【22-07】なぜ中国でスペシャリゼイションを設置する大学が増えているのか

葉 青（科技日報記者）／杜 清　肖 明（科技日報通信員）　2022年07月27日

　広東工業大学初の「スマート建造」スペシャリゼイション開設のオープニングセレモニーで、初の学部新入生50人は、「職人の精神を受け継ぎ、一流の人材へと成長したい。私たちは2021年入学のスマート建造実験班！」と、熱意あふれるオープニング宣言を行った。広東工業大学は今年、スペシャリゼイション開設プロジェクトを始動した。各学院に少なくとも1つのスペシャリゼイションを開設し、科学研究や企業資源を十分に活用し、小さくてもクオリティの高い特色ある人材育成プロジェクトを構築する計画だ。

　実際には、スペシャリゼイションというのは新たな試みではない。ここ数年、高等教育の人材育成の質を向上させる取り組みを徹底するために、中国の多くの大学がスペシャリゼイションを相次いで開設している。そして、人気が高まる一方のスペシャリゼイションが、人材育成のスタイル改革を成し遂げることができるかが、今後の教育体制において不可欠な部分となるのだろうか？

副専攻とは異なるスペシャリゼイション

　広東工業大学の教務処の肖明副処長は、「簡単に言うと、『スペシャリゼイション』とは、規模が小さく融通性のある専攻で、大学生が主専攻を基礎に、自身の興味やキャリアアップのニーズに基づいて、学際的知識を拡充し、工学の実践能力を増強する有効なチャンネルの1つだ。スペシャリゼイションは、主専攻を拡大させた延長上にあると同時に、学際的学科を実現するチャンネルの1つでもある」と説明する。

　例えば、広東工業大学が開設している「スマート建造」スペシャリゼイションでは、土木建築系の学生が、自動化やコンピューター、機械・電子といった学科の知識を選んで学ぶことができる。一方、コンピューターや自動化を専攻している学生も、土木工学の建造知識を学ぶことができる。山東大学が開設している17のスペシャリゼイションは、同大の10学院のバイオマイクロエレクトロニクス、多重知能、スマート交通・スマート建設といった数多くの専門から派生している。

　スペシャリゼイションと副専攻にはどんな違いがあるのだろう？肖副処長は、「副専攻とは、主専攻以外に選ぶ専攻。学生は、主専攻以外を除く学科を選ぶことができる。一方、スペシャリゼイションでは、主専攻をベースに、複数の学際的学科の先端知識や技術を学ぶ。スペシャリゼイションは柔軟に設置することができ、単一の基準はなく、大学の教員や企業の専門家が産業のニーズに基づいて、全体の計画や調整を行うことができる。そして、継続的に世代交代、最適化できる」と説明する。

　実際には、広東工業大学のほか、北京大学や中国伝媒大学、武漢科技大学、湖南工商大学いった大学も相次いでスペシャリゼイションを開設している。

　スペシャリゼイションを開設する大学が増えているのはなぜなのだろう？肖副処長は、「それは、デジタル化や人工知能の発展により、大学は学科や人材育成の改革を余儀なくされていることと密接な関係がある。以前、大学はあまりに細かく学科を設置していたほか、教育チェーン、人材チェーンと産業チェーンがうまく連結しておらず、テクノロジーの先端技術の発展を効果的に満たすことができていなかった。そのため、大学は科学と教育の融合、産業と教育の融合戦略を実施し、『6つの卓越人材・1つの傑出人材育成』計画2.0（"六卓越一拔尖"计划2.0）を全面的に実施し、学科改革を通して、スペシャリゼイションや学際的カリキュラムを開設し、新工科、新医科、新農科、新文科の『4新』建設を推進する必要がある」との見方を示す。

　ここ数年の中国の各大学の模索、実践を見ると、「スペシャリゼイション」を設置する際、テクノロジーの先端技術関連の専門・学科を選ぶケースが多く、戦略的新興産業と緊密に連携し、産業が必要としているイノベーション型、複合型人材を育成している。

大学によって異なる建設ルート

　中国の大学が現時点で開設しているスペシャリゼイションには主に2種類ある。その一つは、大学が開設している学際的カリキュラムで、大学系のスペシャリゼイションだ。もう1つは、職業技能習得をメインとしたスペシャリゼイションで、高等職業・高等専門大学の学生を対象としている。

　スペシャリゼイションは、大学が積極的に、新技術や新産業、新業態、新スタイルに対応する革新的措置であるほか、大学に、人材育成の新たなチャンネルを提供している。各大学は、それぞれの資源の特徴や将来の発展目標に合わせて、異なるスペシャリゼイションを設置している。

　例えば、武漢科技大学は2021年下半期から、スペシャリゼイション開設のテスト事業を行い、ビッグデータ技術と応用、スマート医学、イノベーション起業管理といった5つのスペシャリゼイションを開設している。同大がスペシャリゼイションを開設したのは、柔軟的で、体系的な育成を通して、学生が特定の分野で一定の学術的、専門的素養と業界での実践能力を身につけることで、大学を卒業した後、社会の発展のニーズにうまく適応できるようになり、就職活動における能力、競争力が高まるようサポートするのが狙いという。

　一方、山東大学がスペシャリゼイションを開設しているのは、学部と大学院段階の人材育成体制をリンクさせ、専門の育成案とキャリアアップのニーズのマッチング度を高めることが狙いという。そのため、同大のスペシャリゼイションでは、ハイレベル、かつ学際的で、チャレンジ的なカリキュラムが設置されている。

　広東省は経済が発展していて、市場はジャンルを超えた複合型人材を必要としている。広東工業大学が開設しているスペシャリゼイションは、広東省の「10大戦略的支柱産業・10大戦略的新興産業戦略（"双十战略"）」の1兆元(1元は約20.2円)級産業クラスター計画に焦点を合わせ、同省の経済発展に人材的サポートを提供している。

学生の学習に対する興味を引き出すスペシャリゼイション

　スペシャリゼイションは、学生が学術的視野を効果的に広げ、豊富な知識を蓄えることができるようサポートできるほか、自分が好きなスペシャリゼイションに加えて、多元化された知識体制を自ら選ぶことができるため、学生の学習に対する興味を引き出し、学生の学習効率を高め、大学が教育目標を効果的に達成できるよう推進し、学生の全面的な発展を促進できるというのもより重要な点だ。

　広東工業大学の「スマート建造」スペシャリゼイションの初の新入生となった、スマート建造実験班の班長・洪燁華さんは、「『スマート建造』スペシャリゼイションの初めての講義で、先生がコントロールシステムの基本的な知識を解説してくれた。それは、主専攻の勉強では出てこない知識で、私たちの視野と見聞を広げてくれた。スペシャリゼイションの講義はいつも週末にあるので、時間を十分に活用でき、専攻の勉強や将来の就職にも役に立つ」と語った。

　広東工業大学の学生は、1年生の2学期に、スペシャリゼイションの申し込みをすることができる。スペシャリゼイションを履修している学生は月曜日から金曜日までは主専攻の育成案に基づいて勉強し、週末はスペシャリゼイションの育成案に基づいて勉強している。そして、主専攻の卒業プロジェクト（論文）は、スペシャリゼイションの要素を含めなければならない。肖副処長は、「2つの育成案を一本化して実施することで、学生に『栄養満点のスペシャルコース』を提供することができる」と話す。

　そして、「スペシャリゼイションは、人材育成スタイルを改革し、教育の組織形式を再構築する重要な手段だ。そのため、スペシャリゼイションを建設するうえで、教師陣の育成を強化し、学際的ハイレベル教育チームを構築しなければならない。そして、教育スタイルと育成スタイルを改革し、教師の実践、教育能力、学科融合の水準を向上させ、評価メカニズムを改革し、柔軟で、多様化された審査、評価基準で、イノベーション型人材を育成し、スペシャリゼイションの建設のために、オープンで、多元化された発展の環境を提供しなければならない。そして、デジタル化改革を重視し、大規模公開オンライン講座（MOOC）やバーチャル教育研究室といったデジタル化プラットフォームを通して、専門のカリキュラム資源を共有し、テクノロジーを駆使して複合型イノベーション人材を育成しなければならない」との見方を示す。

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※本稿は、科技日報「為何越来越多的高校 開始設置微専業」（2022年6月16日付6面）を科技日報の許諾を得て日本語訳／転載したものである。