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【25-20】学問領域の壁を打ち破り、国際協力を強化する-2025世界青年科学者サミット

江 耘(科技日報記者) 方佳佳(科技日報通信員) 2025年11月18日

「科学が単独で進む時代はすでに終わり、今後の発展は協調能力にかかっている。思想・データ・人材の自由な往来を妨げる壁を取り除かなければならない」--会場を埋め尽くした若手研究者らを前に、欧州科学アカデミー院長で、中国科学院外国籍院士(アカデミー会員)のドナルド・ブルース・ディングウェル氏はこう語った。そして、「目の前にいる若い科学者たちがこの理想を実現する鍵だ」と強調した。

 これは、10月24日から26日に浙江省温州市で開かれた「2025世界青年科学者サミット」の一幕だ。今年のテーマは「天下の英才を結集し、より良い未来を共創する」で、「変革を迎え、若手科学者が共に未来を形づくる」を年間テーマとした。大会では、全体会議、11回の分科フォーラム、「万有引力π」展示交流イベントのほか、地域拡大会合や地方活性化イベントが多数行われた。47カ国・地域、70以上の国際科学技術組織から約800人の科学者、投資家、企業家が参加し、世界や生命、未来について議論を交わし、持続可能な発展のあり方を探った。

「学際的協力」がキーワードに

 高齢化が進む中で、さまざまな代謝性疾患や新たに発生・多発する感染症が、医学分野に新たな課題をもたらしている。

 本サミットの全体会議では、中国工程院院士で北京大学常務副校長兼医学部主任の喬杰氏が、「未来の医学の新たな姿は、学問分野の壁を打ち破り、医学を生命科学や情報科学、工学と融合させることだ」と述べた。

 イタリア・トリノ大学のマリアンジェラ・ルッソ教授は会場で、自身のチームによるがん細胞研究の経験を紹介した。ルッソ氏は、「チームの重要成果は数人の理論物理学者との共同研究によって得られたものだ。彼らは当初、がんについての理解は限られていたものの、学際的協力を通じて、双方のがんに対する認識は大きく向上した」と語った。

 ルッソ氏はまた、「がん研究は決して単一の学問分野の境界に縛られることはない。現代の医療技術は、がんの本質に対する人々の認識を再構築している。この変革を推進するには、思考を転換する意欲を持ち、学問分野の壁を打ち破る意志を持つ人材が必要だ」と強調した。

 サミット期間中に開かれた、ヘルスケアやブレイン・マシン・インターフェース(BMI)、先端製造、量子フォトニクスなどに関するフォーラムイベントでは、「学際的協力」が高頻度で登場するキーワードとなっていた。

 若手科学者「飛鳥」フォーラムでは、飛鳥実験室主任の李鵬氏が「飛鳥理念」を説明した。この理念は、学問領域の壁を打ち破り、若手研究者に「到達ではなく飛翔」の姿勢で未知を探求することを奨励するものだという。

 同フォーラムで、中国科学技術協会党組副書記・副主席の馮身洪氏は、若手科学者と意見を交わしながら、「飛鳥理念に内在する学際性こそが、従来の科学研究パラダイムを突破する鍵だ」と述べた。

AIが教育と研究のパラダイムを再構築

 世界青年科学者連合会の陸朝陽理事長は、「AIは新たな科学技術革命と産業変革を主導する戦略的技術であり、世界の主要国が競って取り組む科学技術の最前線、および戦略上の重要分野だ」と指摘した。

 サミットの全体会議では、中国科学技術情報研究所科学計量・評価研究センターが作成した「グローバルAI分野における若手科学者の分布と流動に関する研究報告(2025)」が発表された。

 報告によると、世界のAI分野の若手科学者のうち59.83%が中国と米国に集中している。また、中国とオーストラリア、シンガポールなどの間では比較的大規模な人材の双方向流動が見られるという。

 大学教育と未来の人材育成に関するフォーラムでは、中国教育発展戦略学会の張寧副会長が、「AIをはじめとする科学技術の潮流に直面し、大学教育は自ら変革を主導する必要がある」と語った。

 英国リバプール大学副学長の席酉民氏は、AIが「知識の氾濫」などの課題をもたらしていると指摘。「教育の目的は『無知を防ぐ』ことから、創造力や人とAIの協働能力を育てる方向へと転換すべきだ。今後の教育は、大学間や国家間を越え、需要志向で、技術駆動型の特徴を示すようになる。大学は教育モデルを改革して学術的活力を引き出し、学生の独自の能力を育てる必要がある」と述べた。

 最近、北京大学は「医学+X」インテリジェント学術探索プラットフォーム「Xplore」を公開した。最初に導入された医学AIツールには、「学者検索」や「統合型デジタル医療エコスペース」などがあり、医学研究者が医学知識の習得、基礎研究、臨床診療を効率化するのを支援している。

 喬氏は、「北京大学医学部は『北大医学+AI』の科学技術イノベーション・エコシステムの構築を進めており、医学分野においてAIが協力できる範囲を明確にしている」と説明。「若手科学者は、AIが現在どこまで適用可能で、どのような限界があるのかを理解して初めて、柔軟に活用し、自ら最適化できるようになる」と自らの見解を述べた。

協力して人材育成の肥沃な土壌を創出

 同サミットのヘルスケアフォーラムでは、複数の協力プロジェクトが始動した。細胞・サイトカイン医薬品国際連盟の設立準備が始まり、中国・タイ・バイオ医薬産業連盟が設立された。さらに、中国とキューバのアルツハイマー病・神経変性疾患トランスレーショナル研究センターの調印式も行われた。

 基金の設立、賞の設定、プラットフォームの構築など、サミットは2019年の開催以来、「協力の輪」を広げ続けている。すでに100を超える国・地域、200以上の大学を網羅し、100以上のイノベーション・プラットフォームの立ち上げを促し、温州で1244件の先端プロジェクトが定着・成長するのを後押しし、若手科学者たちのイノベーションと起業を支援している。

 ディングウェル氏は、「若手科学者には無限の潜在力があるが、その潜在力を育むには肥沃な土壌が必要だ。新進気鋭の若手英才が分野を率いる科学リーダーへと成長するには、個人の才能だけでは不十分であり、有利な成長環境が不可欠だ」と語った。

 サミット期間中、「世界のキャリア初期段階にある若手科学者の成長と発展の現状に関する調査(2025)」が発表された。この調査はオンラインアンケート形式で実施され、計3065人の科学者が回答した。回答者は欧州、アジア太平洋、アフリカなど複数の地域に及ぶ。調査報告は、若手科学者がキャリアの成長過程で直面する多くのプレッシャーを明らかにしている。その主なものは、初期段階の資金不足、事務作業の負担、短期的評価のプレッシャー、給与や職業の安定性に対する懸念などだ。

 データによると、キャリア初期段階にある若手科学者の成長は、外部資源と制度環境に大きく依存している。これには、一流機関での学習・就業機会、十分で安定した資金支援、トップ科学者による指導、公平かつ妥当な研究評価・昇進制度、国や機関を越えた学習・経験交流の機会などが含まれる。

 ディングウェル氏は、「科学界や研究機関には、若手科学者がより良い成長環境を得られるようにする責任がある。彼らの好奇心は、科学研究の方向性を指し示す『羅針盤』であり、彼らがその好奇心に従って探求するために必要な資源と支援を確保すべきだ」と訴えた。


※本稿は、科技日報「突破学科壁垒 强化国际协作」(2025年10月28日付)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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