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【19-006】中国のものづくり

2019年3月22日

皆川

皆川 佳祐: 学校法人智香寺学園 埼玉工業大学工学部機械工学科 准教授、ローマ第三大学 客員教授

 東京都出身。東京電機大学工学部機械工学科卒。同大大学院先端科学技術研究科修了。博士(工学)。東京電機大学工学部機械工学科助教、埼玉工業大学工学部機械工学科講師を経て現職。主な研究テーマは、構造物の振動制御、耐震・免震・制振、昇降機のダイナミクスなど。

はじめに

 多くの友人,知人が駐在経験を持つ中国.彼らから色々な話を聞いており,また,同じ東アジアに位置する国として身近に感じていたが,私自身は2018年まで中国を訪れたことがなかった.2018年,幸いにして中国を2回,3都市も訪問する機会をいただいたので,本稿ではそこで感じたこと,考えたことをまとめていきたい.私の専門が機械工学であることから,特にものづくりの観点からまとめていければと思う.

中国と埼玉工業大学

 本題に入る前に,中国と私の所属する埼玉工業大学の関係を紹介したい.

 埼玉工業大学は埼玉県北部の深谷市に位置する2学部5学科の小さな大学である.全在学生約2,200名のうち,留学生は183名,そのうち142名が中国からの留学生である.また,工学部約50名の専任教員のうち,3名の中国人教員がいる.中国の4つの大学と協定を結んでいる.このような背景のもと,教員間の研究交流,さくらサイエンスプランなどで,中国との交流が盛んに行われている.

 例えば,2018年のさくらサイエンスプランでは10月3日~10月12日までの10日間,「次世代ものづくり技術の開発に関する研究」をテーマとした学術交流として,中国の8大学から教員7名,ポスドク1名,大学院生2名,計10名が来校し,施設見学,活発な意見交換などが行われた.期間中にちょうど学園祭が開催されたこともあり,本学の学生との交流も活発に行われ,本学学生にとっても有益な事業であった.

 以上のような中国と本学との交流は年々活発になっていることから,これからも様々な交流が期待される.

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埼玉工業大学でのさくらサイエンスプラン実施の様子(埼玉工業大学HPより)

中国政府による日本の若手科学技術関係者の招へいプログラム

 ここからは,2018年6月25日(月)〜30日(土)に実施された中国政府による日本の若手科学技術関係者の招へいプログラムにて感じたことを書いていきたい.

 後述の通り,昇降機分野での中国の状況を聞いていた私は,この肌で中国の科学技術に触れたいと思い,本プログラムの案内を頂くと同時に申し込みをし,幸いにして本プログラムに参加させて頂けることとなった.2018年6月実施の本プログラムでは,北京で2泊3日を過ごしたのち,2グループに分かれ,大連,広州のどちらかで3泊4日を過ごした.私は,大連と広州のうち,埼玉工業大学の提携校の一つである遼寧科技大学に近い大連を選択した.北京では,清華大学,北京大学,中関村サイエンスパークの見学,中国の政府関係者との座談交流会などを実施した.大連では大連市企画展示センター,企業,大連理工大学,研究所などの見学を実施した.

 本プログラムに参加した1週間で,中国から様々なことを学んだ.

 まずは,中国は独自の国家戦略により経済成長を遂げているイメージがあったが,それだけではなく,堅実な一面も持ち合わせており,実施すべきことは着実に実施しているという点である.革新的な成長戦略と正統的な成長戦略とがバランスよく共存していた.革新的な成長を促す取り組みとして,例えば,中関村サイエンスパークや大連生態科学技術町の視察において,中国にはイノベーション(中国語では創新と書く)が生まれる環境が整備されていることを感じた.企業のニーズと,大学や研究機関,ベンチャー企業のシーズ,さらには政府による補助などがうまくコーディネートされ,マッチングできるシステム,いわゆるイノベーションのエコシステムが備わっていた.加えて,失敗を受け入れる風土であることから,イノベーションに挑戦する環境が整っていた.一方,機械工学科の教員である私としては,正統的な成長戦略として,重工系やものづくり,発電などの基盤技術に関する取り組みが着実に実施されている点に驚かされた.これらの技術や産業は大掛かりな設備が必要であり,成熟させるまでに多くの時間や費用がかかるものである.情報通信関連などの技術と違い派手さはないが,国家の屋台骨としてその重要性を認識し,多くのリソースを注いでいることに驚かされた.また,情報通信技術と製造技術を融合させた,いわゆる第四次産業革命に関して,中国独自の取り組みを実施しているところが興味深かった.

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中関村サイエンスパークの視察

 大学で働く身としては,大連理工大学の見学も非常に有益であった.ここでは,重大装備製造共同創新センターの施設の見学もさせていただいたが,工作機械なども多く設置されている他,発電,石油化学,交通インフラなどの重工業,建設系の研究にも積極的に取り組まれているところが興味深かった.また,創新創業学院というイノベーション向け放課後教室(研究室)の見学もさせていただいた.ライントレースロボット,ルービックキューブを解くロボット(デジタル画像から各ブロックの色を認識し,ハンドマニピュレータにより色を揃える)などが開発されていた.創業資金の補助もあり,3,000人の応募から800人が通過したそうである.私が話をした学生は学部2年生であったが,実施している内容は日本の大学院生レベルだと感じた.なお,学内を案内してくれた学生,ディスカッションに参加した学生は日本語が堪能であった.大学院まで合わせると40,000人の学生が在籍しているそうだが,そのうち日本語を学習しているのは1,000人以上だそうである.また,日本人の教員は10名以下とのことであった.地理的距離も近く,日本は科学立国でもあることから,もっと日本語を学んでいる学生が多いかと思ったが,思いのほか日本語を学んでいる学生が少ない印象を受けた.我々は日本の科学技術を過大評価しているのかもしれない.

 以上の通り,中国政府による日本の若手科学技術関係者の招へいプログラムに参加した一週間は,非常に実り多いものだった.

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大連理工大学重大装備製造共同創新センターの視察

中国国際電梯展覧会

 私の専門は機械工学であり,昇降機(エレベーターやエスカレーター)に関する研究にも取り組んでいる.その関係もあり,2018年5月8日〜11日に上海の国家会展中心で開催された中国国際電梯展覧会(World Elevator & Escalator Expo 2018)に参加してきた.

 中国は昇降機の一大市場であり,毎年世界で約100万台新設されるエレベーターの実に約70万台が中国国内に設置される.ちなみに日本は毎年2.5万台程度が新設される.日本で現在稼働中のエレベーターが約70万台であるから,日本で現在稼働しているエレベーターと同じ台数のエレベーターが中国で毎年増加しているのである.また,時速70kmを超える世界最高速のエレベーターも中国にあり,2022年の北京冬季オリンピックに合わせて世界最長の昇降行程(エレベーターの移動距離)となるエレベーターも設置予定である.ただし,これらは日系企業の製品である.

 以上のような背景もあり,中国には多数のエレベーター関連企業が存在する.とはいっても,下請け企業を抱える日本とは産業構造が若干異なり,中国ではエレベーター組み立てメーカーが部品メーカーから調達した部品を組み立て,エレベーターを製造するのである.そのようなこともあり,中国国際電梯展覧会では部品メーカーが多数出展し,自社製品の売り込みを積極的に行っていた.また,大手昇降機メーカー,ホームエレベーターメーカー,部品メーカーのほか,地震計メーカー,試験機メーカー,試験機関,工作機械,出版社,学協会など,昇降機に関連するありとあらゆる企業,団体が出展していた.日本ではスイッチなどの耐久試験を製造したメーカー自身が実施するが,中国では第三者的な検査機関が実施するという点も非常に興味深い.

 展示面積は135,000m2で,出展者は1,300以上,4日の開催期間で世界各国から述べ121,000人の来場があった.しかしながら,公用語は中国語で英語はほとんど通じなかった.展覧会は国家会展中心の一部を使用して実施されたが,この国家会展中心がとにかく大きい.面積は東京ビッグサイトの約5倍であり,これほどの規模の展覧会を大都市近郊で実施できるのは,中国の強みであろう.

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中国国際電梯展覧会の様子

訪中団その後

 2018年6月の中国政府による日本の若手科学技術関係者の招へいプログラムには約80人の日本の若手科学技術関係者が参加した.一週間のプログラムを通し,参加者同士でも様々な意見交換をした.中国の科学技術の視察での経験はもちろんのことであるが,職業も地域も専門分野も違う同年代の仲間と新たな繋がりは,本プログラムで得た大きな財産となった.

 中国での一週間は見学がメインであり,参加者たちがどのような研究をしているのか詳しく知らないということで,つい先日,お互いの研究内容などを発表する異分野交流会が開催された.いざ,開催してみると,分野は違えど人材育成や技術者不足などの共通の課題があること,ある分野では当たり前の技術が他分野では知られていないことが明らかになった.中国から学んだことを活かし,これらの技術をつなげることで,中国が繋いだ縁でのイノベーションを創生できればと思う.

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