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【17-006】中国の宅配業務、「最後の1キロ」解決が成功へのカギ

2017年 8月 2日

楊保志

楊保志(風生水起);広東省科技庁科技交流合作処副調研員

河南省潢川県出身。入学試験に合格し軍事学校に入学。26年間、軍務に就き大江南北を転戦し、その足跡は祖国の大好河山に広くおよび、新彊、甘粛、広東、広西、海南などの地域で銃を操作し弾を投擲した。メディア、組織、宣伝、人事などに関する業務に長年従事し、2013年末、広東省の業務に転じた。発表した作品は『人民日報』『光明日報』『中国青年報』『検査日報』『紀検監察報』『法制日報』『解放軍報』『中国民航報』などの中央メディアの文芸・学術欄に、また各地方紙、各軍関連紙軍兵種報紙にも掲載され、『新華文摘』『西部文学』『朔方』などの雑誌や、ラジオ、文学雑誌にも採用され、“中国新聞賞”文芸・学術欄銀賞、銅賞をそれぞれ受賞し、作品数は500篇に迫る。かつては発表を目的に筆を執っていたが、現在は純粋に「自分の楽しみ」のためとしている。

 中国の宅配業は約30年の発展を経て、巨大な産業へと成長している。2008年、中国の登録済みの宅配企業は5000社以上に達し、同業界に従事している人の数も23万1000人に達した。中国の一定規模以上の宅配業者は09年、前年比22.8%増の累計18億6000個の荷物を処理し、収益は前年同期比17.3%増の累計479億元(約7930億円)に達した。省内、省外、海外・香港地区・澳門(マカオ)地区・台湾地区の宅配収益はそれぞれ、通年で全体の7.3%、55.7%、31.7%を占めた。また、宅配業務量はそれぞれ、全体の23.5%、70.4%、6.1%を占めた。

 「宅配」の定義について、中国の新「郵政法」は、「約束した期間内に、手紙・書類、荷物、印刷物などを、記された宛名、住所に基づいて、特定の個人、機関にスピーディに送り届けること」と説明している。「宅配便」と従来の「郵政」の業務は、運ぶものの性質の面で、大きな違いがある。従来の郵政業で運ばれるものは主に「手紙」で、実質的には「情報」の流れの一端を担っているのに対して、宅配業は、「物の流れ」という特徴が際立っている。そのため、宅配業は物流業と似た点が多い。しかし、通常、宅配業で運ばれる荷物は軽く、体積も小さい。そして、できるだけ早く受取人のもとまで届けることが求められる。つまり、宅配業は、物流業と従来の郵政業の中間に当たる、独立した新興の業界といえる。

 中国の大手物流業ポータルサイト「中国物流網」にアクセスした人の注目指数に基づく中国の宅配業者ナンバー1は「順豊速運」だ。そのサービスや従業員の態度の良さは業界内でも広く認められ、全国統一の電話サービスや監督メカニズムも優れている。同社が効率良く、スピーディに荷物を届けてくれるのは、フランチャイズ形式を採用せず、本社が統一的に管理を行っている企業だからだ。そのため、各地のサービスの水準も基本的に統一することができている。反対にデメリットは、やや辺鄙な場所には営業所がないことや料金が他の業者より若干高めである点だ。

 ナンバー2は「郵政EMS」だ。EMSが2位につけていることに異議を唱える人も多い。しかし、同社は営業所が非常に多いことがメリットであることは明らかだ。そのネットワークは田舎の地域を含む中国全土に広がっており、運営も秩序立っており、高い実力を誇る。少なくとも、会社全体が「夜逃げ」してしまい、連絡がつかなくなるということは絶対にない。郵政EMSの輸送車両は、ある通過点を出入りする時など、場所によって「優遇」されることも多く、それらは私営の業者にはないことだ。また、「郵政EMS」は世界にネットワークがあり、海外の顧客に商品を送る場合は、活用することができる。デメリットは料金が高いほか、全体的なサービスのクオリティも向上が待たれる。

 ナンバー3は、「圓通快遞」だ。同社は早くに創立され、フランチャイズ形式であるため、場所によってサービスの水準が異なる可能性があるものの、業界内では「ベテラン」の立場にあり、経験も豊富で、営業所も多い。また、配達が遅れても顧客がクレームを出す所がなく、「本社の電話番号」が示されていても、全く意味をなさないという宅配業者も多いなか、「圓通快遞」なら、宅配の過程でトラブルが発生した場合、少なくとも本社にクレームを出すことができる。

 ナンバー4以下は、申通、宅急送、韵達、中通、天天、匯通、中誠と続く。これらの宅配業者も、中国全土に多くの営業所を構え、ある程度の知名度がある。いずれの業者も各地の支社がフランチャイズ制であるため、場所によってサービスの水準に差があり、「最悪」という言葉を使わなければならない場所も一部あるものの、全体的に見ると、小さな宅配業者よりは優位性がある。

 ただ、どこの宅配業者が良いかと言うのは、それぞれの必要に応じて決まるものと言うべきだろう。送りたい荷物の種類や送り先の住所などの要素も関係してくる。例えば、肥料や農作物の種を売っている人なら、選択肢は「郵政EMS」の1つしかない。料金の安さだけに目を止めることはできず、それよりも、秩序だった運営がされているかや荷物の安全性、配達の効率、カスタマーサービスなどのほうが重要だ。もし、ノートパソコンを送ったのに、届いたのはレンガであったなら、ただで送ってもらえるとしても、利用する人はいないだろう。カスタマーサービスの良し悪しは、宅配業者にとっては生命線ともいえ、サービスのクオリティはとても重要な要素だ。

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写真1 中国の物流の現場

 17年6月13日付の、中国江西網の情報によると、江西省郵政管理局はこのほど同省の「実店舗販売のイノベーション・移行促進実施に関する意見」を発表した。江西省は今後、「政策」を追い風にして、年内に宅配業者営業所の農村地域のカバー率を100%にし、段階的に行政村にまでそのネットワークを広げたい考えだ。これは、急速な発展を見せる中国の宅配業の縮図と言えるだろう。

 同「意見」は、ビジネス、農業、供給・販売、郵政、ニュース・出版、企業資源などの利用をさらに統合し、「宅配便を農村へ」というプロジェクトの推進を奨励し、農村の「宅配ハイウェイ」を構築し、農村のサービスネットワークを拡大し、農村の各ルート・流通システムを段階的に整備しなければならないと指摘している。これは、農村にサービスネットワークを拡大したい郵政、宅配業者にとっては追い風となり、各宅配業者が「宅配便を農村へ」というプロジェクトを実施するよう導くことができる。これをベースにすれば、農産品の輸出や工業製品の農村への販売拡大などのルートにも障害がなくなり、発展が遅れている農村地域の実店舗販売業のスタートダッシュを牽引し、実店舗販売のモデルチェンジ、高度化とある程度足並みを合わせることができる。

 その他、「参考消息網」の6月10日付の記事によると、欧米メディアは、「ビッグデータによる、ベストなリアルタイムトランスポートルートの算定やGPS搭載のドローンなどが中国の宅配サービス業に革命をもたらしている」と伝えている。

 同ニュースは、スペイン紙「エル・ムンド」のサイトの6月7日付の報道に基づいている。同報道は、「阿里巴巴(アリババ)グループの馬雲(ジャック・マー)会長は、杭州で開催された17年世界スマート物流サミットで、中国では8年もしないうちに1日当たり10億個の荷物が出るようになるだろうと予測したとしている。その動向に合わせて、各宅配業者はスマート物流への移行、高度化が急務となっている。阿里巴巴は4年前、主要物流会社などと共同で物流会社「菜鳥網絡科技有限公司」を立ち上げ、オープン型の社会化物流ビッグプラットフォームの構築に力を入れ、ビッグデータや人工知能を活用して、スマート物流の高度化を促進している。「菜鳥」は、「今後数年をめどに、当社のプラットフォームのビッグデータや計算法を物流の『毛細血管』にまで浸透させ、各宅配車両や各宅配員が通る道を最適化する」としている。現在、中国の東部地域の住民は、24時間配達サービスを利用することができるようになっており、今後そのサービスは中・西部地域にも拡大する計画だ。

 現在、宅配業者や利用客にとって、いかに宅配物を少しでも早く届け、受け取ってもらえるかが一番の課題となっている。郵政快遞の宅配ボックスは、個人の携帯にショートメッセージでパスワードを送信し、荷物を受け取ることができるようになっている。また、この業務は、フランチャイズ形式を通して、他の宅配業者にも波及しており、各業者の宅配員は受取人と顔を合わせずに安全に荷物を受け取ってもらうことできるようになっている。その他、中国の三、四線都市の団地の入り口付近には警備員室などがあり、代理受け取りサービスを提供している。受取人が不在の場合、そこで荷物を代わりに受け取って預かってくれるのだ。また、企業や会社などにも直接届けられる宅配物を受け取ってくれる固定の場所があり、監視カメラがあるため、受取人が出張などで不在の場合でも、多くの人が見ている所にもかかわらず宅配物が紛失してしまうことを心配する必要もない。さらに、辺鄙な場所にある家の玄関まで届けられる宅配物も、風や日差し、雨などの物理的要素の影響を受けない限り、受取人が不在でも3-5日以内なら紛失を心配する必要はない。中国の今の人々の民度からして、荷物を一定時間放置できるのは、他の人に対する信頼の表れで、それを盗まないのは自分をきちんと制御できることの表れだといえる。宅配業者を通して届けられる物のほとんどは、服や食品などちょっとした物で、盗むに値するような金目の物ではなく、泥棒も欲しがらないものばかりだ。

 特に、宅配営業所が多くの土地をカバーし、物流経路が一層便利になり、通信情報のリンクが拡大し、さらに、ビッグデータを利用したスマート型運営が採用されるにつれ、受け取り方の選択肢も増え、宅配物がある場所の情報なども確認できるようになっているため、「最後の1キロ」の課題を克服しやすくなっており、それができれば宅配物の配達をオリジナリティある方法で手配できるようになる。つまり、受取人の必要に応じて、個人の携帯や他の人の携帯を通して宅配物の現在地をリアルタイムにシェアし、約束された時間内、約束された範囲内にそれを送り届け、それを本人、または代理人が受け取るようにする。そうすれば、大学のキャンパスにある営業所に、大勢の大学生らが詰め掛け、列を作って宅配物を受け取っているという光景を見ることもなくなるだろう。

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写真2 大学キャンパス内の宅配営業所の行列

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写真3 自分の荷物を探す学生

 今後8年、1年当たり10億個にも達する荷物の「ケーキ」をどのように切り分ければよいのだろう?これは、どの宅配会社にとっても、考えるだけでもにやけてしまいそうなうれしい悩みだろう。宅配業者がそれぞれ自分の持ち味を発揮して、マルチに発展していくのか、それともマニュアル化して統一されるのか、今後の宅配業者の発展の行方から目が離せない。

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写真4 時期により大学キャンパス内に宅配便の臨時営業所が設けられるが、行列が絶えない。