教育・人材
トップ  > コラム&リポート 教育・人材 >  File No.23-02

【23-02】負担大幅軽減で若手科学研究者が研究に没頭できる環境づくりを

陳 曦(科技日報記者) 2023年02月28日

image

画像提供:視覚中国

「負担軽減行動3.0」は、打ち出される前に、しっかりとした事前調査や研究が行われた。そして、若手科学研究者から寄せられた「解決を必要とする問題」に焦点を絞って、政策レベルで確実に実行された。打ち出された関連の政策は、若手科学研究者の負担軽減につながると同時に、それら研究者がエネルギーを科学研究に集中して費やすことができるようにするために、政策の面からの保障がさらに強化された。

 天津大学化工学院の仰大勇教授は、「35歳以下でも、国家自然科学基金委員会と科技部(省)の重点プロジェクトの責任者になれる。このスタート地点が高く、彼らの成長の大きな助けになる。当院の一部の若い教師が申請した若手科学研究者を対象とした重要科学研究プロジェクトが採択された」と語る。

 天津大学化工学院の若者だけでなく、中国全土の多くの若手科学研究者が今、国が放出している政策ボーナスの恩恵に預かっている。2022年、中国の科技部や財政部、教育部、中国科学院、自然科学基金委員会は共同で「若手科学研究者の負担を軽減するための特定行動展開に関する通知」を発表した。これは、科学研究者を対象にした「負担軽減行動」が「3.0時代」に突入したことを意味している。若手科学研究者に「大黒柱」となるさらに多くの機会を与えることで、そのイノベーションをめぐるポテンシャルと活力を十分に活性化するのがねらいだ。

 科技部の党組書記を務める王志剛部長は、このほど、科技日報の取材に対して、「人を中心として、科学研究プロジェクト管理改革を深化させ、改革ボーナスが第一線に直接到達するようにする。また、『負担軽減行動』制度の常態化・制度化を推進し、科学研究者の非科学研究の負担をさらに軽減する」と再び強調した。

「1.0」から「2.0」へと減り続ける負担

 仰教授は、7年前に帰国したばかりの頃の仕事の様子を振り返り、「以前、財務上の仕事に一番頭を悩ませていた。各種手形の整理、サイン、経費清算などに、3~4週間はかかっていて、かなりのエネルギーを費やしていた」と、やるせない思いだったことを、頭を振りながら話す。

 財務や経費清算といった類のことは、たいしたことはないと感じるかもしれないが、若手科学研究者にとっては、非常に手間のかかることで、特に細々とした事務的な仕事は、入社したばかりで経験の浅い若者に任されることが多く、若者は非常に辛い思いをしている。

 若手科学研究者が、事務的な仕事をして疲れてしまうことなく、少しでも多くの時間やエネルギーを科学研究に費やすことができるように、中国は近年、各種政策を打ち出して、負担を軽減している。

 中国社会科学院人口・労働経済研究所の副研究員・鄧仲良氏によると、2018年12月、科技部、財政部、教育部、中国科学院は共同で、中国全土において、科学研究者の負担を軽減する行動7項目を計画・展開(以下「負担軽減行動1.0」)し、「表が多い」や「経費清算が面倒」、「検査が多い」といった際立つ問題点を率直に指摘した。

「負担軽減行動1.0」は目に見える効果を挙げた。仰教授は、「現在、財務作業は全てオンラインで行い、申請、審査、清算は1日で終わらせることができるようになった。プロセスが細々としていて煩わしく、実験材料を必要な時に購入することができないため、科学研究の進捗に影響を及ぼすということはなくなった」と感慨深げに話す。

 2020年10月、科技部や財政部、教育部、中国科学院は共同で「科学研究者の負担を軽減し、イノベーションの活力を呼び起こすための特定行動を継続して展開することに関する通知」(以下「負担軽減行動2.0」)を発表し、「負担軽減行動1.0」を踏み込んで実施するのをベースに、テクノロジー成果の転化や科学研究者の保障・激励といった面で浮き彫りになっている一部の問題に焦点を合わせた取り組みを引き続き展開した。

 鄧氏は、「『負担軽減行動2.0』は、多くの科学研究者から指摘があった『表が多い』や『経費清算が面倒』、『検査が多い』といった際立つ問題を踏み込んで解決し、テクノロジーイノベーションの活力を十分に活性化し、イノベーションパフォーマンスを高め、イノベーションに有利な政策制度環境を作り出した」と説明する。

「負担軽減行動1.0」と「負担軽減行動2.0」は、特に若手科学研究者に、強力な保障・支援を提供したことは注目に値する。「第14次五カ年計画」(2021‐25年)の中国の重点研究開発計画のうち、90%以上の重点特定プロジェクトに、若手科学者プロジェクトが設置され、2021年には、若手科学者チーム300以上を支援した。

若い才能を十分に生かすことができるように

 冬休み前、天津大学で「天津大学テクノロジーイノベーションリーディング人材育成計画・プロジェクト実施規則」(以下「実施規則」)の実施が急ピッチに進められた。若手科学研究者が研究に没頭できるよう支援し、若手科学研究者の機会を増やし、彼らが大黒柱となり、少しでも早くテクノロジーイノベーションリーディング人材へと成長できるようサポートするのが狙いだ。

 天津大学が、「実施規則」を制定したのは「負担軽減行動3.0」を実施するためだ。鄧氏は、「負担軽減行動3.0」が打ち出された目的は、「政策を通して、若手科学研究者がエネルギーを主に科学研究活動に費やし、彼らが才能を十分に生かすことができるよう確保する」ことだとの見方を示す。

「大黒柱」となることについて、「負担軽減行動3.0」は、「国の重点研究開発計画において、プロジェクト(課題)の責任者、中核となる40歳以下の若手人材の割合を20%にまで引き上げる」と明確に打ち出し、機会を増やす点では、主に基本科学研究業務費や自然科学基金などを推進することにより、若手科学研究者への支援を強化する計画となっている。

 鄧氏は、「国の科学研究プロジェクトの科学研究基金は近年、スピーディーに審査されるようになったと、しみじみと感じている。少し前に、私も国家社会科学基金の申請をしたが、科学研究のプロジェクト立ち上げの通知から、科学研究資金の支給決定までに、約1ヶ月しかかからなかった」と述べ、普段の活動の中で大きな変化を感じた。

 天津大学は、若手科学研究人材の育成を体系化している。天津大学科学研究院の王天友院長は科技日報の取材に対して、「当大は、テクノロジーイノベーションリーディング人材育成計画・プロジェクトを3つのレベルに分けている。政策を制定し、段階的な育成を通して、若手科学研究人材に支援を継続的に提供し、少しずつテクノロジーイノベーションリーディング人材へと成長するように取り組んでいる」と説明した。

 支援強化のほか、「負担軽減行動」はアップグレードし続けている。「負担軽減行動3.0」は、審査を減らし、時間を確保する点で、国家重点研究開発計画若手科学者プロジェクト、自然科学基金の「優秀青年」、「傑出青年」プロジェクトの審査評価において、職責を果たしている限り責任追及をしないメカニズムを構築し、若手の専任科学研究者が平日に科学研究に使うことができる時間を5分の4以上にするなどの明確な対策を講じている。

 天津大学科学研究院の符銀丹常務副院長は、「当大は、審査を減らし、時間を確保することができる実際的な取り組みを行っている。例えば、実際の貢献に基づいて、科学研究の業績を認定し、若手科学研究者が、大型の横型科学研究プロジェクトに参加する際、そのプロジェクトにおける役割分担に基づいて、単独でプロジェクトを立ち上げ、登録できるようにしている。時間の確保の面では、日常業務において、科学的な評価、的確な最適化に取り組み、科学研究が承認されるまでにかかる時間を平均1.2日、テクノロジー契約にかかる時間を平均1.8日短縮した。技術契約認定といった政府サービスを学内に導入しているため、手続きの効率が大幅に向上した。これと同時に、スマート科学研究管理意思決定サポートプラットフォームを構築し、科学研究データの定時通知・使用を実現し、情報のやり取りとデータ共有を強化している」と説明する。

「負担軽減行動」の「抜け穴」を見つけて埋める対策を

 鄧氏は、「『負担軽減行動3.0』が打ち出される前に、しっかりとした事前調査・研究が行われた。そして、最近、若手科学研究者から寄せられた解決を切実に必要とする問題に焦点を絞って、政策レベルで確実に実行された。打ち出された関連の政策は、若手科学研究者の負担軽減につながると同時に、それら研究者がエネルギーを科学研究に集中して使うことができるようにするために、政策の面からの保障がさらに強化された」との見方を示す。

 ただ、「科学研究成果産出の法則という観点からすると、良い成果は、閉鎖した環境で研究を行ったり、独りよがりに研究を行ったりして生まれるものでは決してない。多くの研究は、ある程度の時間をかけた蓄積が必要であると同時に、さまざまなレベルで論証する必要があるため、チーム力が必要不可欠だ。今後、『負担軽減』の取り組みは、成果の署名を強化する面で、一層公平性を重視し、科学研究チームのメンバー一人ひとりの価値を明示することを重視しなければならない」と指摘する。

 そして、「若手科学研究者は、創造力が豊かで、エネルギーに満ち溢れている。しかし、経験は不足しているため、学術界の『大物』のマンツーマンの指導、または、チームリーダーの直接指導を受けることができれば、回り道を少なくし、速く成長するのにプラスだ。このような『メンター制度』は一旦できると、良い循環となって、良好な学風が代々受け継がれていくことになる」との見方を示す。

 そのほか、国から地方まで、科学研究者の「負担軽減」に取り組んでいるが、現時点では、非学術的で、不必要、不合理な負担が依然として一部存在しているだけでなく、新たな"変異種"が出現する可能性もある。それら「抜け穴」は、今後の「負担軽減行動」のアップグレードを通して、埋める必要がある。

 関係専門家は、「若手科学研究者は、成長の段階で、包摂的で緩和的な環境を必要としている。彼らがエネルギーを主に科学研究活動に費やすことができるようにしなければ、そのイノベーションのポテンシャルを十分に発掘し、活力を活性化することはできない。そのためには、関係当局が、要求に基づいて、『負担軽減行動』を着実に実行し、改革ボーナスが第一線に直接到達するようにし、複数の面から、若手科学研究者にエンパワーメントする必要がある」との見方を示した。


※本稿は、科技日報「減負深入,譲青年科研人員軽装上陣」(2023年1月9日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。