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【19-016】誕生日も激変?ゆで卵から特大ケーキまで

2019年10月23日

斎藤淳子(さいとう じゅんこ): ライター

米国で修士号取得後、 北京に国費留学。JICA北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、現在は北京を拠点に、共同通信、時事通信のほか、中国の雑誌『 瞭望週刊』など、幅広いメディアに寄稿している。

 北京の誕生祝いといったら、読者は何を想像するだろうか?中国の誕生日の過ごし方は目まぐるしく変わる社会と共に急速に変化している。

 歴史的には、誕生日に関する記述は孔子や秦の始皇帝時代にはなく、自分の誕生日を祝日にした唐の玄宗が最初らしい。この頃発展した仏教による影響との指摘もある。しかし、いずれにせよ一般庶民は長いこと誕生日とは無縁だった。

 今のお年寄りたちが子供だった1949年の建国以前も、全ての人は毎年春節の元旦に1歳年をとるとされてきた。つまり、歳は誕生日とは無関係なので誕生日には皆、無頓着だった。お年寄りの人からは今の「誕生日」は書類上の必要から後から自分で「決めた」という話を良く聴く。

 同様に、現在の40代、50代の人たちが子供だった頃、つまり、60年代、70年代までは誕生日といっても別段何をするでもなかった。誕生日を特別に祝うようになったのは改革開放後の80年代に入ってからだ。その頃から、誕生日の子供には特別に「円満」を象徴するゆでたまごを、年長者には「長寿」を願っての麺を準備して祝う習慣が広まったらしい。

 今日主流になったケーキとろうそくでのお祝いが普及したのは更に後の90年代後半以降。つまり、たった20年前のことだ。ところが、今では北京のパン&ケーキ屋さんには誕生日用のホールケーキがズラリと並ぶ。20㎝のケーキでも約200元(約3,000円)と日本並みに高いにもかかわらず、よく売れている。短期間に急速に豊かになった物質生活を象徴する変化で、ゆでたまご1つの質素な時代とは隔世の感がある。

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市内のモール内のケーキ屋さん。ケーキで祝う習慣の普及は90年代後半以降だが、今ではすっかり定着した。(撮影/筆者)

 こうした現代のケーキを囲んでのお祝いは一見すると日本と同じだが、お祝いの方向が日中では違う。中国式では誕生日の本人が祝う場を自ら主催し、お客にご馳走して振舞うのが基本になっている。

 誕生日は自分で祝うという中国スタイルの延長だろうか?驚いたことに、北京の幼稚園や小学校では、誕生日の日に大きなデコレーションケーキや文具などのギフトを園や学校に届け、クラスメート全員に配って祝う子が多い。自分の晴れの日に周りに感謝し、付き合ってもらうというのが中国式の誕生日の位置づけなのかもしれない。

 また、こうした「自分の誕生日を自分で祝う」という中国マインドと関係があるかもしれないのが、誕生祝いのメッセージだ。中国のネットでは「誕生日の日にウィーチャットに出す名セリフ」なるものが掲載されていて、そこには、誕生日の人への祝福以外にも、「また1年経った自分に敬意を!」「20歳の自分に感謝!」などが並んでいる。

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北京の幼稚園や小学校では、誕生日に本人が園や学校に届けたケーキを皆で食べて祝うことも多い。

 最初は面食らってしまったが、知人はこう教えてくれた。「誕生日は自分を生んでくれたお母さんや自分を支えてくれている人に感謝すると同時に自分で『生まれてきて良かった』と確認する日」と。発想の180度の転換だが、確かに人に自分を祝福してもらうことを期待するより、主体的で良いかもしれない。

 このように、中国の誕生日シーンはゆでたまごや麺などの素朴な家族からのお祝いから特大デコレーションケーキまで大きく変化している。今では古い習慣の上に、ケーキを囲んでのお祝いや(本人ではなく)周りの友人がご馳走するケースも増え、新旧両方のコンセプトが混在している。劇変する風習の中からは、自分でお祝いし、感謝する誕生日も登場。誕生日文化も中国は独創的な発展を遂げている。


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年11月号(Vol.93)より転載したものである。