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【24-08】中国がデジタル人材育成計画を発表 人材不足に対応

華 凌(科技日報記者) 2024年05月27日

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ビッグデータやモノのインターネット(IoT)などの技術を農業に活用しようとする技術者。(撮影・王松)

 中国は世界でデジタル経済が最も急速に発展した国の一つとなった。人工知能(AI)を活用したデジタルヒューマンによる24時間ライブコマースや、ビッグデータを活用した遠隔医療、大人気のデジタル博物館など、デジタル化技術が人々の生活に溶け込みつつある。

 2022年末時点で、中国のデジタル経済の規模は50兆2000億元(1元=約22円)となり、国民総生産(GDP)に占める割合は41.5%に達した。新技術や新スタイル、新業態が次々と誕生しているのは、人材の下支えがあるからだ。

 中国人力資源・社会保障部(省)など9部門は4月17日、「デジタル人材育成を加速させデジタル経済発展を支える行動案(2024--2026年)」(以下、「行動案」)を発表した。デジタル人材がデジタル経済を下支えし、質の高い発展を活性化させ、力を蓄えるのが狙いだ。

 行動案では、約3年かけて、デジタル人材の育成、誘致、定着、使用などに関する取り組みを行い、デジタル人材の独自イノベーション能力を高め、活性化することを目指している。

6つの重点プロジェクトを計画

 どのようにデジタル人材を効果的に供給し、集積効果を形成するのだろうか?

 行動案は、デジタル技術エンジニア育成プロジェクトやデジタルスキルアップ行動といった6つの重点プロジェクトを計画している。これらのプロジェクトは、業界や企業、大学などで将来のデジタル人材の「成長マップ」と育成体制を計画し、人材の構造と発展環境を持続的に最適化し、デジタル経済を急成長させる人材の基盤を固めることを目指している。

 近年、「デジタル人材不足」や「人材と業界のニーズのミスマッチ」「重要中核分野のイノベーション能力の低さ」などの課題が際立ってきている。中国のデジタル人材は、2500万~3000万人不足していると試算されており、しかもその数は増え続けている。

 関連データによると、今年の春節(旧正月)明けの1週目、生成AI分野の人材需要が急増し、新たな求人数は前年同期比612.5%増となった。多くの求人プラットフォームにおいて、イメージアルゴリズムエンジニアやアーキテクトの給与がランキング上位を占めるなど、デジタル人材が引っ張りだことなっている。

 ロボットが「聞いたことを理解」して「正しく作業をこなす」にはロボットエンジニアが、自動化生産ラインの建設にはスマート製造エンジニアがそれぞれ必要となる。巨大な工場や鉱山を「バーチャル工場」へと変身させるためには、デジタルツインエンジニアが必要だ。

 そのため、行動案はデジタルエンジニアの育成を、6つの重点プロジェクトの中で最重要プロジェクトとしており、ビッグデータやAI、スマート製造、データセキュリティといったデジタル分野の新職業に重点を置き、国家職業基準を制定・発表し、科学的で標準化されたトレーニング体制を構築し、デジタル人材を独自に育成する新たな競争の場を開拓するとの目標を掲げている。中国人力資源・社会保障部(省)は、年間約8万人のデジタルエンジニアを育成・トレーニングすることを計画している。

マルチレベルの育成体制の構築を

 デジタル人材を育成するためには、教育が重要な役割を果たす必要があり、業界の特徴にマッチした人材育成体制の構築がカギとなる。

 ロボット工学やインテリジェント製造工学、無人航空機システム工学、インテリジェント材料・技術、インテリジェントビジョン工学といった複数の新学科が近年、大学の新たな選択肢となっており、学生の間や雇用市場で人気となっている。

 行動案は大学に対し、デジタル分野関連学科の建設や学際的人材の育成を強化し、職業学校の役割を十分果たすように働きかけ、職業教育専門の高度化・デジタル化を推進することを目標にしている。

 専門家は、デジタル人材が細かく分業化されており、国がそれを対象とした人材計画を制定し、教育・育成の質を高めることで、デジタル人材供給の基礎を強化することが必要だと指摘している。関連する応用型の専門・学科の構築を強化し、デジタル人材・イノベーション拠点の計画と展開を整備するとともに、学校と企業が連携する持続可能な育成メカニズムをできるだけ早く構築し、デジタル人材が増え続けるように推進する必要がある。

 中国国務院発展研究センター公共管理・人力資源研究所の李佐軍研究員は、「マルチレべルのデジタル人材育成体制を構築すべきだ。また、将来を見据えたデジタル人材育成を計画し、複数の未来型技術学院と現代型産業学院を建設するとともに、デジタル分野の工学系と文系学科の建設を強化し、複合型デジタル人材を育成する必要がある。そして、デジタル分野のリーディングカンパニーと大学に対して、共同で『学校の中の工場』や『工場の中の学校』を設置するよう働きかけ、『教育+実践訓練+説明会』という人材育成スタイルを模索すべきだ」と語った。


※本稿は、科技日報「中国数字人才培育行动方案出炉」(2024年4月29日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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