【25-11】AI分野における先導的人材の育成強化を
劉彦蕊、呂 鑫(北京市科学技術研究院創新発展戦略研究所) 2025年08月27日
人工知能(AI)分野における国際競争において、中国が「並走」から「リード」へと飛躍するためには、「育成、評価、流動」の3つの面から着手し、人的資源の配置モデルを最適化し、AI分野における先導的人材の競争力を高める必要がある。
人的資源は、国際競争において重要な力であり、顕著な優位性となる。AIの科学研究と工学的実現においては、雁の群れの先頭を飛ぶような先導的人材によってAI産業の発展の方向性が決まる。現在、中国のAI分野では先導的人材が不足し、育成、流動、評価のいずれもが困難であるとの問題を抱えており、早急に育成・管理モデルを革新し、関連人材を拡充することが急務となっている。
科学分野の先導的人材不足が産業発展の足かせに
中国のAI産業は現在、全体的な人材不足と科学分野の先導的人材不足という課題に同時に直面している。AI分野における先導的人材は通常、しっかりとした基礎理論と応用技術を備えており、AI関連の学際的知識を熟知し、卓越した科学的素養、イノベーション能力、システム思考能力、国際的な視野を持っている。このような人材には、経験豊富な研究者・技術者、イノベーション起業家のほか、特定の技術分野で先端的思考を有する若手大学院生も含まれる。AI産業チェーンは通常、基礎層、技術層、応用層の3段階に分かれている。そのうち、基礎層の人材は、先端アルゴリズムや重要理論のイノベーションなどに注力しており、科学分野の先導的人材が集中している。中国の週刊誌「瞭望」の統計によると、2024年、中国のAI分野の基礎層、技術層、応用層の既存人材数の割合はそれぞれ17.1%、28.6%、54.3%だった。スタンフォード大学が発表した「2025年AI指数報告」によると、中国の産業界が発表したAI関連出版物が占める割合はわずか8.02%で、学術界の割合は84.45%に達している。産業界の基礎層であるAIチップ、アルゴリズム研究、基盤アーキテクチャシステムといった分野の先導的人材が不足しているため、企業が基礎技術における独自イノベーション創出に取り組む意欲を削ぎ、産業の競争力に深刻な影響を与えている。
中国内外の事例を見ると、OpenAI社にしても、杭州のDeepSeek(ディープシーク)社にしても、科学分野の先導的人材を集め、革新的な人材組織インセンティブガバナンス構造を構築することで、技術面で画期的なブレイクスルーを実現している。AIの質の高い発展の需要と比べると、中国のAI分野における先導的人材は、「育成が難しい、流動が難しい、評価が難しい」という3つの大きな課題に直面している。
科学分野の先導的人材の「育成が難しい」のは、AI発展の複雑性が原因だ。長年の努力を経て、中国は既に、世界最大規模のAIテクノロジー人材を有している。しかし、AIは複雑なシステム工学である上に、技術が日進月歩であるため、先導的人材の育成は他の産業や業界内の一般的な人材育成と異なる。先端技術の知識は数カ月ごとに大きくアップデートされ、中国の現在のカリキュラム設計や教材編集モデルでは対応が難しい。また、大学の人材育成は市場ニーズへの対応が不十分で、最先端の技術に追随しながら、実際の操作、応用を重視する教員が不足しており、学校の計算リソースでは、大規模言語モデルの教育や訓練のニーズを満たすことが難しく、人材育成は「理論が古く、実践が少ない」という状況に陥っている。
経済環境の変動により、AI分野における先導的人材の産業界への「流動が難しい」という問題が生じている。一方では、経済が下振れ圧力に直面する中、起業・投資が減少し、体制を離れて起業する高度人材も減っているのに対し、大学の科学研究機関にとどまる人材が増えている。他方では、AI分野における重要な成果の達成には、さまざまな方向性の人材による科学的な分業、効率的な連携、そして実践の繰り返しが必要となる。そのため、簡単で迅速な従来の方法では、人材を正確に見極めることが難しく、選定を誤れば大きな損失となる。これが、企業の人材採用のハードルを高め、学術界から産業界への人材流動の効率に影響を与えてしまう。
人材の業績「評価」が難しいのは、科学技術の体制・メカニズムに障害が存在するからだ。さまざまな業界を活性化できるというのがAIの価値で、そのためには、基礎技術の面でブレイクスルーを実現する必要があるほか、テクノロジー成果の産業・学際的な応用も必要だ。これは、既存の人材評価基準、科学研究組織の在り方も変革が求められることを意味する。しかし現在、AI分野における人材政策の精度が低く、人材評価には、「論文、肩書、学歴、受賞歴」を重視するという問題が依然として存在している。多くの機関は、差別化された評価制度を持たず、一部の制度や規則は、AIの発展法則と一致していない。
科学分野の先導的人材を充実させる措置が必要
中国がAI人材の国際競争において、「並走」から「リード」への飛躍を実現するためには、「育成、評価、流動」の3つの面から着手し、人的資源配置モデルを最適化し、AI分野における先導的人材の競争力を高めなければならない
第一に、教育・テクノロジー・人材の連携を強化し、AI分野における先導的人材が生まれる「基盤」を固めるべきだ。産学研連携と教育・テクノロジー・人材の一体化が、AI分野における先導的人材を育成するカギとなる。共同育成の新しいモデルを模索し、科学分野における若手の先導的人材育成を急ぐよう提言する。まず、大学の人材育成計画を企業の実際のニーズにもっと対応させるべきだ。AI基礎カリキュラム群、主要カリキュラム群、学際的カリキュラム群などを設置し、科学・技術・工学の学際的融合と相互補完を強化する。次に、産学研連携の融合・イノベーションプラットフォームを立ち上げるなどして、複合型人材を一貫して育成する。産学研連携の重点研究開発プロジェクトなどを増やし、企業の研究開発機関の建設を強化し、一般教養、科学研究能力、イノベーション能力を結合させ、人材育成を知識伝達型教育から探求型教育へと転換させる。さらに、中国全土の大学に計算リソース共有プラットフォームを構築し、大規模言語モデルの訓練に必要な計算リソースを普及させ、学生や研究者の革新的な実践を支援する。
第二に、「論文、肩書、学歴、受賞歴」を重視するやり方を改め、新たな基準を確立し、評価の方向性を改善し、人材がその才能を最大限に発揮できる「ソフトな」環境を築くべきだ。まず、AI人材評価の指針を重点的に改善し、「論文、肩書、学歴、受賞歴」を重視するやり方を改め、新たな基準の確立を深く推進すべきだ。実際の貢献を重視し、論文や特許の数といった指標への依存を減らす。分野別、期間別、レベル別の革新的な成果の創出に資する多元的評価体制の構築を模索する。次に、科学研究課題の「掲榜掛帥(イノベーションプロジェクトのリーダーの年齢・職位にとらわれない自薦による公募)」や競争制のメカニズムを整備し、AI分野における先導的人材がリーダーとなって参加できるよう支援する。より多くの人材が、AIの基礎層に集まり、より画期的で自由な探求活動に従事することを奨励する。最後に、若いAI研究者に、より自由に探求できる空間を提供する。AIの弱点分野では、目標志向の「決意表明」制度を導入し、優秀な若手人材が重要な役割を果たし、重責を担うよう支援し、奨励する。
第三に、人材の産業界への流動を促進し、AI分野における先導的人材の価値が新たな高みに達するようにすべきだ。企業のAI分野におけるテクノロジーイノベーションの地位を強化し続け、学術界の人材が、産業界に流動し続けるよう積極的に推進する。まず、学術界から産業界へと流動する時のAI人材の懸念を解消する。税制や戸籍、保険、住宅といった面の支援政策・措置を整備し、重要なテクノロジープロジェクトの担当、国家標準策定への参加、院士の選出、政府奨励といった面で、企業にさらに多くの機会や支援を提供する。次に、体制の障壁を打破し、制度のイノベーションを推進し、科学研究者の「回転ドア」制度(公私間の人材移動)を支援し、大学の人材の退職・起業政策をさらに最適化する。最後に、AI人材の職業分類体系を整備し、各種細分化された分野の人材能力・資質基準を確立する。AI分野の人材能力開発基準の整備を加速させ、人材の地域間、組織間の円滑な流動を支援していく。
※本稿は、科技日報「大力培育人工智能科技领军人才」(2025年6月23日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。