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【15-003】城会玩(チェンホイワン)、然并卵(ランビンルアン)とエイズの増加―ことばから見る中国社会

2015年12月15日

河崎みゆき

河崎みゆき:上海交通大学日本語学科日本語教師、
応用言語学(文学)博士

略歴

國學院大學文学部大学院修士、華中科技大学中文系応用言語学博士学位取得
1989年、千葉県社会福祉協議会中国帰国者センターで日本語を教える。2005年2月より華中科技大学日本語学科で8年半日本語を教え、現在、上海交通大学日本語学科日本語教師。専 門は日本語教育および中国社会言語学。

 日本では年末恒例の新語流行語大賞が発表になり、「爆買い」が一位になったようだが、私の周囲でも日本に行った中国人が日本を大好きになって帰ってくるという現象があり、本屋には日本に関する出版物も増え、日本への興味がよい意味で増大していることを感じている。そんなことを書きたいと考えながらも、バタバタと過ごし勤務校の大学の今学期もあと一カ月を切った。夏休みに日本では嫌中国派が驚くほど増えていることを感じただけに、爆買いがもたらした日本への興味と嫌中のベクトルが向き合わないことをもどかしく思う。

 中国でも新語流行語TOP10が出たようだが、それ自体は他の記事に任せて、最近よく目にする「城会玩(チェンホイワン)」と「然并卵(ランビンルアン)」また、それを教えてくれた留学生を取り巻く心配についてちょっと書きたい。

城会玩(チェンホイワン)

 これはもともと「城会玩」=「你们城里人真会玩(あんたたち城市・都会の人って遊ぶのが上手ね)」ということばの略語で、百科の解説では[1]、上海のある大学で(上海交通大学という説もある)で呉亦凡というスターが映画撮影していた折、誰かが彼に扮して写真を撮り、それを本人だと偽って微博(中国のマイクロブログサービス)にアップしたところ、嘘だとわかり「まったく、大都市の人はいたずらがうまいよ」といった文脈で使われたのが最初だとされる。

 今ではたとえば他の記事[2]で、アメリカ映画の「アベンジャーズ」と思える写真に中国東北の女性が着る独特の花模様の服を着せた合成写真のいたずらなどを指し、若者の中だけでなく、言語に敏感な大人などにも認知度が高まっている。ある知り合い(32才男性)の用例では、「雪の降る中、半袖をきた北京の人を見ると『城会玩(まったく都会の人って面白い)』」のように、使用法はこれからしばらく都市生活の面白さや地方との格差といった文脈でも増えてくることが考えられる。

然并卵(ランビンルアン)

 こちらも「然并卵」=「然而并没有什么卵用(しかれどもなんの役にも立たない)」と言う意味で、どちらも略語で三文字だ[3]ということが面白い。「然并卵」は、もともと方言語彙の中にあり、ネットゲームの解説で使われたとあるが[4]、2005~6年から私が注目してきた学生たちが使う流行りことば「郁悶(ユーメン:うんざり)」、「暈(ユン:くらっ」、「hold住、hold不住:耐えられる、耐えきれない)」のような軽いガス抜きことばとも働きが似ているように思う。微博で用例を見ると「銀杏がやっと黄色くなった、然并卵、でもねまた雨が降って来ちゃった」とか「大きなベッドとヨーグルト、暖房とおやつ、こんなふうに、先週末見られなかったドラマでも見て。ああ、でも然并卵、もうすぐ出かけなきゃならない」と言ったように前句の内容が無駄になる意味合いで使われている。日本でも、ライブドアニュースにも既に出ていたり[5]、日本の「北辞郎」というネット辞書にも既に採られている[6]

 単に流行語というだけなら、今年上半期には、日本語の「壁ドン」が「壁咚(ピートン)」と、ほぼ直訳で中国語に入ったことの方が面白いだろう。私の学生たちも知っているし、大学の掲示版に貼られたポスターにも壁ドンの写真に「壁咚」の文字があった。

 今回なぜ上記二つに注目したかというと、この流行語を日本からの上海交通大学の留学生の方に教えてもらい流行語が留学生の中国語の中にも入りこんでいることを感じたからだ。

 留学生の生活というと、日本人留学生の生活や、日本語学科にも在籍する韓国、台湾、ミャンマーなどの東南アジアからの留学生たちの生活を微信(中国のSNS)で垣間見るにつけても、彼らの生活が上海という都市で「城会玩」・都市生活を十分、エンジョイしている写真をしばしば見かける。

 どこで何を食べたか、美味しいレストランの食事、上海ワイタンの夜景や、彼とのツーショット。中国人の学生たちが勉強に割く時間より、留学生たちは上海という都会を楽しむ時間が長そうだ。もちろんそれは留学の醍醐味の一つであるから、自分の住む街を十分楽しむべきだと思う。

写真1

写真1 最近増えたおしゃれな本屋

写真2

写真2 棚の3分の1ほどが、日本文学の翻訳もの。
他にも平積みで、東野圭吾や、日本文化の本などがある。

中国の高校、大学生エイズ感染者が年35%勢いで拡大

 一方で最近、やはり微信に流れてきた「近5年我国大中学生艾滋病病毒感染者年增35%(ここ5年間で我が国の高校、大学生エイズ感染者が年35%の勢いで拡大している)」[7]という記事にはっとした。学生たちや留学生たちは、そのことを知っているだろうかと心配になった。

 「中国疾病コントロールセンター性病エイズ防治センタ―主任呉尊友によれば2014年、全国で15歳から24歳の間で新たにエイズに感染した患者が1.5万余人を超し、2011年~2015年の増加率が35%に達している」[8]となっている。中国のエイズ患者57.5万のうちで学生の占める率は1.6%だそうだ。また男性同性愛者に多いとある。私の存じ上げる日本の国立感染症研究所の先生のお話では、北京や上海より成都・重慶でMSM(男性同士)の感染率が高いという報告があるそうだ。だが、記事にある、年増加率35%という数字は遠くの対岸の火と考えていい数字だろうか。

 中国の学生たちは固より、都市の留学生活を楽しむ留学生活でこうした病気がすぐにでも感染すると恐れる必要はないが、やはりこの数字を知り、予防法や、感染経路、可能性について頭に入れておいた方がよいと思う。

 今回は留学生活をより安全に楽しみ、「然并卵でもね」、と留学で得たことが無駄になったり、後顧の憂いがないようにと、敢えて流行語の留学生生活への流入と学生の中のエイズの拡大とを関連づけて書いてみた。

 備えあれば憂いなし。

 上海の街にもクリスマスがやってきている。

写真3

写真3 上海交通大学徐家匯キャンバス近くのショッピングモールにもクリスマスツリーが設置された。


[1]城会玩

[2]然并卵、城会玩、理都懂、腿玩年···现代新三字经,你都懂?(然并卵、城会玩、理都懂、腿玩年···といった現代の新「三字経」あなたにわかりますか?)

[3]同上。

[4]然而并没有什么卵用

[5]ウィリアム・チャン 流行語「然并卵」を使い、ネットユーザー「誰から教わるの?」http://news.livedoor.com/article/detail/10297116/

[6]然并卵 http://www.ctrans.org/search.php?word=%E7%84%B6%E5%B9%B6%E5%8D%B5

[7]近5年我国大中学生艾滋病病毒感染者年增35%(ここ5年間で我が国の高校、大学生エイズ感染者が年35%の勢いで拡大している)http://news.xinhuanet.com/health/2015-11/26/c_128471196.htm

[8]同上。