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【19-01】常州工程職業技術学院:グローバル化人材の育成で「先手を打つ」

2019年1月15日 過国忠(科技日報記者)/雷寧(科技日報実習生)

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(画像提供:常州工程技術学院)

 改革開放(1978年)から40年、中国の職業教育は急速な発展期に入り、人材育成は、「数」から「構造」への最適化が進み、模索から、大規模発展、そして、質の向上へと、中国の特色ある教育の道を歩んできた。

 新時代に入り、職業教育のグローバル化、モデル転換において、グローバル経済、社会の発展に溶け込むというのがポイントとなっている。では、高等職業学校は、いかに新しい情勢に適応して、モデル転換しながら、戦略も確実に進めればよいのだろう?

 「一帯一路」産業と教育の融合のイノベーション・大学と企業の協力国際フォーラムが江蘇省常州市で12月15日に開幕するのを機に、国家高等職業学校教育総合改革試験区「常州科教城」を訪問し、関連の重点高等職業学校を取材した。

 高等職業教育の中でも、「常州科教城」内の高等職業学校は、ハイレベルな技能型グローバル人材を育成する点で、その必要に最も早く気付き、舵切りをし、確実な取り組みを行って、中国職業教育のグローバル化発展のために、新たな経験や成功のノウハウを提供してきた。常州工程職業技術学院(以下「常工職院」)もそのうちの1校だ。

ノウハウ1 トップレベルデザイン、プラットフォーム構築、世界に照準

 「常工職院」の党委員会書記・王光文氏は、「中国企業が海外進出を果たすためには、技能型人材が必要だ。また、一帯一路参加国と、政治、経済の面で交流するには国際的な人材が必要だ。そのため、高等職業学校にとっては、『一帯一路』の構想に足並みをそろえるのは、とてもやりがいのあること」と話す。

 王氏は、高等職業学校にとってはやりがいがあるばかりでなく、大いに実力を発揮する必要があると言う。高等職業学校は、より積極的に、発展の理念や指導方針の面で、世界との違いを探し、「一帯一路」建設の要求を満たし、各学科と「一帯一路」関連の政策、参加国の産業発展、教育の需要などとの融合性を向上させなければならない。

 「常工職院」の呉訪昇院長は、「職業教育のグローバル化実現には、長期的な発展のための時間が必要であり、様々な分野が関係している。そのため、はっきりとした思考、統一した目標、資源の最適化、統合がカギとなる。チャンスを確実に捉え、トップレベルデザインをしっかりと行い、積極的にフォローアップし、プラットフォームを構築し、世界との違いを探し、新たな要求を満たさなければならない」との見方を示す。

 2015年、「常工職院」は、ドイツやオーストラリア、韓国などとの国際協力を展開したうえで、それまでの協力の中で存在していた問題をフォーカスした。同校は、高等職業学校教育と世界基準のマッチングというニーズに立脚し、学生のグローバル化成長という需要に目を留めて、提携のメカニズムをイノベーションし、協力交流プラットフォームを構築し、教師の資質であるグローバル化能力を向上させ、飛躍的に教育のグローバル化を実現させた。

 「常工職院」継続教育・国際交流学院の管衛東院長は、「この10年間、『常工職院』は、『海外からの誘致』や『海外進出』に取り組み、学校運営のグローバル化の『荒地』からモデル転換し、『一帯一路』の建設をサポートする『緑地』の建設へステップアップした。。質的変化を実現できたカギは、研究機関、友好交流プラットフォーム、国際言語センター、海外分校、海外人材育成拠点の5つを構築する革新的プロジェクトを実施したことだ」と話す。

 近年、「常工職院」は、中共常州市委党校や常州市商務局と協力して、「一帯一路」研究院分院を設置し、国別研究を基礎にして、国家職業教育の面の海外支援、海外での高等職業学校の運営、企業の海外進出戦略、発展途上国の職業教育発展の研究などを展開している。また、留学生の常州での学習や生活、実習、就職などをサポートするプラットフォームやサービスも提供している。

 この他、「常工職院」が、中国ミャンマー友好協会、マンダレー・ミャンマー中国友好協会、常州市外事弁公室と共同で常州に設置した「中国・ミャンマー文化交流センター」は、両国の教育、文化、テクノロジーなどの分野における交流の架け橋であり、かなめとなっている。「常工職院」に国家級普通話(標準中国語)試験センターがあるというメリットを活かして、中国語検定・HSKトレーニングセンターの立ち上げが認可され、常州地区の大学やその周辺都市の外国人留学生のためのHSK試験に向けた学習サービスを提供している。

 ミャンマー教育部技術・職業教育司やミャンマー・マンダレー福慶孔子課堂と共同で設置した常州工程職業技術学院マンダレー分校は、ミャンマーの学生や職業学校の教師を対象にした中国留学あるいは研修のためのカリキュラムを提供すると同時に、中国の伝統文化や現地の経済発展を熟知し、今必要とされる技術・技能型人材を育成している。

 現在、「常工職院」は、オーストラリアやカンボジア、ミャンマー、ネパールなどとも、友好協力関係を構築しており、19ヶ国から来た留学生160人を受け入れているほか多くの、「一帯一路」参加国の多くの学生を対象に短期研修を実施している。

ノウハウ2 メカニズム整備、ブランド構築、質で勝負

 王光文氏は、「グローバル化運営において、量ではなく質にこだわるという原則を貫き、メカニズム整備、ブランド構築を通して、一歩一歩着実に前へ進み、質で勝負している」と話す。

 ミャンマー出身の陳丹さんは、「常工職院」の中国ミャンマー職業教育プロジェクトクラスの学生だ。中国とミャンマーの違いについて、陳さんは、「ミャンマーの大学では、私の専攻学科は6年制で、初めの4年はただ理論を学ぶだけで、実践は全くない。最後の2年間でようやく実践に携わる。一方、この学院では、各学期に実践の機会がある。実践は、理論を検証する唯一の基準でもあるので、このほうが、理論、知識を理解できるし、はっきりと記憶しておくこともできると感じている。」と語る。

 「常工職院」の周勇副院長によると、中国ミャンマー職業教育クラスは、「一帯一路」参加国が政府派遣する留学生を育成したり、海外進出する中央企業(中央政府直属の国有企業)、国有企業が特定の目的を持って外国人留学生を育成したりするために展開する学歴教育プロジェクトの一つだ。その他、同校は、中国教育部が2014年に制定した革新技術技能人材育成スタイル「現代学徒制」を採用して、中色鎳業(ミャンマー)有限公司、安徽海螺水泥股份有限公司などと共同で開設したクラスもある。現在、中色鎳業のプロジェクトは「留学江蘇」優秀人材厳選計画(TSP)にも認定されている。

 管院長は、「当院は、高等職業教育の分野の先進国、地域との交流、協力を全面的に強化し、学生の交換留学や単位互換の協力メカニズムを構築してきた。そして、交流(交換)留学、専門分野の訪問学習、海外実習、文化交流などのプログラムを積極的に展開し、海外で短大から学部へ、学部から修士課程へ進学するルートを提供するほか、国際技能コンテストへの参加を奨励し、国際的な視野を持ったハイレベルの技術技能人材を育成している」と話す。

 教育の第一線で働く「常工職院」の教師・姜沢東さんは、この過程を実際に目にした。「私は、2007年から2010年の4年間、国際溶接資格や国際溶接管理技術者の試験に合格するため、3回ドイツに行って学び、試験を受けた。でも、今は、学院がドイツの手工業会議所(HWK)と共同で、中独国際溶接技術訓練・試験センターを設置したため、資格を取得したい学生は、学校にいながらそれが可能になった」と説明する。

 変化したのは試験の実施場所だけではない。「『一帯一路』参加国との交流、学校のグローバル化運営の推進の過程で、我々は、ドイツ、オーストラリア、台湾、香港の職業資格認証体系を段階的に採用してきた。そして、専攻学科のカリキュラムと国際職業資格証書のマッチングを推進している」と管院長。

 陳さんと同じく、張文傑さんも、中国ミャンマー職業教育プロジェクトクラスで学ぶ、ミャンマー政府派遣の留学生だ。ミャンマーで自動車修理を専門に学んでいた張さんは、同クラスでは溶接を専門に学んでいる。「ミャンマーで、国際溶接資格を取得している人は少ない。世界で通用する職業資格を取得すれば、将来の仕事にも役立つ」と張さん。

 国際交流を強化して、「一帯一路」の建設に貢献する過程で、教師らの能力が向上し、教育レベルも上がり、高等職業学校のモデル転換・高度化、質の向上、最適化の基礎が築かれていることを、事実は証明している。

 王氏は取材に対して、「政府の『一帯一路』イニシアティブに足並みをしっかり合わせ、海外からの招聘、海外進出という当学院のグローバル化運営理念を堅持し、中国内外の業界、企業、職業教育資源を効果的に組み合わせ、産業と教育の融合と深化を推進し、大学と企業のスムーズなマッチングを実現して、企業の海外進出をサポートし、同時に、海外進出する企業の生産、経営のために必要な現地の人材を育成している。創設60周年を祝うハイレベル発展大会が開催されるのを機に、当学院は、『一帯一路』産業と教育の融合のイノベーション・大学と企業の協力国際フォーラムを開催し、『一帯一路』建設に関する活動をPRする」と説明した。


※本稿は、科技日報「常工職院:下好国際化人才培養"先手棋"」(2018年12月12日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。