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【19-014】ゴミ出しもスマホから外注で!? 中国のごみ分別狂想曲

2019年10月2日

斎藤淳子(さいとう じゅんこ): ライター

米国で修士号取得後、 北京に国費留学。JICA北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、現在は北京を拠点に、共同通信、時事通信のほか、中国の雑誌『 瞭望週刊』など、幅広いメディアに寄稿している。

 上海市では7月に全国で初めてごみの分別が義務化された。慣れない分別への当惑や罰則のプレッシャーから、「ゴミは高速鉄道で(まだ罰則が無い隣の)杭州に行って捨ててくるのが一番手っ取り早い」という笑い話も出回るほど街は焦燥に駆られた。

 一方、こうした混乱緩和のために登場し、中国中央テレビ(CCTV)でも放映されたすぐ分かる分類法の説明が「豚が食べるのが『湿りごみ』で食べないのは『乾燥ごみ』、食べさせたら死ぬのが『有害ごみ』で、それを売ったら子豚を買えるのは『資源ごみ』」というものだ。中国社会において、農村社会の存在感は未だに大きい。

 ごみの分別は政策上は2000年から北京、上海など全国8モデル都市で試行され、徐々に進んできたが、実態はほぼ丸ごとポイだった。全国約7割の都市で固体廃棄物を未処理のまま丸ごと有害物質と共に埋めてきたとも言われており、事態は深刻だ。

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上海の分別方法は4分法。有機物の『湿りごみ』を取り出し、『有害ごみ』と『資源ごみ』を取り、残りを『乾燥ごみ』とする。初めての分別で市民は困惑気味だが、ビジネスは迅速に対応している。撮影/筆者

 ただ、昔の日本のちり紙交換と同じく、中国でも都市に住む出稼ぎ労働者の「ごみ屋」がボトルや紙、鉄などの資源ごみを有料回収・リサイクルしてきた。ところが、近年はごみ資源価格の下落と環境規制の厳格化に加え、大都市での生活費の高騰と都市人口削減政策などに見舞われ、ごみ屋は大幅に減少。同時に、都市市民の間でも、価格の下落もあり資源ごみを売るより丸ごと捨てる人が増えた。

 さらに、近年の通販と食の出前サービスの空前のブームを受けて、梱包用段ボールやクッション材と使い捨て食器も爆発的に増加。宅配取扱件数は2011年の約37億件から18年には500億件以上に、食の出前件数もほぼ同時期に約10倍に激増した。6、7年で10倍規模だから尋常でない。北京は周辺にある400カ所以上のごみ埋め立て地に完全に「包囲」され、ごみ処理は限界に達していた。

 そこに、いよいよ昨年年末から今年前半にかけて国のトップがごみ分別の重要性を指示したのを機に、一気に強制的な分別が実現。上海、北京などの全国46カ所の大都市では来年までに、地方中小都市では25年までにごみの分別が義務化された。日本だったら、数年前から小規模に予行演習など段階を経て実施するだろうが、中国は東京の1.7倍の人口を抱える巨大都市の上海市で即実施。この「スピード感」は中国ならではだ。

 起業家たちの「スピード感」も負けていない。早速、スマホでゴミの写真を撮ると、正しい分類を教えてくれるごみ識別アプリや、ごみ袋に貼ったQRコードによる分別処理データのプラットフォーム開発企業まで、瞬発力や行動力を発揮して多くの関連ニュービジネスが花咲いている。

 中でもうなったのが、携帯アプリから予約すると、住民に代わってごみを1回数元で分別・処理してくれるごみ出し代行業の登場だ。「代収工」と名付けられた出稼ぎ労働者がこれを支える。ある企業では、主に「80後」の顧客に支持され、1日に1万トン以上のごみを回収しているという。ごみ出しさえも「外注」する大都市市民層とそのニーズに即座に応える豊富な出稼ぎ労働者たちをITがつなぐ。

 中国で本格化するごみ分別からは、中国社会に色濃く残る農村文化の影響やトップの一声で迅速に突き進む社会変革、ITニュービジネスの活況、中国ならではの「スピード感」などさまざまな今日の中国社会の横顔が浮かび上がってくる。