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【23-01】中国の大学―全国重点大学、211、985、双一流、その違いは?

アジア・太平洋総合研究センター フェロー 松田侑奈 2023年02月22日

 中国の大学については、全国重点大学、211工程大学、985工程大学、双一流大学など様々な分類が存在し、混乱が生じている。結論から言うと、現在進行形であるのは、双一流大学のみで、全国重点大学、211、985工程大学は既に過去のものとなっている。ではなぜ未だに全国重点大学、211工程、985工程について頻繁に言及されているのか?それは、全国重点大学、211工程、985工程が存在した期間が長く、かつこれらの大学と双一流大学に選ばれた大学の間に、かなりの重複が見られるからである。

全国重点大学

 全国重点大学の歴史は、1950年代まで遡る。1959年の「中共中央の高等学校の中で一部を重点大学として指定することに関する決定(中共中央关于在高等学校中指定一批重点学校的决定)」により以下の16の大学が全国重点大学に指定された。

△北京大学、△清華大学、△北京工業学院、△中国人民大学、△天津大学、△北京航空学院、△復旦大学、△上海交通大学、△北京農業大学、△中国科学技術大学、△西安交通大学、△北京医学院(現北京大学医学部)、△上海第一医学院(現復旦大学上海医学院)、△華東師範大学、△北京師範大学、△ハルビン工業大学

 その後、現在の国防科技大学の前身である中国人民解放軍軍事工程学院や西安電子科技大学、北京協和医学院、第一軍医大学が追加で指定され、20の大学が全国重点大学として定着した。今は多くの大学が教育部所管であるが、当時は学校の性質によって管轄省庁が異なっており、教育部直属大学は20のうちの9つ(北京大学、清華大学、中国人民大学、天津大学、復旦大学、西安交通大学、華東師範大学、北京師範大学、西安電子科技大学)のみで、他は農業部や衛生部の管轄、または中国科学院直属大学、軍事学校などに分かれていた。

 全国重点大学の数は、時間の経過とともに数が徐々に増え、1978年には88校となった。このうち72校が教育部の管轄であった。そのため、70~80年代には、全国重点大学に加え、教育部直属大学という分け方も存在した。

・211、985工程(プロジェクト)大学

 90年代から211、985工程が始まったが、少し説明を加えたい。

 211工程は、1995年から始まったが、21世紀に向け100程度の高等学校と重点学科を作るプロジェクトという意味で、21世紀の21と100の1を合わせ、211工程と呼ばれ、1995年から2008年までの間に112の大学が211工程大学と指定された。985工程とは、1998年から始まった一部の大学を世界一流大学として成長させるプロジェクトであるが、1998年5月に江沢民が北京大学建国100周年でこのプロジェクトを初めて言及したことをきっかけに985工程とした。985工程には、2006年までに計39校が指定された。しかし、その39校は全て211工程大学から選ばれたことから、211工程大学のうち39の大学が985工程大学としてレベルアップしたと理解してもよい。言い換えれば、985工程の大学はすべて211工程の大学であるが、211工程の大学は一部だけが985工程大学である。

 211、985両工程は、そもそもその目的が異なる。211工程は100程度の重点大学、重点学科を作るのが目的で、985工程は世界一流の大学を作るのが目標である。そのため、211、985工程大学のうち、どちらのレベルが高いかという質問に対しては、985工程大学と回答するのが正しい。

 全国重点大学から211、985工程大学にシフトしたのは、政府が全国からグローバルに目を向け始めたためであると思われる。改革開放後、中国の経済は高速に発展し、大学や教育レベルもそれに準ずる量的および質的発展を続けてきた。1990年代に入ってからは、教育も中国国内だけでなく、世界レベルを目指しはじめ、グローバル競争で勝負できる実力のある大学の育成に踏み込んだ。

双一流大学

 2011年、教育部は、これ以上211、985工程の大学を増やさないと宣言し、2016年には「211工程建設実施管理方法(211工程建设实施管理办法)」「985工程建設継続に関する意見(

关于继续实施985工程建设项目的意见)」などの政策文書を廃止すると公開した。実質的にこの時期から211、985工程は終了していた。そして、2019年11月28日、教育部は、211工程と985工程を双一流大学設立プロジェクトに統合すると正式に発表し、211、985工程は終了した。

 双一流大学の意味は、世界一流大学と世界一流学科を作る(First-class universities and disciplines of the world)ということである。

 2017年の教育部、財政部、発展改革委員会が制定した「世界一流大学と一流学科の設立推進における実施方法(统筹推进世界一流大学和一流学科建设实施方案)」をきっかけに、双一流大学プロジェクトは本格的に始動した。双一流大学の特徴は、211、985工程のように一度選ばれたら変わらない、というものではなく、教育部が5年に一度評価を行い、評価が低ければ、双一流大学のリストから外され、優秀な大学が新たに選ばれる。そのため、双一流大学の数は変動する。2023年2月15日の時点での双一流大学の数は147であり、これにはかつての211工程、985工程の大学は、全て含まれている。

 双一流大学と211、985工程大学の関係を図に表すと下記と通りである。

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出典:諸資料を参照し筆者作成

 双一流大学プロジェクトの始動時である2017年に公開された1回目の双一流大学リストには、137の大学が掲載されており、当時は42の一流大学と95の一流学科を有している大学に分かれていた。ただ、5年後の2022年に公開された2回目リストからは、既存の区分をなくし、一律双一流大学とした。

 双一流大学は、中国の高等教育の総合実力と国際競争力を向上させ、「2つの100年」の目標と中国夢の実現のため、新たに始動した戦略であるが、まだ実施されてから5年程度であるうえに、全国重点大学、211、985工程大学と重なる部分も多い(高重複率)ため、その違いについて混乱している人も少なくならずいる。

 全国重点大学、211、985工程大学、双一流大学はその時代を代表する代名詞でもあり、50~80年代は全国重点大学、90年代から2010年代半ばまでは211、985工程大学、その以降は双一流大学である。この変遷から、教育の全国化からグローバル化への発展が伺える。また、教育でも世界のトップに立ちたいという中国の目標がより鮮明に見えてくる部分でもある。ランキングがすべてというわけではないが、TIMESやQSの世界大学ランキングでも中国の躍進は目立っており、双一流大学による研究成果や論文の数も著しく増加している。双一流大学の動きには引き続き注目していきたい。

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調査報告書 中国の高等教育における双一流建設及びその取り組み (2020年7月)