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【22-12】地質・鉱産・環境系人材育成の新たなプロセス 西南科技大学

郭 鴻雁 陳 科 2022年10月31日

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西南科技大学の学生 画像提供:取材先

 2005年から現在まで、西南科技大学(以下「西南科大」)環境・資源学院は、中国全土の半数以上の建材・地質総隊の大隊長とチーフエンジニアを育成してきた。また、同学院の学生は国家級イノベーション・起業学科コンテストで186の賞を受賞してきた。こうした成果は、同大学が地質・鉱産・環境系人材育成の分野において、複合型人材を育成する新たな手法を編み出していることを反映している。

 中国国家一級学会コンテストである「第6回全国大学生地質技能コンテスト」で、西南科大で地質工学を専攻する学生がこのほど、一等賞1つ、二等賞2つを受賞した。同大学は中国全土から参加した64の大学の中でも特に優秀な成績を収め、優秀組織賞と団体二等賞を受賞した。

 2005年から今にいたるまで、西南科大環境・資源学院は、中国全土の半数以上の建材・地質総隊の大隊長とチーフエンジニアを育成してきた。また、同学院の学生は国家級イノベーション・起業学科コンテストで186の賞を受賞してきた。こうした成果は、同大学が地質・鉱産・環境系人材育成の分野において、複合型人材を育成する新たな手法を編み出したことによるものである。

 同大学の党委員会書記を務める董発勤学長はこのほど、地質・鉱産・環境系人材育成のこれまでの歴史的プロセスについて言及した際、「1952年に採鉱クラスを開設した当大学は、地質・鉱産・環境系の人材育成という面では、70年の歴史を誇っている。そして、17年かけて、複合型人材育成モデルの研究も踏み込んで展開してきた」と語った。

学科・専攻の知識と地球に優しい環境の理念を融合

 今年の夏休み期間中、西南科大の環境・資源学院の「自然との約束」環境保護協会は、四川省綿陽市遊仙区新橋鎮を訪問し、「虹の後ろに広がる緑」をテーマにしたサマーキャンプを実施した。そして、異なる大学の学生20人が、同鎮でエコ文明や農村振興の調査・研究、環境知識の教育、自然体験といったイベントに参加した。同学院の学生・劉尚松さんは、「心を込めて種を植え、たくさんの新芽を新橋に残してきた。当学院が展開した社会実践活動により、自分の専攻の知識と低炭素・環境保護の理念は密接に関係していることがはっきりと分かった」と語る。

 西南科大の環境・資源学院は2005年に発足した時から、国の特色ある環境工学の専攻建設プロジェクトを活用して、創造性に富んだ「グリーン、エコを貫く人材育成」という理念を打ち出し、「豊かな自然は金銀同様の価値がある」といった理念を、地質・鉱産と環境生態分野のオールライフサイクル理論と人材育成の各具体的な部分に融合し、学生のエコ文明素養と哲学の認識を増強している。

 董学長は、「当大学は地質・鉱産・環境系の学科・専攻群の汎用的な知識体系を再構築し、『学科をモジュール化』した埋め込み式の学科知識体系を構築し、学科の学際的融合を実現した。当大学は学科と専攻の垣根を超えた教育チームを立ち上げ、専門的理論カリキュラム、実践カリキュラムのエコ文明観をベースとした効果的なマッチングを実現し、学生の問題解決能力を向上させた」と説明する。

 また、西南科大は、エコ文明教育を各専攻人材育成計画に組み込み、教員が授業内容と教授法を改革するよう誘導し、エコ文明教育能力を全面的に向上させ、全方位型のエコ文明教育環境を作り出している。

 董学長は、「当大学は環境生態学科を先導とし、地質、鉱産資源、鉱物加工学科を中心に、専門の基礎内容を学び始める前の段階に、生態保全系の一般教養のカリキュラムを設置している。そうすることで、専門人材が生態系保全の意識を持つようになっている。このほか、当大学は専門カリキュラムに、『生態系との調和』や『環境にやさしい』といった理念も組み込んでいる」と説明する。

 西南科大は、まず生態保全系の一般教養を学ぶようにするほか、学生に「自然との約束」環境保護協会や、「虹の後ろに広がる緑」をテーマにしたサマーキャンプといった社会実践及びアースデイ、環境の日、世界湿地の日といった環境保護をテーマにしたイベントに参加するよう奨励し、学生の価値観形成を強化し、学科・専攻の知識とグリーン・低炭素の理念を有機的に結び付け、学生がエコ文明素養を強化している。

「4つの拡大」、「5つの連携」、「三元融合」型の人材育成

 西南科大の環境・資源学院の教員である譚江月さんが最近、状況的学習法を採用して行った講義は、学生らが積極的に参加し、活発な雰囲気となった。

 同大学は近年、学生が専門的な能力を着実に身につけることができるように、「4つの拡大」教育改革を実施しているほか、「5つの連携」育成モデルを採用し、「三元融合」の思想政治教育を強化しており、大きな成果を挙げている。

「4つの拡大」教育改革とは何か?1つ目は、講義の内容に、補助教材だけでなく、オンラインソースへと拡大させて採用することにより、注入主義教授法を探究的教授法に変えていること。2つ目は、学生の学習スタイルを受け身型から、グループディスカッションのスタイルへと変えていること。3つ目は、学生の学際的研究能力や研究・イノベーション能力、コミュニケーション・連携能力プロジェクト実践能力を増強させるべく、講義を行う場所を、教室や図書館、実験室のほか、実践拠点、テクノロジーイベント会場、学外のプロジェクト現場へと拡大させていること。4つ目は、講義のスタイルを、「詰込み型」、「スピーチ型」から、探究型、ディスカッション、オンラインとオフラインを組み合わせた形へと変え、学生の研究・イノベーション能力を増強していること、である。

「5つの連携」という体系的な育成モデルについて、董学長は、「主に、専攻間の連携、学科間の連携、学校間の連携、学校と企業の連携、学校と研究所の連携――の5つの人材育成モデルを指す」と説明。「当大学は、従来的な地質・鉱産・環境系の専攻間の閉鎖的な教育体制を打破し、地質系専攻の教育に環境工学のカリキュラムモジュールを組み込み、環境系専攻の教育に地質・鉱産資源のカリキュラムモジュールを組み込むことで、地質・鉱産・環境系の専攻が融合し合い、専攻群が形成し、学生の専門的な視野が広がっている」と強調する。

 また、西南科大は地質学や鉱業工学、環境工学といった学科を有機的に結び付け、学際的教育チーム15を立ち上げているほか、国家都市汚水処理・資源化工学技術研究センターといった教育・科学研究プラットフォーム43を設置し、学生が学際的知識を習得できるよう促進している。そして、複数の大学と共同で大学連盟を立ち上げ、「規約による約定、専攻のマッチング、カリキュラムの相互設置、単位の相互認証」という運営メカニズムに従い、良質資源の共同構築と共有を形成している。

 同大学は現時点で、西部鉱業股份有限公司や武鋼集団有限公司といった企業86社と戦略的協力協定を締結しているほか、中国工程物理研究院、中国科学院、水利部成都山地災害・環境研究所などと、「学科のマッチング」、「人材の相互招聘」、「成果の共有」、「技術の共有」などの運営メカニズムを構築し、学生の実習・実践研修、研究開発のための共同科学研究といった面で協力を展開し、テクノロジー分野の協力が幅広く成果を挙げる良好な局面を実現している。

地域の発展のために知的サポートを提供

 中国の西部地域は、中国の発展戦略において、重要な位置を占めている。しかし、西部地域の生態環境は脆弱で、その問題を根本的に解決しなければならない。新時代の地質・鉱産・環境系人材の知識構造と生態環境保全をめぐる素養という面では、新たな課題が浮かび上がっている。

 しかし、従来の地質・鉱産・環境系専攻の教育モデルでは、学生は高いエコ文明の素養を身につけることはできず、西部地域の大開発に必要な複合型人材のニーズを満たすのが難しい。また、そのような教育環境も相対的に封鎖的で、学生は受け身で学習し、知識構造は単一的で、複雑な工学的問題を解決する能力は全体的に低いため、学生が卒業後に西部地域に根を下ろすことは難しい。

 こうした難題を解決するべく、西南科大は複数の機関による連携で地質・鉱産・環境系の複合型人材を育成する取り組みを踏み込んで実施し、学生の学際的・専門的なイノベーション能力を大幅に向上させている。同大学が育成している地質・鉱産・環境系の複合型人材は、複数の学科の知識を持っており、複雑な地質・鉱産・環境系の問題を解決することができるほか、地質調査と生態学的環境保全の第一線で活躍している。卒業生の80%は西部地域に根を下ろしている。この数字は10年前と比べて2倍近く増加し、中国の西部大開発に多大な貢献を果たしている。

 同大学の教員は近年・、教育・研究を積極的に展開し、専攻・カリキュラムの建設を能動的に行い、学生の学術活動をリードしている。同大学の国家級教育チームは7、開設している国家級一流カリキュラムは28、中心となって編集した教材は34冊にのぼっている。また、同大学の教員は社会サービスの分野でも積極的な役割を果たしている。例えば、董学長(教授)が率いるチームは微生物による鉱物生成技術を駆使して、九寨溝と黄竜の震災後の復興作業をサポートしている。

 董学長は「教育実践と経験分析を通して、当大学の教員の総合能力は高まり続けている。『高等教育研究』や『中国高等教育研究』といったジャーナルに掲載された当大学の教員の教育改革関連の論文は144本に達している。また、『一帯一路』共同建設、グリーン発展・ガバナンス国際フォーラム、グリーン発展・都市ガバナンス国際シンポジウムといった学術会議を中国国内外で55回開催し、教育の成果を積極的に推進し、中国の大学の地質・鉱産・環境系の専門人材育成という面で、モデルケースとなっている」と強調する。

 同大学は今後、グリーン・低炭素な自然システム観を牽引役として、学生が中国の中・西部地域建設と関係のある目標を掲げるよう誘導し、地域の発展のために、地質・鉱産資源、環境生態系の複合型人材を提供するよう持続的に取り組む計画だ。


※本稿は、科技日報「另辟蹊径培養地鉱環境類人才 西南科大将緑色低碳貫穿育人全過程」(2022年9月16日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。