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【23-17】「AI指導医」の力で歯科医教育がよりスマートに

張 曄(科技日報記者) 2023年12月01日

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南京医科大学口腔医学デジタル化実験教育センター。(取材対象者提供)

「口を大きく開けてください。頭をもう少し左に傾けてください......」。患者にそう話すのは、南京医科大学で口腔医学を専攻する大学院生の張柯佳さん。彼女にとって初めての臨床実習だったが、全く緊張することはなかった。

 その後、モーターの音が鳴り始め、張さんは患者の虫歯を削り始めた。明るいスポットライトの下で彼女が治療を行う様子は、カメラによって全て撮影され、そのデータはネットワークケーブルを通じて、バックエンドの「AIブレイン」に送られて保存・分析されていた。そして、関連するアドバイスがデンタルチェア横のディスプレイにリアルタイムで表示されていた。

 南京医科大学附属口腔医院院長の厳斌教授によると、同医院の口腔矯正科では、独自開発したスマートデンタルチェア口腔オンライン診療プラットフォームを中国国内で初めて導入した。このプラットフォームは、データ収集や患者の口腔内3Dモデルの生成、口腔疾患の診断サポート、治療計画の提案などの機能を備えており、他の人工知能(AI)教育機器と連携して、口腔医学を専門とする臨床教育の全プロセスをカバーする「AI指導医」となっている。

教育面で多数の優位性

 歯医者に行くのが「怖い」と感じる人は多い。歯の痛みが苦痛であるだけでなく、治療の過程で何が起きているのかがよく分からないため、多くの人が緊張してしまうのだ。

 厳院長は「これまでは、情報不足によって患者とのトラブルが起こることもあった。私自身も指導医として、常に全ての学生のやり方が関連基準に合っているかどうかをすべてリアルタイムで監督することはできなかった。また、患者が開ける口の大きさには限界があり、他の人が口の中の治療の様子をはっきりと見ることは不可能だった」と語った。

 そこで、同医院は臨床教育の全プロセスをカバーする新型スマートデンタルチェア口腔オンライン診療プラットフォームを開発した。これにより、デジタル化からスマート化への飛躍を実現し、医師と患者の情報の壁を打破するとともに、口腔治療がより規範化、スマート化した。

 厳院長は「プラットフォームが臨床教育の方法をさらに充実させた。以前は口腔医学の学生の実習で、指導医が手取り足取り教えることができず、学生も一つ一つの動作を学ぶことができなかった。なので、初めて臨床実習を行う学生はとても緊張していた」と説明した。

 同医院は現在、インターネットとモノのインターネット(IoT)技術の優位性を生かし、クラウドコンピューティングプラットフォームや5Gネットワーク、AIなどの技術と組み合わせ、デンタルチェアを接続可能なスマート端末にすることで、センシングや伝送、意思決定のほか、自動制御・モニタリング、データ収集・共有、遠隔医療・教育などができるようになっている。

 厳院長は「圧力センサーやレーザースキャンといった補助機器を活用することで、このプラットフォームは、患者の口腔内3Dモデルを描き出すことができ、口の中の実際の状況を見ることが可能になる。そして、データを活用して、ビッグデータに基づくAIプレビューやスマートナビゲーション、術後フォローアップが実現できる」と説明した。

デジタル化教育を構築

 南京医科大学五台キャンパスにある口腔医学デジタル化実験教育センターの2つの教室には、160個以上のマネキンヘッドが整然と並べられて、厳粛な雰囲気が漂っている。

 厳院長は「当センターは中国最大規模の口腔医学デジタル化実験教育センターだ。教室の一番前には黒板の代わりに巨大なタッチパネルが設置され、教卓の代わりに授業用コンピューターコンソールが設置されている。さらに、各学生の席には、マネキンヘッドと歯科治療用器具が備えてある」と紹介した。

 同センター教師の褚鳳清氏は毎日、学生に口腔治療の規範的な動きや要領を教えている。「各授業でいろんなタイプの歯の模型をセットしたマネキンヘッドを使っている。教室の前方で私がマネキンヘッドを使って抜歯や歯を削る治療の手本を見せると、学生はカメラとタブレットを通じて、それをはっきりと見ることができる。逆に、指導医も学生がどのようにしているかを随時、ランダムに動画で確認することができる。各クラスに数十人の学生がいるが、デジタル化された授業によって、全ての学生が規範化された、プロフェッショナルな歯科治療のノウハウを学ぶことができる」と説明した。

 マネキンヘッドが並ぶ教室の隣には、治療室と手術室に見立てた部屋が設置されている。それらは実際の臨床環境に基づいて作られている。そこにある口腔バーチャル・リアリティ(VR)育成システムには、裸眼3Dディスプレイやハプティクスといった最先端技術が採用されており、学生はVRを使った授業を受けることができる。そして、異なる口腔疾患を抱える仮想患者を相手に、問診、検査、治療、処方、ケアといった口腔治療の全過程を体験することができる。


※本稿は、科技日報「"AI导师"让口腔医学教学更智慧」(2023年9月13日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。