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【23-21】テクノロジーで輝きを増す敦煌の伝統文化

頡満斌(科技日報記者) 曲倩倩、顧雨彤、張 毅(科技日報通信員) 2023年12月21日

 壁画に描かれた生き生きと躍動する獅子、しなやかで美しい飛天、異国の装束に身を包んだ神霊...。これらはすべて敦煌が伝える貴重な文化遺産だ。この「文化の宝石」を保護する過程において、何世代にもわたる科学技術者たちが、模索とイノベーションを繰り返し、敦煌文明を受け継ぎ、この遺産に永遠の命を与えてきた。

 蘭州大学情報科学・工程学院の周睿准教授はこのほど、敦煌文化保護活動を展開する「深度飛天チーム」を率いてグーグルの開発者向けイベント「Google I/O」に参加した。深度飛天チームは2019年7月、同学院の雍賓賓副教授が中心となって発足したもので、敦煌文化の奥深さを再現し、敦煌芸術の特色を掘り起こすことを目標としている。雍氏は「このプロジェクトの目的は敦煌の伝統文化の美しさを人工知能(AI)技術と結びつけ、新時代の芸術設計の支援を通じて敦煌文化の継承と発展を図ることだ」と説明した。

 周氏は「深度飛天チームはテクノロジーを通じて文化のデジタルトランスフォーメーション(DX)をサポートし、これまで伝統芸術に関心のなかった若者たちをこのプロジェクトによって引きつけ、彼らが中国の豊かな文化遺産をさらに理解するよう後押しすることを目指している」と語った。

 敦煌の藻井(天井装飾)は天井に見られる建築的芸術で、同チームがテクノロジーを通じてDXを行った敦煌文化コンテンツの1つだ。チームはGoogle I/Oの展示会場で、4Kプロジェクターと大型LEDディスプレイによって展示スペースを作成。このスペースに4層の模様、3種類のスタイル、数十種類の図形をあらかじめ準備し、来場者が自分好みの藻井をデザインできるようにした。

 来場者は4層の模様を中心から外側へと配置し、ソフトウェアの案内に従って層ごとに違う模様を選んで重ねていく。層が重なるごとに、模様の透明度が増し、システムが選んだ模様を自動的に対称に配置する。模様がほぼ完成すると、次は気に入った画風を選んで変換し、模様を自分の好きな色に「染め上げ」、最終的に自分専用の敦煌模様が生成される、というものだ。

 来場者が敦煌文化の没入型体験をするために、チームは展示会場に電子ディスプレイだけでなく室内展示エリアも設置した。エリアの外観は莫高窟のシンボル的建築物である九重塔をモチーフにしており、来場者は視覚的インパクトをダイレクトに感じることができる。このほか、ディープラーニングシステムに基づいて生成した敦煌模様を「万華鏡アニメーション」の形で中国の古典音楽を流しながら上映し、来場者に文化体験を提供した。

 敦煌文化を保護するチームは数多くあり、「どうやって保護方法を刷新するか」「より多くの人々を引きつけるにはどうすればいいか」「保護の効果をどのように最大化するか」は、すべてのチームにとって課題となっている。

 深度飛天チームが出した答えは「機械学習やコンピュータビジョンなど現代のテクノロジーを利用することで、人々のために新たな方法を創出し、古くからの芸術形式を体験・鑑賞してもらう」というものだ。

 デジタル化と文化を結び付けた他のプロジェクトと比較すると、深度飛天プロジェクトの注目点は、未来主義的なスタイルにある。同チームのメンバーで蘭州大学修士課程生の張焱翔さんは「我々はデジタルツールを単純に使って既存の芸術作品を複製したり展示しているのではなく、先進的技術を利用して独自のスタイルで改良を加え、古典を新たに解釈し直しデザインを行っている」と説明した。

 同チームは技術面のイノベーションだけでなく、文化についての双方向イノベーションも行っている。チームメンバーで蘭州大学学部生の蘇釗さんは「ユーザーが生成したコンテンツはその場で投影される。より心を震わせるシーンが映し出され、来場者をさらに引きつけることができる。インタラクティブでパーソナライズな体験により、深度飛天チームのプロジェクトは来場者の間でとても好評だった」と語った。

 深度飛天チームは素材選択の面でも新たな原則に則っている。ユーザーが自分だけの敦煌模様をデザインするプロセスで、同チームはベースとなる画像を27種類提供した。こうしたベース画像は古代と現代を結びつけるとともに、中国と西洋を結び付けるものでもある。図形には中国の竜や錦鯉などのほか、ドーナツなどの模様もあった。

 チームはこれまで、伝統的な敦煌の技術と現代のテクノロジーを結び付けた没入型展示スペース、敦煌芸術のさまざまな模様とスタイルを識別・分類できるAI駆動システム、ユーザーが機械学習アルゴリズムを通じて自分だけの敦煌のスタイルや模様を生成できる双方向プラットフォームを設計してきた。

 雍氏はプロジェクトの今後の展開について「2つの面で研究を進めていく。1つは破損した壁画の修復、もう1つは敦煌のデータに基づいた専用ナレッジグラフの構築だ」と明らかにした。

 敦煌は中国西北部にある「シルクロードの宝石」で、文化の伝達において重要な役割を発揮してきた。周氏は「古代、人々はここを通じて貿易を行った。現在は、蘭州大学の深度飛天チームが、ここでテクノロジーに基づいて文化を伝承している。インターネットをプラットフォームに、チームのイノベーションの下で、蘭州大学から発せられた文化の音は、さらに遠くへと伝えられていくだろう」と語った。


※本稿は、科技日報「互联网技术让敦煌传统文化焕发新魅力」(2023年11月30日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。