【19-004】何でもお届け!疾走する若きフードデリバリー
2019年2月27日
斎藤 淳子(さいとう じゅんこ): ライター
米国で修士号取得後、北京に国費留学。JICA北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、現在は北京を拠点に、共同通信、時事通信のほか、中国の雑誌『瞭望週刊』など、幅 広いメディアに寄稿している
3、4年前と比べて北京の路上で急増したのがバイク便だ。「怠け者経済」や「(お一人様)孤独経済」などと呼ばれるスマホからの出前サービスが爆発的に伸びているためだ。
最近は大手が統合しつつあるが、バイク便と一言でいっても色々ある。フードデリバリーの「外売(ワイマイ)」を筆頭に、電光石火の如く15分で現れ、1時間以内に先方に書類や花束を届ける「 閃送(シャンソン)」、行列や店での購入を代行してくれる中国版便利屋の「跑腿(パオトゥイ)」(「走り屋」)、3 0分で届けるスーパー宅配便や夜中も頼れる出前薬屋など思いつく限りのデリバリーが登場した。
フードデリバリーは日本の店舗専属の出前と違い、位置情報アプリを使い、レストランの近くにいるバイク便の配達員が商品を受け取り顧客の自宅や会社まで配達する仕組みだ。ス タバのラテから有名店の北京ダックまで約4000店から注文でき、30~40分で届けてくれる上、料金も値引き合戦中の今は割安だ。多様さ、スピード、安さと三拍子が揃う。2 017年のユーザー数は3億人以上、18年には3億5000万人に増え、市場規模も約3兆9000億円に達する見込みという。
それにしても、長い出前の伝統のある日本をよそに、中 国でたった数年でネット出前がここまで成長したのはなぜだろうか?スマホ決済や位置情報マッチングなどIT技術やスマホの急速な普及があるのは言うまでもない。また、後で触れるように、低 コストの宅配を可能にする豊富な国内労働力や、活発な投資の存在も大きいだろう。中国の投資家は、ビッグデータや市場占有率を最優先し、創業期にはお金を「焼く」(中国語で「焼銭」) ほど投入するので、一時的に破格の割引が実現する。約5元(80円)の配達料免除のほか、各種割引を使うと店頭の定価の約半額になることもある。とにかく安い。
このビジネスの要は「騎手」と呼ばれる配達員だが、彼らは大通りを斜めに渡り、赤信号も駆け抜ける。なぜ、そんなに急いでいるのかというと配達時間厳守で厳しい罰則がある上、出 来高制だからだ。また、客からの賛賞や苦情コメントは給与に直結する。だから、「美女(メイニュー)、僕の評価よろしくね」と私にも一言を忘れない。彼らは真剣だ。
疾走する騎手は今や街の風景の一部になった。撮影/中国新聞社 許康平
また、騎手は大体、地方出身の出稼ぎ者で、仕事道具のスマホと電動バイクは自前が基本。将来の保障はなく、休暇は月2日程と日本から見るとかなりブラックだ。ただ、手 取りだけは大学新卒以上の約6,000元(10万円弱)以上になるという。
業界最大手は全国で1日2100万件のオーダーを配達するという美団(メイトワン)。それに次ぐアリババ傘下の餓了麼(アーラマ)によると、昨年の三大人気メニューは「ピータンお粥」、「 ピリ辛チキンバーガー」、「じゃが芋の細切り炒め」だった。日本でいうならお茶漬けとハンバーガーと肉じゃがと言ったところだろうか。どこか若さと哀愁が漂う。
これを一体誰が食べているかというと、最新の調査では、24歳以下が57%、30歳以下が全体の8割以上を占めるという。圧倒的に若年層の胃袋で成り立っているのが分かる。
30歳以下の若者が牽引し一夜にして大産業に成長した出前食。魔法のような便利さには感心する一方で、IT任せの利便性追求の疾走はいかにも心もとない。そんな私の困惑をよそに、北 京の疾走は今日も続いている。
配達用にカフェで飲み物を受け取るアーラマの騎手。撮影/筆者
※本稿は『月刊中国ニュース』2019年2月号(Vol.84)より転載したものである。