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【22-02】中国で加熱する人工知能教育 教師育成が課題

張盖倫(科技日報記者) 2022年05月18日

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画像提供:視覚中国

「調査対象となった学校の半数以上が人工知能教育活動をすでに展開、または展開に向けた準備を進めていたものの、質の高い授業を行える教師が不足しているほか、カリキュラム体系が十分に整備されていないことが課題となっており、解決が急務だ」。これは、「2022年人工知能教育青書」(以下「青書」)が指摘する人工知能教育の課題の一つだ。

 中国教育科学研究院と華東師範大学はこのほど、騰訊(テンセント)と共同で人工知能教育シンポジウム並びに「人工知能教師能力基準(試行)」(以下「基準(試行)」)「青書」成果の発表会を開催した。「基準(試行)」と「青書」は、人工知能教育の実践を指導するのが目的で、人工知能教育の現状も描き出している。

 現在、教師陣の育成が中国の人工知能教育において依然としてカギを握る課題となっている。

 調査対象となった小中高校では、人工知能カリキュラム・教育活動に参加している教師が少なく、人工知能カリキュラム専門の教師となると、ごく限られているのが現状だった。そして、調査を受けた大半の教師は、「人工知能の専門的知識や関連ツールの習得程度」について、「普通」と答えた。このほか、既に開設されている人工知能カリキュラムも、学生に人工知能について知ってもらい、体験してもらう段階にとどまっていた。

人工知能が教育と融合しながら発展

 中国教育部(省)科技司情報化処の任昌山処長はシンポジウムで、「現在、人工知能をはじめとする新世代情報技術と教育の融合が深化しており、ネットワーク化、デジタル化、スマート化への加速的なトランスフォーメーションの大きな流れを示している。世界の主要国は、人工知能教育のコア技術、プラットフォーム、製品、基準といった分野に続々と焦点を当てるようになっており、人工知能による教育のデジタルトランスフォーメーションへのエンパワーメントを積極的に模索・推進している。そして、新型コロナウイルス感染症の打撃を受けながら、人工知能を含む新技術が、私たちに将来教育の巨大なポテンシャルを示してくれている」との見方を示した。

 実際には、人工知能と教育の融合発展のために、中国は一連の対策を講じている。

 任処長によると、基礎作りの面で、中国は「教育の新型インフラ整備の指導的意見」を打ち出し、人工知能やビッグデータとった技術を駆動力として、ネットワーク、プラットフォーム、資源、キャンパス、応用、安全からなる六位一体教育新興インフラを構築し、教育のデジタルトランスフォーメーションへの転換、スマート高度化、融合のイノベーションを推進している。また、2陣に分けてスマート教育モデルエリアの創設エリアを計18ヶ所設置し、人工知能を含む情報技術を活用して、教育理念の刷新、教育スタイルの変革を推進している。そして、人工知能による教師陣の育成バックアップテスト事業を始動し、46地域、56大学で、スマート技術と教師陣育成の融合を一歩踏み込んで推進し、人工知能を駆使した環境の教育社会実験を展開し、実験地域10ヶ所と19拠点を頼りに、人工知能が教育ガバナンス近代化をエンパワーメントする効果的なルートを模索している。また、3年連続で、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)と共同で、北京で国際人工知能・教育会議を開催し、「北京宣言」を発表してきた。

 中国教育発展戦略学会未来教育専門委員会の呉砥副会長は、「小中高校の段階の人工知能教育に言及する時、2つのレベルの意味が含まれることが多い。1つ目は、人工知能関連のカリキュラムを開設し、学生が人工知能技術に興味を持ち、技術に対する理解を深めて、活用できるようにすると同時に、人工知能のリスクに対する意識を高めてもらう。2つ目は、人工知能技術を活用して、教育、管理、評価を最適化し、教育の質の高い発展を促進すること、つまり、人工知能が教育をエンパワーメントすることだ」と説明する。

 そして、「たくさんの学校に接触する中で、ニーズは教室、教材、教師に集中していることが分かった。実際には、教室と教材の不足は解決が比較的容易で、多くの企業が比較的成熟した人工知能製品を提供することができるほか、多くの出版社が関連の教材を出版して、関連のカリキュラムの教育資源も提供している。しかし、教師の不足は、短期間に解決できる問題ではない。資格ある教師の育成には明確な基準が必要であるほか、関連の育成・トレーニング体制も必要だ」と指摘する。

教師の能力強化が急務

 調査データも、呉副会長のような見方が普遍的な意義があることを示している。

 テンセント教育とテンセント研究院は、中国教育科学研究院、華東師範大学と連携して、半年かけて、中国の25省・市の学生16万人、教師2万人余り、校長1000人余りを対象にアンケート調査を展開し、それをもとに「青書」を作成した。

「青書」の課題グループは、学校の管理職層は人工知能カリキュラムを積極的に推進しているものの、教師の能力育成やカリキュラム体系の整備が急務になっていると分析している。調査の対象となった小中高校では、人工知能カリキュラム・教育活動に参加している教師が少なく、人工知能カリキュラム専門の教師となると、ごく限られているのが現状だった。そして、調査を受けた大半の教師は、「人工知能の専門的知識や関連ツールの習得程度」について、「普通」と答えた。このほか、既に開設されている人工知能カリキュラムも、学生に人工知能について知り、体験してもらう段階にとどまっていた。

 人工知能カリキュラムは、学際的カリキュラムで、非常に先端性を持っている。その内容は関係する分野が幅広く、刷新スピードも速いため、人工知能カリキュラムの教師は、自身の知識やスキルを常に最新の状態に保っていて初めて、カリキュラム発展の需要に対応することができる。

 華東師範大学の顧小清教授は、「青書」を解説する際、「調査に答えた教師1万5080人が、人工知能技術を使ったことがあると答えた。課題グループは、その教師を対象に、高等教育段階の関連カリキュラム・トレーニング参加状況を調査し、分析したところ、高等教育の段階で人工知能技術を教育に応用することに関するカリキュラム・トレーニングを受けたことがあるのは、3割近くしかなかったことが分かった」と説明する。

 そして、「これは、人工知能分野における教師の能力が低い現状の説明になるかもしれない。高等教育段階の教育は、教師が人工知能に触れる第一歩となる。第一線に立つ大半の教師が高等教育段階で人工知能カリキュラムを開設することに強く賛同していることは喜ばしい。これは、今後の教師教育のための基礎となる」との見方を示す。

人工知能教育は単なる技術の学習ではない

 北京大学教育学院の汪瓊教授は、科技日報の取材に対して、「まず、人工知能カリキュラムでは、他の情報技術と同じで、学生に技術を理解し、認識してもらう必要がある。また、学生が将来のことを想象したり、予見したりする能力を育てるようにもしなければならない。ある意味で言えば、人工知能教育は、単に技術の教育ではなく、将来の社会発展に対する認識も、この類のカリキュラムに組み込むことができるだろう」との見方を示した。

 北京教育学院情報学院の于暁雅教授は、「資格ある教師がいなければ、人工知能をめぐる素晴らしいビジョンをどれだけ語ったとしても、無意味になってしまう可能性がある。実際のシーンや実行可能な応用を見つけることが、教師育成のベストなルートだ」とし、「教師を育成するには、結局は教育方法の変革に戻る必要がある。これまでと同じ方法で教育を行っていれば、いわゆる人工知能カリキュラムというのは、単なる技術の学習でしかなくなる」と強調する。

「『人工知能を使って詩を書く』というテーマの授業をしたいという教師がいた。では、技術について説明し、高校生に自然言語処理のモジュールと人工知能を活用して詩を書いてもらえれば、授業の目標が達成できたのだろうか?私はそれでは不十分だと思う。問題を探し、生活のシーンにおける問題を考え、カリキュラムと問題解決を関連付けなければならない。例えば、人工知能を活用して書いた詩歌が、人が書く詩歌を超えるようにしたり、人工知能を活用して書いた詩と、人が書いた詩にはどんな違いがあるのかを考えたりすることはできないだろうか?そのようにすると、プロジェクト式の学習内容になる。単に技術を学生に教えるだけでは、教育改革の目標は達成できない」と指摘する。

 人工知能の教師は、どのような能力を備えるべきだろうか?「青書」の調査研究をもとに、中国教育科学研究院未来学校実験室の王素室長は、専門チームを立ち上げ、その問題に対する答えを求めた。

 今回発表された「基準(試行)」は、人工知能の理解・意識、基本知識、基本技能、問題解決、教育実践、倫理・安全という、6つの次元から人工知能の教師に対する要求事項を明確にしている。

 例えば、教育の実践の面では、「基準(試行)」は、「教師は、人工知能カリキュラム基準の要求や利用可能な人工知能教育設備の状況に基づいて、インストラクショナルデザインの方法やツールを活用し、カリキュラム・教育を展開しなければならない。また、その他の学科の教師が各種人工知能教育の応用方法を熟知するようサポートするほか、その他の学科の教師が人工知能技術やツールを積極的に応用して教育の実践を最適化するよう指導しなければならない」としている。

 王室長は、「『基準(試行)』は、人工知能の教師が教育において効果的に人工知能教育活動を展開するよう規範化、牽引する重要なガイドとなるほか、各学校が人工知能の教師育成やトレーニング、評価を展開するための参考、拠り所ともなり、小中高校が人工知能カリキュラムの下支えともなるだろう」との見方を示した。


※本稿は、科技日報「人工智能教育火熱 師資隊伍建設跟上節奏了嗎」(2022年4月7日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。