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【24-13】中国の大学入試受験者数、過去最多を記録 出生率と就職率は過去最低

松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2024年07月23日

 6月は中国の大学入試シーズンである。今年も7~10日にかけ、国内各地で1342万人の受験生が高考(ガオカオ)に参加した。これは過去最多の人数で、受験者数は6年連続で1000万人超えとなった。10年前の939万人と比べると、今年の受験者数は42.9%も増加している。毎年恒例であるが、今年も厳しい戦いになったであろう。今年の4年制大学の募集人数は450万人なので、即ち約900万人は競争の負け組になる。注目すべき点は、今年の受験生1342万人のうち413万人は一浪生で、再チャレンジを狙ったその数も過去最多となっている。

 中国メディアは、一浪生も多く加わった今年の入試競争はもはや地獄だとし、「内巻現象」がピークに達したと分析した。「内巻現象」というのは、不条理な内部競争を指す言葉で、競争の激しさのあまり、内部にまで競争が及び、内部での損失も大きくなり、誰もが力尽き、最終的には何も得られない状況を意味する。

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 一方、昨年6月には若者の失業率が過去最高の21%を記録した。上昇する一方である失業率に難色を示した中国政府は、統計方法を変えることにまで踏みこんだ。就職の難しさに伴い、学歴で競争力を高めようと、大学院に進学する学生が増えている。各大学が発表した2022~2023年度の卒業生関連データによると、北京大学や清華大学など11の名門大学の大学院進学率は70%を超え、中国科学院大学の場合、驚異の90.1%となった。985大学のうち25大学で大学院進学率が50%を超えた。中国における2023年の大学院生数は130万人を超え、前年比4.76%増加した。うち博士課程の学生は10.29%、修士課程は4.07%増加した。特に、科学技術、工学、農学、医学分野で院生が増え続けている。

 2024年6月、政府(人的資源・社会保障部)は「大学卒業生の就職・創業に関する通知」を公布し、新卒・既卒で就職できていない者や失業青年(法的に労働可能な年齢で働く意思があるものの失業状態にある若者)を採用する企業に補助金を支払うとした。また、大学キャンパス内で行う採用イベントの開催頻度を増やし、大卒者が多い都市では週1回を目安に開催することを促した。

 学業や就職戦争の激しさが響き、結婚に対する若者の認識も否定的になりつつある。「中国統計年鑑2023」によると、2022年の婚姻届件数は684万件と前年より81万件減少した。初婚年齢も年々高まっている。結婚願望が低くなっている原因については、教育期間の長引き、就職の難しさ、教育費や不動産価額の高騰、彩礼(日本の結納金に相当)金額の高さ、不倫や家庭暴力事件の増加などが挙げられている。

 出生数も年々減少し、2016年には1785万人だった出生数が2022年には956万人にまで減った。ちなみに、1949年の建国以来、出生数が1000万人を下回ったのは、今回が初めてで、史上最低を記録した。

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 最近中国では、従事する仕事のレベルと学歴が合致しないケースが増えている。このような現象も無謀な学歴・就職戦争によるものだと考えられる。

 大学院生を増やすことは、一時的な失業率の緩和に役立つかもしれないが、有効策ではない。出生率が減り続けていることは大きな警鐘であり、過熱する学歴戦争や上昇する失業率の根本的な解決に向け、真剣な検討が必要な時期に来ている。

 

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