特に幼稚園から高校まで日本語教育を実施しており第一外国語(英語)と第二外国語(日本語)の授業数がほぼ同じで、日本語授業は日本人教師が担当し、日本語専攻かつ日本留学経験を持つ中国人教師が補助教員として指導しています。

 日本語教育を開始して4年教育の成果はめざましく、中学三年生全員が日本語能力N5に合格しました。N4の合格者が日本の高校に入学した実績もあります。日本人教師指導の下に学生にネイティブな日本語発音とコミュニケーション能力を身につけさせます。日本語教育だけではなく、日系企業見学や日本短期研修、日本文化体験など授業外活動を常に開催しています。多言語センターの方針は「多一门外语,多一个世界(一種類の外国語をマスターすることにより、もう一つの世界が広がる)」で、日本語を一つの手段として、「日本」という世界のドアを開く方法を学生に提供します。

Q4.

 海淀外国語学校での日本語教育の成果が芽生えている中、今後欧米教育と同じように日本教育機関と提携する計画がありますか。

A4:

 もちろんあります。本学に在学している日本語学習者が幼稚園児童から高校生までいます。これらの学生に日本へ進学するチャンスを提供することを考えています。高校進学、大学進学、冬・夏キャンプ、短期研修、中長期編入および姉妹校締結などの交流活動に強く興味をもっています。近い将来、日本の高校や大学との提携によって、本学学生の更なる活躍を大いに期待しております。

 ちょうど今年7月の夏休みに、海淀外国語実験学校の20名の中学2年生が香川県で日本の中学校と短期交流プログラムに参加しました。

活動記録:https://mp.weixin.qq.com/s/MWhPhvsgA9g2-qAjuBrnPQ

 より多くの学生に日本へ留学できる道を開かれることを願っております。お忙しい中インタビューを受けていただき、誠にありがとうございました。

海淀外国語教育グループについて

 グループ内には、北京市海淀外国語実験学校、北京市海淀国際学校、北京市海淀外国語実験学校付属幼稚園、北京市海淀外国語実験学校武漢キャンパス、北京市海淀外国語実験学校海南キャンパス、アメリカニュージャージーキャンパス、アメリカミシガンキャンパス、アメリカノースカロライナキャンパスなど多数支部機構があります。また、イギリス、オーストラリア、アメリカなどにおいて、計13ヶ所の言語実習基地を有しています。

HP:https://www.bjfles.com/


※本稿は、JTB日中教育交流センターが発行しているメールマガジン「当事者に聴く中国教育事情」2018年・第68号を、JTB日中教育交流センターの許可を得て編集し転載したものである。

筆者より

 「当事者に聴く中国教育事情」は2010年に中国現地にいる日本留学志望者に資するために設立した大学連合事務所の定期情報として発刊しました。2015年4月に現在の名称・体裁に変更しました。私たちは中国の学生向けに日本の大学について定期的に情報を提供しておりますので、より多くの日本の大学と情報交換したいと思います。ぜひお気軽にご連絡ください。

 E-mail: image(代表) mail(王璨)