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【22-10】産学研の緊密な連携により大学のテクノロジーへの資金投入急増 江蘇省

金 鳳(科技日報記者) 2022年09月26日

 火星探査車「祝融号」による火星探査、太陽探査科学技術試験衛星「羲和号」による太陽探査、有人潜水艇「蛟竜号」による深海探査、天和コアモジュールによる宇宙旅行など、強国の夢を載せた大国の代表的な製品が近年、中国で続々と登場している。

 ダイズモザイクウイルスの抵抗力鑑定技術体制、フレキシブル昼白色有機発光ダイオードなど、経済の主戦場向けの革新的な技術の数々が今、中国の産業の高度化を後押ししている。

 ここ10年にわたり、江蘇省の大学が関わってきたテクノロジーイノベーション成果が、中国がテクノロジーの「自立自強」を実現するために重要な下支えを提供すると同時に、国と地域のイノベーション発展のために研究開発に挑み続ける江蘇省の大学の科学研究者の「努力の証」ともなってきた。

「教育のこの10年」、及び「1+1」のシリーズ記者会見で、江蘇省党委員会教育活動委員会の徐子敏副書記が、同省の大学のテクノロジーイノベーション活動の成果を紹介した。ここ10年、同省の大学が獲得するテクノロジー経費は急増し、その総額は1880億元(1元は約20.7円)に達している。また、獲得した省級以上のテクノロジー奨励は4612件で、うち国家科学技術奨励が251件だった。2017年に中国共産党第19回全国代表大会が開催されて以来、同省の大学の特許権譲渡数は3年連続で全国トップに立っている。

急拡大する江蘇省の大学のテクノロジーヒューマンリソース

 南京未来ネットワークビレッジにある紫金山実験室には、東南大学科学研究チームが作り出したテラヘルツ(THz)波ワイヤレス通信で世界最速を記録している初の光子、THz、光ファイバーが一体化したリアルタイムリアルタイム伝送フレームがある。同フレームは、6GTHz100Gbps伝送速度リアルタイムワイヤレス通信をめぐる難題を解決した。この成果は、現有のモバイルインターネット光ファイバーの代わりとして速やかに配置し、データセンターの大量のケーブルを交換できるほか、衛星、ドローン、飛行船といったプラットフォームに搭載することもでき、さらに、衛星クラスター間、上空と地上の間、1千キロ以上の衛星間の高速ワイヤレス通信シーンにも応用できる。

 東南大学情報科学・工程学院の博士課程指導教員・尤肖虎教授は「今後5年間、当THzワイヤレス通信研究グループは、引き続きTHzの伝送速度を高めるよう取り組む。THz信号をさらに遠くへ伝送し、下支えとなるコアデバイスをもっと安価にし、性能、デバイスの集積度をもっと高くしたい」と説明する。

 テクノロジーの研究開発は、緊急性が最も高い緊迫した問題を方向性とする姿勢を堅持しなければならない。江蘇省の大学のテクノロジーイノベーション能力は増強され続けている。

 南京大学は、オリジナリティがあり、変革的で、先に立つ力のある基礎研究へのサポート、カギとなるジェネリックテクノロジー、先端リーディング技術、現代工学技術、破壊的技術の研究開発を強化し、ハイレベルな代表的成果を数々生み出してきた。うち、新型トポロジー量子状態--Weyl半金属研究は、新しい学科の分野を切り開き、2019年に「中国10大テクノロジー進展ニュース」に選出された。モバイルプラットフォームに基づく全天候型量子鍵配送は、実用型量子通信の新たな1ページを刻んだ。また、ビッグデータに基づいて解明した古生物の多様性の移り変わりは、地球科学研究の新たなパラダイムを構築した。

 南京農業大学は農業生命科学の現象や原理、メカニズムなどを深く解析し、オリジナルイノベーション能力を増強し、継続的に基礎研究をレベルアップさせてきた。そして、研究チームが、利己的遺伝子モデルがイネの雑種不稔性をコントロールするメカニズムのほか、イネの草高、植物構造をコントロールする理論を解明し、長粒種と短粒種の雑種の優位性を利用する上でのボトルネックを打破し、作物の生産量が多くなる優良遺伝子をさらに発掘するための理論的下支えを提供している。

 最重要事項である発展を遂げるために一番必要なリソースは人材で、最大の原動力となるのがイノベーションだ。徐氏によると、2021年末の時点で、江蘇省の大学のテクノロジーヒューマンリソースは計9万2000人で、2012年比で3万1000人増えた(50.8%増)。そして、中国科学院と中国工程院の院士が79人、国家ハイレベル人材が1800人以上で、ハイレベル人材総数が全国の大学全体に占める割合は10%に達している。また、数多くの優秀な若手科学者やハイレベルチームがテクノロジーイノベーションの中心的存在となっている。

国家戦略のニーズや地域の発展にテクノロジーの下支えを提供

 科学研究は、知識と真理を追求すると同時に、経済・社会の発展や一般の人々にサービスを提供しなければならない。

 南京工業大学では、喬旭教授が率いるチームが、化学工業製品の「廃水、廃ガス(排気ガス)、固体廃棄物(三廃)」のガバナンスは、エネルギー消費が高く、効率が悪いという問題に的を絞り、限界酸素の分解の過程に割って入る「三廃」ガバナンスと化学品の生産を整合するキーテクノロジーを開発し、3件のイノベーションを通して、化学工業及び関連業界の生産源のグリーン化、プロセスの減量化、ガバナンスの高精度化を実現した。ここ2年近くにわたり、同成果を応用した企業の売上高は20億5700万元、利益は2億8300万元増えた。このように経済効果が高いと同時に、排気ガスを13億5100万立方メートル削減し、蒸留残留物といった有機有害廃棄物の排出も5156トン削減し、環境保護の面でも顕著な成果を挙げている。

 徐氏は「ここ10年、当省は国家戦略のニーズと地域の経済・社会の発展のニーズに積極的に対応し、テクノロジーの下支えを提供してきた」と強調する。

 経済・社会の発展に寄与する江蘇省の大学の新たな成果も誕生している。南京大学の成果7件は、国家第13次五カ年計画(2016‐20年)テクノロジーイノベーション成果展で展示された。同大の研究チームは、港珠澳大橋(香港・珠海・マカオ大橋)の建設プロジェクトの意思決定やガバナンスにも参加したほか、長江デルタや京津冀(北京市・天津市・河北省)エリアの地盤沈下、三峡ダムエリアの地滑りといった災害のモニタリング、警報システムを構築し、中国の地質災害対策と国家戦略の実施に重要な貢献を果たしてきた。

 また、江蘇省の大学の材料科学や情報科学、製造科学といった分野の先見的な研究を見ると、従来産業の構造転換と戦略的新興産業の建設・発展を後押ししている。例えば、蘇州大学が開発したフレキシブル昼白色有機発光ダイオードの効率は世界最高レベルに達し、海外の技術の独占状態を打破し、国産有機発光ダイオードの生産ライン設備の空白を埋めた。江蘇省は、大学の基礎研究と先端技術の面のブレイクスルー実現を推進し、有人宇宙飛行の分野や「南水北調」(南方地域の水を北方地域に送り水不足を解消する)プロジェクトなどに強力なテクノロジーの下支えを提供している。

 徐氏は、「ここ10年、当省は『サービスを以てサポートを求め、貢献を以て発展を求める』という姿勢を貫き、産学研の緊密な連携を推進し、大学のテクノロジー成果の移転・実用化を促進し、大学の人材の優位性、テクノロジーの優位性をイノベーションの優位性、発展の優位性に最大限転化してきた」と強調する。


※本稿は、科技日報「推働産学研緊密結合 江蘇高校科技経費投入快速増長」(2022年8月18日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。