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【22-04】基礎教育を担う教師を養成する「強師計画」

張盖倫(科技日報記者) 2022年05月31日

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画像提供:視覚中国

「強師」の目的は、教師の学歴レベルを高めるだけでなく、教育を強化して国を振興することだ。教育というのは積み重ねていくもので、下の学年の教育を担う教師のレベルが低ければ、上の学年の教育を担う教師のレベルがどんなに高くても、前期教育で蓄積されたウィークポイントを補強することはできない。そのため、システム理論的な思考で、『強師計画』の中の『強師』の内包を考えなければならない。

劉益春  中国科学院院士、東北師範大学学長

 中国は世界的に最大規模の基礎教育体制を構築しており、2021年の在校生は2億3300万人、専任教師は1586万人に達した。

 中国の教育部(省)を含む8当局が最近通達した「新時代基礎教育強師計画」(以下「強師計画」)は基礎教育の教師人材育成を強化する措置15項目を打ち出している。

 同計画には、二段階の目標が含まれている。第一段階は、2025年に、複数の国家師範教育拠点を設立し、再現と普及可能な教師の人材育成改革の経験を積み、修士号を持つ小中高校の教師、教育のリーダー的人材を育成し、師範大学のモデル、地方の師範大学を主体とした農村教師養成サポートサービス体制を整備し、低開発地域の小中高校の教師が不足している状況を少しずつ改善し、専門化、基準化された教師の育成を実現し、教師の発展が力強く確実に進むよう取り組み、教師陣の管理サービスのレベルを大幅に向上させることを目標に掲げている。二段階目は、2035年に、教育の近代化や教育強国建設の要求に適応し、開放的で、協働、連動するハイレベルな教師教育体制のほか、整備された教師の専門能力開発メカニズムを構築し、教師の数と質が、基礎教育の発展のニーズをほぼ満たすようにし、教師陣全体の素養や教育の水準を大幅に向上させ、教師を尊敬し教育を重視する気風を高めることを目標としている。

高学歴で教育家型の教師が相対的に不足

 教育部教師活動司の任友群司長は、同部が最近開催した記者会見で、「中国は既に世界最大規模の基礎教育教師陣を整備しており、教師の数、規模の問題が歴史的に解決され、教師という職業の魅力が大幅に増強されている。しかし、教師陣の質や構造、配置、管理体制メカニズムといった面では依然として課題が山積みで、トップレベルデザインや特別政策による対応が急務だ。基礎教育の教師の能力、素養という面のニーズはほぼ満たされているものの、高学歴で教育家型の教師が不足している」と指摘した。

 基礎教育は、国民教育体制における基礎をなすほか、先導的な立場にある。基礎教育教師が専任教師に占める割合は86%に達しており、学生のリード役、基礎の基礎、先導の先導となっている。

 北京師範大学の党委員会書記を務める中国教育・社会発展研究院の程建平院長は、「現在、中国の基礎教育発展の主要な問題点は既に根本的に変わっており、教師陣の質の高さが、中国が教育の近代化の継続的な推進に根本的な影響を与える要素となっている」との見方を示す。

 近年、名門校の修士課程、博士課程修了者が小中高校の教壇に立つようになっていることが大きな議論を巻き起こし、「人材の無駄遣い」とさえ見られている。具体的な関連統計を見ると、2020年の中国全土の中学校の専任教師のうち、大学院卒業の学歴所有者の割合は4.0%、普通高校の専任教師の同割合は11.5%だった。それに対して、2018年、英国やフランス、日本、韓国、オーストラリアの小学校の教師のうち、学部以上の学歴所有者はいずれも90%以上に達しているのは非常に対照的だ。欧州連合(EU)諸国や経済協力開発機構(OECD)加盟国の中学校教師を見ても、大学院卒業以上の学歴所有者はそれぞれ57.0%と45.5%となっている。

「強師」とは何を意味するのだろう?単に教師の学歴を高くするということではない。中国科学院の院士で東北師範大学の劉益春学長は、「『強師』の目的は、教育を強化して国を振興することだ。教育というのは積み重ねていくもので、下の学年の教育を担う教師のレベルが低ければ、上の学年の教育を担う教師のレベルがどんなに高くても、前期教育で蓄積されたウィークポイントを補強することはできない。そのため、システム理論的な思考で、『強師計画』の中の『強師』の内包を考えなければならない」と指摘する。

 また、「私は『強師』の『師』は、個人レベルでの専任教師だけでなく、全体的な意味における教師陣を指すと考えている。また、『強師』の『強』は、大規模な現任の教師陣や、潜在的教師陣を有していることのほか、それが素養の高いプロフェッショナルなイノベーション型教師陣であるかどうかを指している」と説明し、「『強師』は、(1)教師陣体制の質が高い(2)教師資源の配置が公平(3)教師陣のガバナンスメカニズムに活力がある――という3つの内包を兼ね備えているべきだ」との見方を示す。

師範教育の質の高い発展の牽引役を育成

 中国政府は近年、師範教育を継続的に強化しており、現在、師範大学が215校、教師の養成に参加する非師範大学が約500校あり、中国の特色ある教師養成体制がほぼ構築されている。

「強師計画」は、「師範大学のハイレベルなリードのもと、国家師範教育拠点の建設を支援し、師範教育の質の高い発展の牽引役、先導者を育成する」という明確な目標を掲げている。

 華東師範大学党委員会書記の梅兵氏と同大教育学院の周彬院長は、ハイレベルの師範大学を建設するためには、以下の3つの面の継続的な発展やブレイクスルーが必要であると指摘する。1つ目は、師範大学の学生の学科的理解力や素養を向上させ、学科の知識の伝授者から学科的素養の育成者へと変わるようにすることだ。2つ目は、師範大学の学生の学術的素養や総合的な素養を向上させ、学生がさらに高い学術的品位、人生に対するスタンスを確実に身につけるようにすることだ。3つ目は、師範大学の学生の知的素養や将来の参加能力を向上させ、卒業して教師になった後も、将来の教育に適応していくことができるようにすることだ。

 優秀な師範大学の学生のイメージ像について、梅氏と周院長は、「善良で正直、かつ国の一員として国のために尽くすという強い思いを持っている人で、学科の全面的な知識を持ち、それを深く理解していて、教育理論を構築しながらそれを実践できる人だ」と解説する。

 また、「ハイレベルな国家師範大学は、質の高い学生を養成すると同時に、質の高い学生の教育経験や養成スタイルを蓄積し、良いものを選び出し、さらに、教師の教育研究、教師の教育学科建設、教師教育シンクタンク建設などの面に貢献しなければならない」と指摘する。

「強師計画」の師範大学に対する要求や期待は非常に高い。劉学長は、「師範大学は、責任を担い、政府も『強師』をめぐる資源配置や政策誘導、統一した計画の面で役割をしっかりと果たさなければならない」との見方を示す。

 そして、「資源配置の面で、政府は、教師養成への資金投入をさらに強化し、師範大学への割当金が高い水準を維持するようにしなければならない」と指摘する。

 また、ハイレベルの教師教育には、ハイレベルな学科発展の下支えが必要となる。中国政府は現在、「双一流」(世界一流大学・一流学科)の建設を積極的に推進しており、地方政府も地方の特色ある「双一流」建設プロジェクトを次々と打ち出している。各級政府は、これら重点建設プロジェクト、資源を、教師教育に重点を置き、ハイレベルの教師教育学科を建設することができる。

「強師」の実現には教育資源の公平な配置が不可欠

 北京師範大学の専門家チームが20以上の省(自治区・直轄市)の100以上の県を対象に実施した調査研究によると、中国の基礎教師陣建設が現在、大きく進展している一方で、各地の教師陣の構造や質には明らかに差があり、低開発地域では、教師が不足しているほか、つなぎ留めることが難しく、さらに、教育の質が悪いといった問題が依然として際立っている。

 劉学長は、「『強師』を実現するためには、『公平』がカギとなる。教師資源の公平な配置は、師範教育体制をしっかりと構築することが基本前提となる。そして、素養が高く、プロフェッショナルなイノベーション型教師を養成する、つまり、『パイを大きく作る』ことが必要だ。教師資源の公平な配置は、優秀な教師を呼び込むメカニズムを構築し、全ての学校が優秀な教師を招聘することができるようにして、『パイを公平に分配する』ことを全体的な目標としている」と強調する。

 任司長は、「質の高い発展は、バランスが取れていることが前提で、低開発地域、特に低開発地域の農村の教師陣建設を前面に押し出さなければならない。教育部は2021年に『優師計画』の実施を始め、教師のターゲットを絞った養成を強化している。同計画のサービス提供対象は、貧困を脱却した832県や中国中・西部の陸上国境のある県で、これら県にターゲットを絞った学部レベルの教師を養成している。2022年に教育部直属の師範大学の『優師計画』の学生募集人数はさらに増加するだろう。また、各地方が師範大学の学生を公費助成対象とするよう引き続き奨励し、省内の優秀な師範大学や教師を養成する学科を活用して、辺境と貧しい地域のために教師を公費で養成し、農村の学校のために必要に応じてさらに基礎教育教師を養成しなければならない」との見方を示す。

 教師のキャリアアップという面では、中国政府は2010年から、幼稚園・小中高校の教師国家級育成計画を実施して、中・西部農村地域の教師、校長の専門能力開発を集中的に支援している。任司長は、「第14次五カ年計画(2021‐25年)期間中、国は財政サポートを強化し、ターゲットを絞った教師養成改革を推進し、教師養成の情報化水準を向上させ、中・西部の低開発地域の農村の中堅教師、校長の養成を重点的に展開し、国家農村振興重点支援県が全面的にカバーされるようにしなければならない」との見方を示す。

 第14次五カ年計画期間中、「師範教育協同質向上計画」と「小中高校教師発展協同質向上計画」の実施が始まり、ハイレベルな師範大学がチームを立ち上げ、地方の手薄な師範大学約30校を支援し、低開発地域の教師養成能力を増強し、ハイレベルな教師発展機関がチームを立ち上げて国家農村振興重点支援県の教師発展機関をサポートし、現地教師の専門能力開発を自ら実現できるよう取り組む計画だ。

 任司長は、「一人でも多くの教育を心から愛し、志ある若者が、師範大学で学び、教師になって、祖国が最も必要としている場所で教育を施して、人材を育成し、農村教育振興事業という時代の使命を担うことを願っている。師範大学は、農村で教師となっている卒業生の永遠の後ろ盾となり、卒業生の専門能力開発に継続的に注目・追跡しなければならない。特に厳しい環境の貧困地域で教師をしている卒業生が、低開発地域の教育の質の高い発展を下支えできる優れた教師になるよう育成しなければならない」との見方を示す。


※本稿は、科技日報「培養基礎教育的"大先生"強師計画劃不只提高教師学歴這一招」(2022年4月28日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。