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【19-008】イノベーション大国の中国を訪れて

2019年5月29日

籾井 隆宏

籾井 隆宏:
京都府商工労働観光部 文化学術研究都市推進課 主任

兵庫県出身。立命館大学公共政策大学院公務研究科を修了後、京都府庁へ入庁。
府民生活部消防安全課、シスコシステムズ出向を経て、平成29年4月から現職。
主に、けいはんな学研都市を中心とした京都府域におけるスマートシティ事業やIoT推進に従事。

 近年、中国がイノベーションの分野で世界をリードしている。スマホ決済によるキャッシュレス化やサイクルシェア、無人店舗などだけでなく、人工知能(AI)などディープテックの分野でも躍進が目立ち、中国のイノベーションの勢いはとどまる所を知らない。特許出願件数や学術論文などのデータを見ても、中国のイノベーション先進国ぶりがうかがえる。

 今回、そのようなイノベーション大国である中国を訪れる貴重な機会をいただいた。本コラムでは、初めての訪中で、自分の目で見て感じたことや新たな気づきについて、簡単にご紹介したい。

1.初めて中国の地へ

 今回、私は平成30年10月22日から27日まで、中国政府による日本の若手科学技術関係者の招聘プログラムに参加し、中国の北京と武漢を訪問した。今回の訪中では、日本の科学技術に従事する中央省庁、地方自治体、大学や研究機関の職員などが多数参加した。

 このプログラムは、中国科学技術部により立ち上げられたものであり、日本の若手科学技術関係者を中国の科学技術を牽引する大学・研究機関や企業に招き、中国のイノベーションの現状を知るとともに、科学技術分野における両国の人事交流を更に深め、日中交流と科学技術分野における両国の発展に貢献することを目的としている。

 そもそも私は中国を訪れたことがなかった。私のこれまでの中国のイメージと言えば、漠然と経済成長が進んでいる国、科学技術が発展している国、PM2.5がすごい国などだったが、なぜそうなのか?といった疑問を持つことがなかった。しかし、今回の訪中で、それら問いについて考えるきっかけとなり、少し実態を掴むことができたように思う。

2.中国のイノベーション力と大学を核としたイノベーションエコシステム

 今回の訪中プログラムでは、前半に北京で清華大学及び中関村国家自主イノベーション模範区などを視察し、後半は武漢で東湖新技術産業開発区(光谷展示センター)、武漢新エネルギー研究院、烽火科学技術集団有限公司、華中科学技術大学などを視察した。特に気づいたことを2つご紹介したい。

 1つ目は、中国のイノベーション力である。やはり、中国の技術力の高さには目を見張るものがあった。中関村国家自主イノベーション模範区では、多くの最先端のソリューションを視察し、中国の技術力の高さに驚かされた。例えば、顔認証技術による画像解析システムは非常に精度が高く、指名手配犯の判別や歩行者の身元特定などが可能なため、既に30省市に実装されており、防犯対策に活用されている。また、高性能な最新型の手術用ロボットも開発されており、ロボットを使うことで放射線量を減らせ、出血も少なく、傷も最小箇所で済むことから、こちらも既に17省市31自治区の病院で実装されている。他にも自動運転技術、AR技術など、今流行りの技術に多く触れることができた。

 特に、デジタルサイネージの顔認証技術を活用したお勧め商品のレコメンド機能は大変興味深かった。サイネージの前に立つと、搭載のカメラからその人の属性や年代を分析し、おそらくそうであろうと推定した個性や特徴などをレーダーチャートで示し、その人にふさわしい商品をサイネージ上でレコメンドするというものである。分析結果の正確さはあえて触れないが、おもしろい機能である。昨今、京都府では、インタラクティブなパブリックサイネージを京都府域などに複数台設置し、観光情報に加え、SNS連動のリアルタイム情報の発信や利用者のニーズに応じたコンテンツの提供により、観光周遊を促進するという新しい取組を始めており、先述のレコメンド機能は大変参考になった。中国では街の至る所にサイネージがあり、情報のハブ拠点として機能していることが分かった。

 中関村国家自主イノベーション模範区は、中国初の国家ハイテク産業開発区であり、2017年時点で、ハイテク産業が20,013社立地、イノベーション企業が新たに29,000社設立しており、国内で起業が最も盛んな地域である。これらを支える仕組みについて、当該中心地区には、ベンチャー企業が創業しやすいように、ワンストップの創業支援サービスがある。起業家や投資家が自由に意見交換し交流できる喫茶店やオープンオフィスなどがあり、起業したいと思えばその場で融資を受けられるよう投資機関がある。起業手続きができる公共機関も入居している。既に13,000件の実績があるという。これらの起業家のための一連の支援スキームがイノベーションの下支えになっているようである。

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写真1 顔認証システムの様子

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写真2 デジタルサイネージの様子

 2つ目は、大学を核としたイノベーションエコシステムである。今回の訪中で清華大学と華中科学技術大学を視察した。いずれの大学も中国屈指の名門校であり、中国のハイレベル人材の育成や科学技術研究に取り組んでいる。特に清華大学は2018QS世界大学ランキングで17位と中国の科学技術研究を牽引している。

 清華大学では、脳科学やAI、コンピューティングを研究しているラボを視察した。自立型ドローンによる実証実験を見学したが、GPSや人口操作なしで、ドローン自身がオンラインで自立して判断することが可能で、配管点検や炭鉱ガス濃度チェックなどに活用できるようである。また、立体視覚技術とコンピューティングシステムによる裸眼で見える3D技術を見学したが、手術支援や医療研修などへの活用が期待されている最先端の技術だった。ラボの学生を見て、活き活きと志高く研究している姿がとても印象的だった。

 また、両大学の関係者と意見交換をしたが、中国と日本の違いはR&D(研究開発)であるという。近年、中国の国内総生産(GDP)に占めるR&D投資額の比率は2.1%と、1990年代の3倍に増え、米国の2.75%には及ばないものの、急激なペースで伸びている。中国では実用化ベースの応用研究に注力しており、日本のように企業が中心となり研究開発をするのではなく、大学を核とした研究開発のプラットフォームが作られており、研究者にとって充実した研究環境が整備されていた。また、政府や自治体から大学への投資も大きく、産官学の協力体制も構築されており、国の強いリーダーシップのもと、大学に新たなイノベーション創出の役割を強く期待していることが分かった。それらに応えるように、若手研究者が日々熱心に研究に取り組み、新たなイノベーションや製品の実用化を目指し邁進する姿勢は日本も見習うべき点である。先述のワンストップの創業支援サービスも然り、これらの一連のイノベーションエコシステムが今日の中国のイノベーションを支える根幹にあることを感じた。

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写真3 清華大学ラボ視察の様子

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写真4 華中科学技術大学との意見交換の様子

3.中国のイノベーションの源にあるもの

 今回の訪中のまとめとして、中国のイノベーションについて、もう少し私見を述べたい。私は中国のイノベーションの源には、実装力とトライ&エラーの精神の2つがあると感じる。

 まず、実装力である。中国ではスマホ決済によるキャッシュレス化やシェアサイクルはもとより、無人コンビニ、無人レストランなどのように、まだ世の中にソリューションとして決まった答えがない領域で、新技術が試行錯誤されながら社会に導入されていくパターンが多く見受けられる。先述したように、基礎研究よりも応用研究に注力しており、実用化ベースの視点が重視されている。特筆すべきは、日本のような実証実験や研究の域を超えて、社会実装環境の中で新技術が展開され、検証されている点である。それが、中国のイノベーションのスピード感に直結している。

 そして、それを可能にするのは、中国人のトライ&エラーの精神である。これは、日本との決定的な違いだと感じる。私もまがりなりにも京都府でイノベーションに関する業務に携わる者として、日本のトライ&エラーの精神の欠如を感じることが多い。日本の国民性によるものかもしれないが、イノベーションと言いながらも、石橋を叩いて渡る日本特有のスタイルには矛盾を感じる。勢いはリスクをもたらすものであり、一長一短ではあるが、これからのイノベーション時代においては、中国人のようなトライ&エラーの精神は見習うべきものだと思う。

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写真5 サイクルシェアの様子

4.京都府と中国との連携について

 私の現在の仕事について少し触れたい。私は、商工労働観光部文化学術研究都市推進課という部署で、主にけいはんな学研都市(関西文化学術研究都市)を中心とした、京都府域のスマートシティ事業やIoT推進、ビッグデータの活用などに携わっている。

 そもそも、けいはんな学研都市をご存知だろうか。京都、大阪、奈良の3府県にまたがる京阪奈おいて、関西文化学術研究都市建設促進法に基づき、建設・整備を進めているサイエンスシティであり、東の「つくば研究学園都市」とともに国家的プロジェクトに位置付けられている。現在、140を超える研究施設、大学施設等が立地し、研究者などは9,000人を上回り、文化、学術研究などの分野で顕著な成果をあげている。前段で延べた中国の中関村国家自主イノベーション模範区には規模的に及ばないが、サイエンスシティやイノベーション区としては類似している。

 また、けいはんな学研都市では、「世界の知と産業を牽引する都市」、「持続的にイノベーションを生み出す都市」を目指し、産学官連携の推進や、他の研究開発拠点や地域産業とも連携を図り、最先端の研究・開発の成果を生かした事業化、産業化への取組みを強力に推進している。特に近年、研究者の交流や海外企業・研究機関とのネットワークづくりも進展をみせており、研究開発領域の幅の拡大や国際連携の強化が進むなど、研究開発を支える環境も着々と進展している。「RDMM支援センター 」の設置や「けいはんなリサーチコンプレックス 」の取組みなど、オープンイノベーションを基軸とした持続的なイノベーションを創出する仕組みづくりに注力している。

 昨年11月には、今回の訪中のご縁もあって、中国科学技術交流センター(中国科学技術部)のけいはんな学研都市視察が実現した。けいはんな学研都市の先進企業や研究機関などの見学に加え、当該地域のオープンイノベーション等を推進している(公財)関西文化学術研究都市推進機構 の関係者との意見交換を行った。また、京都府庁にて府幹部とも面会され、今後の京都府と中国との交流、連携について有意義な意見交換を行った。

 京都府では、既に平成29年に日本の自治体として初めて、中国のアリババグループと連携・協力協定を結んでおり、京都の文化発信や経済活性化につなげる取組を検討している。今回の訪中を契機に、中国とさらなる交流を図り、様々な連携・協力の可能性を探っていきたい。

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写真6 けいはんな学研都市の様子

5.京都と中国のお茶つながり

 京都は宇治茶が有名である。「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」と謳われるように、日本茶の三大銘茶の一つであり、日本で緑茶が広まった最初の地であると言われている。宇治茶は、鎌倉時代に名僧「明恵上人」がお茶の種を蒔いたのが始まりと言われており、室町時代には足利義満が「宇治七名園」と呼ばれる茶園を作り、江戸時代以降さらに盛んになって全国に知られるようになった。

 ご存知の通り、お茶の発祥は中国である。お茶は、日本が中国の進んだ制度や文化を学び、取り入れようとしていた奈良・平安時代に、遣唐使や留学僧によってもたらされたと言われている。そのような本場の中国で、私はジャスミン茶にハマった。私はこれまで日本のジャスミン茶が苦手だった。どこか甘ったるく、独特な味がして、一切飲まなかった。しかし、中国で飲んだ本場のジャスミン茶は格別に美味しかった。1週間の滞在で何度もお茶屋に行き、ジャスミン茶を愛飲した。ジャスミン茶は美容やダイエットなど多くの効能があり、特にジャスミンの優しい香りがリラックス効果を高めるらしい。

 今回の訪中では、多くの気づきや学びを得た。また、中国の政府関係者だけでなく、日本の行政官や大学、研究機関の皆様とのネットワークも築くことができた。これらの経験を今後の京都府政に還元するとともに、微力ではあるが、日中の科学技術交流の発展に貢献していきたい。日常に疲れたら、宇治茶とジャスミン茶の香りで一息つきながら、日々邁進していきたい。

関連サイト

公益財団法人 関西文化学術研究都市推進機構 RDMM支援センター https://www.kri.or.jp/rdmm/

公益財団法人 関西文化学術研究都市推進機構 けいはんなリサーチコンプレックス https://www.kri.or.jp/project/commercialization/research_complex/

公益財団法人 関西文化学術研究都市推進機構 https://www.kri.or.jp/