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【18-08】中国の「私立国際学校」について―当事者に聴く中国教育事情

2018年12月6日 王璨(JTB日中教育交流中心)/日本語校正 伊藤裕子

はじめに

 前号、中国の初高等教育の国際化について北京の私立国際学校の例を取り上げましたところ読者様から高い関心をいただきました。今回は中国の私立国際学校について近年の動向と情報を収集しました。

現状

 前回 紹介しました2017年度全国教育事業発展統計公報の、民弁教育(私立教育)に関するデータでは、中国全土の各類別私立学校は17.76万校あり、前年度より6,668校増加し、全国学校数の三分の一以上を占めています。また一年間の入学者数は1,721.86万人で、前年度より81.63万人増加しました。合計在学生は5,120.47万人で、全国の各類別学校の在学生数のおよそ25%を占めています。

 逆に公立学校は、小学校1.06万校減、中学校224校減、高校93校減という減少傾向にあります。

 また、近年発表された中国における海外留学のデータによれば、海外留学の低年齢化が顕著になってきています。このような状況によって「私立国際学校」という特別な教育機関が続々と開設されはじめました。今では「需要に供給が追いつかない」という事態にまでなっています。

 中国における国際学校の定義は3種類あります。

①.外国人子女学校

 一般的には、中国に駐在している外国機関、外資会社、国際組織の駐中国機関などが設立した国際学校(International School)を指しています。外国籍を有している学生を募集しています。中国国籍の学生を募集することはできません。

(例:北京日本人学校、上海日本人学校、ドイツ駐中国大使館学校など)

②.公立学校の国際教育コース&国際部

 教育部の許可により公立学校が開設したコースや部門になります。国際教育コースは外国の学校と提携し「合作合弁学」として中国国籍の学生に対して国際教育システムを実施します。大部分の卒業生は海外の大学に進学し、少数は中国の「高考」に参加します。一方国際部は外国籍の学生を募集し英語又は中国語で授業をします。

(例:上海中学国際部、人民大学附属中学国際部、清華大学附属中学国際部など)

③.私立国際学校

 民間組織や個人が投資して設立した国際的な教育システムを実施する学校になります。基本的には中国国籍の学生のみ募集するが、外国籍の学生を募集するには当地の教育局から許可をもらわなければなりません。海外へ留学することを目的にしているため、海外の教育システム(国際バカロレア、AP課程、GCEなど)を導入しています。

(例:海淀外国語実験学校、北京市王府学校、楓葉国際学校など)

 現在、中国国内で話題となっている「国際学校」はこの私立国際学校を指しています。

背景

 「国際学校」という言葉を検索すると、たくさんの私立国際学校のサイトと新開設の国際学校のニュースが出てきます。その中には民間企業の資金で設立された国際学校もあります。

 1994年に中国の不動産会社カントリー・ガーデン(碧桂園)が広東省に「広東碧桂園学校」を設立し国際バカロレア課程を実施したのを先駆けとして、2013年に大手IT企業テンセント(Tencent)が深セン市に「明徳実験学校」を設立し、2015年に不動産企業バンカ(万科)が深セン市にある会社本部に「万科梅沙書院」を設立しました。2017年には中国華為(HUAWEI)が清華大学附属中学と提携して広東省東莞市に「愛為書院」を開設しました。最近のニュースでは、ユニコーン企業として知られている中国アリババグループ創立者のジャック・マー氏の故郷である杭州に「雲谷学校」を設立し、画期的な教育システムを導入しました。

 現在の中国は経済的に豊かな「70後(1970年後生まれた世代)」が親世代になり、中国の伝統的な「受験のための教育」に限界を感じるようになりました。十数年前は国際学校に通うには富裕層家庭でないと費用を負担できませんでした。国際学校の学費が公立学校の百倍以上もするからです。例えば、北京において公立高校の学費(年間)が2.5万円程度に対し、私立国際学校の学費(年間)は約260万円となります。

 現在は中国の経済発展とともに、ミドルアッパー層の家庭も増えてきます。収入が高くなればなるほど、自分の子供により質の高い教育を受けさせたいという希望もそれにかける費用も高くなります。国際学校はまさに「70後」のミドルアッパー層の親たちの需要を満たし、中国の主要都市や地方都市で事業を発展させています。

 先ほど、民間企業の国際学校開設への投資事例を挙げましたが、90年代に不動産会社の国際学校への投資が始まったのは、不動産会社がクライアントのマンション購入者により良いサービスを提供するためでした。当時マンションを購入できる人はほとんど富裕層で、国際的な視野を持ち、子供に国際教育を受けさせることを意識していました。マンションを売るには、団地内の学校設置が一つの付加価値として認められています。加えて中国には厳しく管理されている大都市の戸籍政策があり、特に北京や上海などの大都市の重点学校に入るには当地の戸籍が無いとお金があっても入れないのです。このような背景が戸籍に条件をつけず入学できる私立国際学校の発展に拍車をかけました。2005年から2014年の十年間に私立国際学校は約400校も増えました。これからも増え続けるだろうと言われています。

 グローバル化が進んでいる現在、経済はもちろん人材交流もグローバルになっています。教育のグローバル化はもう無視できません。また、国際的な教育システムを実施することによって、学生の個性を引き出し、外国語能力を向上させ、広い視野を育てることができるようになります。

 中国においては、教育資源の配分や大都市の戸籍・教育問題など、様々な政策や社会問題があったため、国際教育に対する需要がさらに高まっていくと思われます。


※本稿は、JTB日中教育交流センターが発行しているメールマガジン「当事者に聴く中国教育事情」2018年・第69号を、JTB日中教育交流センターの許可を得て編集し転載したものである。

筆者より

 「当事者に聴く中国教育事情」は2010年に中国現地にいる日本留学志望者に資するために設立した大学連合事務所の定期情報として発刊しました。2015年4月に現在の名称・体裁に変更しました。私たちは中国の学生向けに日本の大学について定期的に情報を提供しておりますので、より多くの日本の大学と情報交換したいと思います。ぜひお気軽にご連絡ください。

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