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【25-10】AI教育専攻がAI分野の「種まき役」を育成

孫明源(科技日報記者) 2025年08月19日

経験について話し合う北京師範大学人工知能学院の卒業生。(画像提供:取材先)

小中高校ロボットコンテスト「人工知能」部門に参加する学生。(画像提供:視覚中国)

 中国教育部が先日発表した「大学学部専攻目録(2025年)」で、新たに29の専攻が追加された。中でも、北京師範大学が新設した「人工知能(AI)教育専攻」が大きな話題を呼んでいる。

 この専攻名は近年注目されている「AI専攻」に似ているが、専攻内容は同じではない。同大学が新設したAI教育学部専攻は、AIの技術的素養と教育実践能力を兼ね備えた複合型人材の育成に力を入れており、小中高校のAI教育における教員不足の問題を解消し、教育のスマート化戦略のニーズに応えることを目指しているという。

AI教員の不足に直面

 同大学未来教育高度イノベーションセンターの余勝泉執行主任は、「現在、AIはこれまでにない速度で私たちの社会を再構築し、教育を含むあらゆる分野に深い変革をもたらしている。新しい技術を使いこなせる『デジタル市民』を育成することは、今日の教育改革における重要な課題となっている」と述べた。

 AIの発展に対応するため、同センターは以前、騰訊(テンセント)と協力し、「小中高校AI教育プロジェクト」を共同で推進してきた。プロジェクトの内容には、小学校、中学校、高校の全ての段階をカバーするAIの知識体系とカリキュラム内容の体系的な開発が含まれている。

 2024年末、教育部弁公庁は「小中高校のAI教育強化に関する通知」を発表し、小中高校のAI教育実施方法の模索と強化を求めた。今年、北京市教育委員会は「北京市小中高校AI教育推進実施計画(2025-27年)」を発表し、常態化されたAI教育・学習システムの構築と科学的で規範的な人材育成モデルの模索を提案した。

 同大学教育学部の関係者は、「政策によって大きく注目されているが、中国の小中高校段階のAI教育は依然として、教員不足、専攻育成システムの欠如など、多くの現実的な課題に直面している。このため、私たちは教育とAIという学際的な分野の強みを活かし、先駆けてAI教育学部専攻を設立した。これは、技術的素養と教育実践能力を兼ね備えた複合型人材を育成し、教員不足というボトルネックを解消し、教育のスマート化戦略に強力なサポートを提供することを目的としている」と説明した。

 では、AI教育専攻では何を学ぶのか、これはAIと教育学を融合した新しい専攻だ。

 この専攻のカリキュラム体系は、AI技術と教育という2つのモジュールで構成されており、それぞれが基礎と応用の2つのレベルに対応している。2つのモジュールの科目は相互に融合し、有機的に結合することで、「二重らせん」のカリキュラム体系を形成している。

 うち、AI技術モジュールでは、生成AI、機械学習、自然言語処理、教育データマイニングなどの最先端分野をカバーしている。教育モジュールでは、教育理論、学習科学、教育心理学、カリキュラム設計・開発、教育測定と評価などの教育科学の基礎科目が組み込まれている。

 この専攻では、教育AI技術応用などの実践・イノベーション系科目を設置する予定で、スマート教育アシスタントの開発や教育データ分析などのプロジェクトを通じて、学生が教育現場におけるAI技術の応用を深く理解できるように支援する。

 関係者は、「この専攻では、AI倫理とデータセキュリティなどの必修科目を設け、学生の技術応用における教育的責任感を強化し、『技術は教育のためにある』という価値観を育成する」とも述べた。

「三位一体」の人材育成モデルを導入

 同大学のAI教育専攻は、教育学の専門分野に属する。この専攻は、教育学の実践を重視する学問的特性を継承しており、大学、企業などの機関が学生の実践の場となり得る。

 同大学教育学部の関係者によると、同大学は「大学+企業+小中高校」の三位一体育成モデルを導入し、学生に実際の教育現場と実習の機会を提供することで、学生がAIと教育理論の知識を、現場の教育における実際の問題を解決する能力へと転換できるよう支援する。

 この育成体系の下で、学生は次第に小中高校のAI教育分野におけるリーダー的人材へと成長し、AI科目の全体的な設計と教育実践を行い、スマート技術と学校業務の双方向の融合を推進し、小中高校のAI教育の普及とスマート化への転換の中核的な力となる。

 教育学部の関係者は、「新設された専攻は就職の見通しが明るく、卒業生は多様な分野で専門的な強みを発揮し、関連する職務を行うことができる」と述べた。

 基礎教育分野では、卒業生は小中高校のAIカリキュラムや情報科学系の教員として、カリキュラム設計、教育実施、スマート教育ツールの開発と普及を担当し、学校の教育のデジタル化とスマート化への転換を支援できる。また、教育技術業界でも関連人材が必要とされており、スマート教育システムなどの製品の研究開発と最適化に従事し、例えばプロダクトマネージャー、教育技術コンサルタント、カリキュラムデザイナーなどの仕事に就き、関連するカリキュラムのイノベーションと応用を推進できる。

 さらに、AI教育専攻の卒業生は、研究機関や大学に進んでAIと教育の学際分野における科学研究に従事したり、教育管理の仕事に就いたり、教育のデジタル化およびAI教育分野の政策策定と実施などに携わったりすることも可能になるという。


※本稿は、科技日報「人工智能教育专业:培养AI领域"播种者"」(2025年7月9日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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