【23-06】広東省のテクノロジー特派員、農村企業に専門テクノロジーを提供
葉 青(科技日報記者) 2023年04月06日
興寧市葉南漁村野菜(漉菜)育苗試験拠点で栽培状況を確認する陳偉氏(右)。(画像提供:陳偉氏)
鄧岳文氏や陳偉氏ら企業テクノロジー特派員は、現地の産業発展と企業の技術関連ニーズに焦点を当て、生産の最前線に深く入り込んでいる。彼らは企業が問題解決できるよう実際に支援し、力を合わせて農村の産業振興をサポートし、地元農家が豊かな生活を送れるよう牽引している。
広東省の企業テクノロジー特派員を務める広州工商学院のシニアエンジニア、陳偉氏は毎週、金曜日の仕事を終えると、広州市から約350キロ離れた興寧市(梅州市管轄下の県級市)に急いで向かう。そして、日曜日の夜にはまた広州に戻って来る。陳氏はそんな忙しい生活を2年近く送っている。元宵節(旧暦1月15日、今年は2月5日)も陳氏は興寧市で過ごした。現地の企業数社を訪問した陳氏は「週末の時間を利用して、企業に技術サービスを提供している」と笑顔で話す。
陳氏は2020年9月、広東省の企業テクノロジー特派員実施プラットフォーム「華転網」を通じて、同市葉南漁村農産物開発有限公司(以下「葉南漁村公司」)とマッチングした。「テクノロジー特派員」という立場で、技術を提供し、広東省北部山間部の農村振興を支援するようになった。
農村企業の栽培をめぐる難題を解決
陳氏の話になると、葉南漁村公司の従業員は親指を立てて彼を称えた。
葉南漁村公司の責任者、余彦雄氏は「陳氏は汚れや疲れを厭わない。大学生や技術者と共に、荒れ地の開拓や農作業、技術設備の設計・研究開発をするほか、企業の作業場や農地にも足を運び、当社が頭を悩ませていた農産物の栽培や加工に関する問題を数多く解決してくれた」と絶賛した。
同社は広東省の重点農業リーディング企業で、貧困者支援のリーディング企業でもある。余氏によると、会社の発展過程で数多くの技術的ボトルネックに直面し、非常に頭を悩ませていたが、2020年8月に、広東省企業テクノロジー特派員特定プロジェクトが始まったことを知り、すぐ「華転網」に「野菜(漉菜)標準化モデル栽培と重要加工技術」というニーズを書き込み、陳氏とのマッチングに成功した。
企業の技術関連ニーズに対し、陳氏は1~3次産業の発展を融合させ、「農地-作業場-食卓」という野菜(漉菜)標準化・産業化フローを打ち出した。漉菜育種の最適化から、標準化された農地栽培技術、漉菜の農産物作業場の重要加工技術など、生産の全プロセスについて最適化し、標準化された栽培・加工の重要な技術メカニズムと産業化管理体制を構築した。
最終的に陳氏は、野菜(漉菜)標準化栽培拠点の建設や製品シリーズの開発、重要な加工技術設備の研究開発・試作を行い、野菜(漉菜)標準化栽培と製品・加工の重要技術のイノベーションをほぼ実現し、葉南漁村公司の製品品質と市場競争力を高め、良好な社会的および生態的効果を生み出した。
余氏は「プロジェクトが会社に非常に具体的な支援を提供してくれた。当社の漉菜の加工・生産過程の管理や産業化などに対し、陳氏とさらに踏み込んだ協力を進めている。テクノロジー特派員が強みを十分生かし、漉菜という特色ある産業の経済発展に対し、さらに大きな貢献をしてくれるよう願っている」と期待を述べた。
2020年に広東省で企業テクノロジー特派員制度改革が始まってから、同省では企業が技術関連ニーズを公開するのを支援しており、こうした課題に効果的に対応でき、確実に解決できる科学研究者が、役職や経歴に関わらず応募できるようサポートしている。企業は、複数の中から、ニーズに最もマッチしたソリューションや最適なテクノロジー特派員を選ぶことができる。
これまでに陳氏のように、大学や科学研究院(所)から来た企業テクノロジー特派員4000人以上が、広東省の企業3000社以上の技術的難題に対し、1000件以上のソリューションを提供してきた。
「省のテクノロジー特派員+農業技術"軽騎兵"モデル」を構築
地理的条件が悪く、発展の基盤が弱い広東省北部で、農村振興をいかに的確に支援するのか。陳氏はこの点を考えながら活動を行っている。
「初めは、技術チェーンの面に注目し、企業が問題を解決できるようサポートしていたが、技術革新のためには結局、人材に頼る必要があることを認識するようになった。プロジェクト終了後、私がいなくなったら、誰が引き継いで企業に技術を提供するのか」。そう語る陳氏に対し、葉南漁村公司も「多くのイノベーション人材を呼び込めるよう協力してほしい」と要請しており、「技術チェーンと人材チェーンを結び付けなければならない」と述べた。
陳氏が橋渡し役を務め、2020年10月、広州工商学院と葉南漁村公司は「広州工商学院-葉南漁村イノベーション起業実践クラス」を共同で開設することに合意した。最初の実践クラスの学生35人は、学校と企業が連携する30コマの授業に参加した。双方はまた、企業イノベーションプロジェクト実習クラスも企画し、学生30人が8コマの温泉漉菜イノベーションプロジェクトの実習に参加した。
陳氏は「学校と企業が共同で育成プランと計画を制定し、共同で教師を派遣し、理論と実践を組み合わせ、学習プロセスを考慮した評価を共同で実施している。この提携モデルは学生にも好評で、最終的に7人の学生が企業で就職、起業することになった」と説明した。
広州工商学院と葉南漁村公司はまた、テクノロジー特派員プロジェクトを契機に、提携実践拠点2カ所、実習拠点1カ所を設け、企業が技術を蓄積し、人材を管理できる良好な基盤を築いた。
2022年8月、陳氏は、テクノロジー特派員プロジェクトの成果リソースをベースとして、積極的にPRを行い、教員と学生からなる農業技術の"軽騎兵"チームの構築に取り組んだ。専門的な実践カリキュラムと企業・産業の実習を結び付け、理論と実践の融合、学校と企業の連携、産業・大学・研究・イノベーション・運用の融合を模索した。これまでに教員や大学の学部生からなる農村美化"軽騎兵"2チームを立ち上げ、「専門的、精密、迅速、正確」なテクノロジーを活用し、農村企業の発展を支援している。
陳氏は「企業や大学、個人について言えば、企業テクノロジー特派員制度が科学研究者の能力を発揮させ、企業が技術を呼び込むプラットフォームを提供しており、多方面のウィンウィンを実現している」と説明。「そのプロセスにおいて、農村の大地で論文を書き、農村振興に確実に貢献できる」と語った。
こうした経験をしているのは陳氏だけではない。広東省科技庁は「華転網」を通じて、企業テクノロジー特派員特定プロジェクト資金として2022年だけで2805万3000元(1元=約19円)を配分した。プロジェクトを通じ、省内の企業が企業テクノロジー特派員特定プロジェクトを十分活用し、テクノロジー人材を柔軟に呼び込み、技術的難題を解決できるよう促している。
共同で農村の産業振興を支援
海水パール産業は、広東省雷州市(湛江市管轄下の県級市)の特色ある産業で、同市の農村振興実現において重要な役割を果たしている。同産業で質の高い稚貝が不足している問題に対し、広東尊鼎珍珠有限公司は「華転網」に技術関連ニーズを公開した。
広東省の企業テクノロジー特派員で、広東海洋大学教授の鄧岳文氏は、同社の稚貝拠点で「アコヤガイ『海選1号』の大規模稚貝繁殖作業」を実施するとともに、技術トレーニングクラスを開設し、従業員の母貝養殖・挿核手術の技術レベルを高め、企業のために技術者20人を育成してきた。
アコヤガイ「海選1号」の良質な稚貝の大規模繫殖・推進に伴い、1年後には、真珠養殖業者に1500万個以上の稚貝が納品され、初回の収益は約500万元と試算された。広東尊鼎珍珠は、良質な稚貝の養殖と普及により、所在地の流沙村で多くの雇用機会を創出。100人以上の業者が恩恵を受けて増収を実現し、パール産業が地元の経済発展を牽引するとの目標を達成した。
鄧岳文氏や陳偉氏ら企業テクノロジー特派員は、現地の産業発展と企業の技術関連ニーズに焦点を当て、生産の最前線に深く入り込んでいる。彼らは企業が問題解決できるよう実際に支援し、力を合わせて農村の産業振興をサポートし、地元農家が豊かな生活を送れるよう牽引している。
陳偉氏は、テクノロジー特派員プロジェクトをベースとして、広州工商学院と葉南漁村公司が2022年に「専門と産業の融合」を展開し、学校の専門人材育成、特許技術の成果転化、専門学科の建設などと、企業の製品産業化、生産、経営管理などを多角的かつ有機的に融合させ、協同発展を促していることを喜んでいる。教員と学生による「農業技術"軽騎兵"チーム」も結成された。一歩踏み込んだ協力モデルが、興寧市の温泉漉菜の産業化や農村の1~3次産業融合発展の基礎を築いている。
陳氏は「省のテクノロジー特派員+農業技術"軽騎兵"チームモデル」が現在、企業7~8社に拡大し、良い効果が表れ始めていると紹介。「今年、成果を拡大し、周囲の多くの人々が農村振興に参加するとともに、企業の技術革新に知恵と技術を提供し、農村建設を支援するよう願っている」と述べた。
※本稿は、科技日報「為郷村企業提供"専精快準"科技服務」(2023年2月8日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。