【23-03】大学院生ワークステーション 産学研連携で人材育成の新たなモデルを構築
魏 依晨(科技日報記者) 2023年03月02日
画像提供:視覚中国
大学院生ワークステーションの建設は、学科・専攻が経済・社会の発展とよりマッチすることを重視し、支柱産業と戦略的新興産業を中心として、効果的な展開を行わなければならないほか、テクノロジー成果の実用化も重視して、ハイレベル人材の育成を強化しなければならない。
江西省第1回大学院生ワークステーション建設プロモーションイベントがこのほど江西江鈴集団新エネルギー汽車有限公司(以下「江鈴集団」)で開催された。その中で、江西省の第1弾となる大学院生ワークステーション建設状況が紹介されたほか、大学院生ワークステーションが直面している新たな情勢を分析した。
大学院生ワークステーションは、中国が大学院生を育成する新たなモデルである同時に、産学研連携の重要プラットフォームでもある。イノベーション型人材育成の面で、重要な役割を果たしている。現時点で、大学院生ワークステーションは中国の多くの省において、建設の初期段階にある。筆者はこのほど、それをどのようにして建設・管理すればいいのかについて、取材した。
勢いよく推進される大学院生ワークステーション建設
江西省教育庁の関係責任者は取材に対して、「簡単に言えば、大学院生ワークステーションは、大学と企業・事業機関が共同で申請・設立、出資・建設し、企業・事業機関の優秀な科学研究人材や大学の大学院生指導教官を招いて、大学院生チームを共同で指導し、テクノロジーイノベーション、成果転化を行うプラットフォーム。院士ワークステーション、博士研究員科学研究ワークステーションに合わせて、先端科学研究イノベーションプラットフォームであり、大学が大学院生を育成する重要なイノベーション実践拠点でもある」と説明した。
江西省大学院生ワークステーションは発足して1年以上になる。南昌大学や華東交通大学を含む大学11校は既に、スマートグリッド連合工学実験室、江鈴集団を含む企業・事業機関と共同で、大学院生ワークステーション17ヶ所を設立している。ステーションに在籍している大学院生指導教官は1007人、大学院生は472人に達している。こうしたワークステーションが承認を得た科学研究プロジェクトは1034件に達しており、うち134件が中国国家級プロジェクト、194件が省・部級プロジェクト。プロジェクト経費は2億2000万元(1元は約19.1円)を超え、省・部級以上のイノベーション成果36件、取得した発明特許128件となっている。また、参加している企業の科学研究プロジェクトは166件、技術革新プロジェクトは35件となっているほか、既に転化、または転化中のテクノロジー成果は88件で、約3億2200万元の経済効果が発生している。それらワークステーション建設を活用している省・部級及びそれ以上の重要科学研究プラットフォームは152に達し、うち国家級プラットフォームは34となっている。
これらは、江西省の1年以上の大学院生ワークステーション建設をめぐるデータに過ぎない。中国全土に目を向けると、大学院生ワークステーションの建設が勢いよく推進されている。
江蘇省は、2019年に大学院生ワークステーション建設の"ルール"を制定した。例えば、「江蘇省大学院生ワークステーション管理規則」を打ち出し、大学院生ワークステーションを設立する主体の範囲を拡大し、ステーション入りする学生への手当を明確化し、大学院生ワークステーションの「終身制」を打破した。そして、2022年には、大学院生ワークステーション300ヶ所が確定した。湖北省が発表した大学院生ワークステーション建設の最新リストを見ると、湖北大学や華中科技大学を含む大学9校が、省級の大学院生ワークステーション10ヶ所を新たに設立している。同年、吉林省は第5弾となる大学院生ワークステーション申告作業を行った。そして、江西省は最近、2030年に、省級の優秀大学院生ワークステーション約50ヶ所を設立するという明確な目標を打ち出した。
新興産業に焦点を当て、ハイレベル人材を育成
中国の大学院生育成スタイル改革を推し進め、産学研融合、ハイレベル人材育成を促進する面で、大学院生ワークステーションは重要な役割を果たしている。
江漢大学大学院生処の邱成超副処長は、「大学院生ワークステーションの設立には現実的な意義がある。それを設立すると、大学院生は、企業の工学問題を科学研究の課題にすることができるほか、企業が技術的難題を克服して、新製品を開発できるようサポートすることができる一方で、企業は、大学院生に、研究設備と実践指導の条件を提供して、人材育成と研修を展開することができ、科学研究応用型のハイレベル人材を育成する重要なルートとなる。そのため、大学院生ワークステーションを設立すると、大学が人材やテクノロジーの面の優位性を発揮して、経済建設に貢献できるほか、大学院生育成モデル改革の推進、産学研連携の強化、独自のイノベーション能力の増強などにもつながり、修士課程の大学院生を対象にした産教融合協同人材育成の効果的なルートともなる」との見方を示す。
江西省党委員会教育活動委員会の委員を務める省教育庁の劉小強副庁長は、「大学院生ワークステーションの建設強化は、イノベーション主導発展戦略を実施し、経済のモデル転換・高度化を加速するための差し迫った必要で、大学院生教育分野の総合改革、教育の質向上のための必ず必要な道となる。そして、大学院生の質の高い就職の効果的なルートともなる。大学院生ワークステーションの建設は、学科・専攻が経済・社会の発展とよりマッチするようにすることを重視し、支柱産業と戦略的新興産業を中心として、効果的な展開を行わなければならないほか、テクノロジー成果の転化も重視して、ハイレベル人材の育成を強化しなければならない。そのようにしてはじめて、大学院生ワークステーションは、人材育成の供給側と産業の需要側の要素が全面的に融合したモデル重要拠点、テクノロジーイノベーションや成果転化を行う重要なプラットフォーム、大学院生を育成する重要なイノベーション実践拠点となることができる」との見方を示す。
活動メカニズムの整備が建設発展のカギ
大学院生ワークステーション建設は、大学の大学院生教育をめぐる産教融合を推進し、人材育成の根本となる任務をより良い形で遂行し、大学院生の実践能力を高めることを目的としている。では、大学院生ワークステーションの建設と発展を、どのように踏み込んで推進すべきだろう?
江蘇省は、大学と大学院生ワークステーション設立期間が緊密に連携する面で、措置を講じて、成果を挙げている。江蘇省教育庁は毎年、「江蘇省優秀大学院生ワークステーションモデル拠点」選出を組織し、その産教融合の面の優秀な経験を共有できるようにしている。
南京大学が南京大学環境計画設計研究院集団股份公司と共同で設立した大学院生ワークステーションは2021年に、「江蘇省優秀大学院生ワークステーションモデル拠点」に選出された。同ワークステーションは設立以来、南京大学環境計画設計研究院集団股份公司の応用シーンと活動環境をめぐって、南京大学と踏み込んだ協力を行い、環境保護業界の優秀なイノベーション・起業人材を育成し、大学院生ワークステーション設立の面におけるモデルケースとなっている。南京大学の関係責任者は、「当ワークステーションが創出した中国初の環境保護分野の『大衆による起業・イノベーション』カリキュラムである『環境保護産業のイノベーション・起業』は、ワークステーションの責任者と南京大学環境学院の幹部が共同でカリキュラム担当者を勤めている。そして、5年の間に、同カリキュラムを専攻した学生は1千人以上に達し、カリキュラムの教材2冊も出版された。このほか、当ワークステーションは、イノベーション・起業コンテストに参加する学生を支援し、産業イノベーションの後ろ盾を築いてきた。当ワークステーションは、『ターゲットをしぼった育成+素養向上+質の高い就職』という未来を担う人材育成計画を通して、ステーションに在籍する大学院生が企業に就職できるよう支援している。大学院生の個人のキャリアプランとステーションでの評価に基づいて、ステーションに在籍する大学院生に、毎年、優先して採用する資格を与えている」と説明する。
大学院生ワークステーションの今後の建設と管理について、華東交通大学の党委員会副書記を務める徐長節学長は、「『プロジェクト志向、資源共有、人材共同育成、成果共同産出、互恵』の大学院生ワークステーション運営メカニズムを構築してはじめて、人材育成モデル改革を推進することができる」との見方を示す。
そして、「当大学の幹部には、チームを引き連れて、キャンパスから出て、業界・産業と積極的にマッチングするよう求めるなど、学校と企業の協力を全方位的に推進している一方で、企業のハイレベル人材を大学に招き、講義においてプロジェクト事例を導入し、企業を通して科学研究プラットフォーム建設に参加してもらい、企業の科学研究プロジェクトに大学院生が参加できるようにして、プロジェクトを架け橋に、学生が企業の生産、研究開発などの重要活動に実際に参加できるようにしている。また、当校は、『華東交通大学省級大学院生ワークステーション管理規則(試行)』を制定し、ワークステーション管理委員会を立ち上げ、『ダブルステーション長』責任制を整備し、指導教官と大学院生がステーションに入って、在籍し、出るまでの全過程の管理を規範化している。このほか、企業・産業のニーズに合わせて、プロジェクト制育成モデル改革を積極的に実施し、大学院生が企業の生産の第一線で研究を展開できるようにしている。学生は学歴・学位を取得できると同時に、関係業界・産業で実践経験を積んで、そこで働く資質を身につけることもできる上、企業の実際の問題解決もサポートできる。業界の専門家が、大学院生のカリキュラム建設に踏み込んで参加し、プロジェクトの現状と結び合わせながら、思想・管理要素を発掘し、カリキュラムの思想・管理建設を踏み込んで推進し、経験を共有する座談会を定期的に開催し、省外の優秀大学院生ワークステーションを招いて、経験・ノウハウを共有してもらい、大学院生ワークステーションの運営・建設を持続的に改善・整備している」と強調した。
※本稿は、科技日報「打造産学研協同育人新模式」(2023年1月12日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。