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【20-008】1月20日に発令された警報―中国新型コロナ防疫リポート(3)

2020年06月03日

楊保志

楊保志(風生水起);広東省科技庁科技交流合作処副調研員

河南省潢川県出身。入学試験に合格し軍事学校に入学。26年間、軍務に就き大江南北を転戦し、その足跡は祖国の大好河山に広くおよび、新彊、甘粛、広東、広西、海南などの地域で銃を操作し弾を投擲した。メディア、組織、宣伝、人事などに関する業務に長年従事し、2013年末、広東省の業務に転じた。発表した作品は『人民日報』『光明日報』『中国青年報』『検査日報』『紀検監察報』『法制日報』『解放軍報』『中国民航報』などの中央メディアの文芸・学術欄に、また各地方紙、各軍関連紙軍兵種報紙にも掲載され、『新華文摘』『西部文学』『朔方』などの雑誌や、ラジオ、文学雑誌にも採用され、"中国新聞賞"文芸・学術欄銀賞、銅賞をそれぞれ受賞し、作品数は500篇に迫る。かつては発表を目的に筆を執っていたが、現在は純粋に「自分の楽しみ」のためとしている。

 5月10日、吉林省は国の新型コロナウイルス感染状況のリスク評価基準に基づいて、感染者が相次いで確認された同省舒蘭市の感染リスクレベルを「中」から「高」に引き上げた。

 リスクレベル引き上げの原因となったのは、5月7日に、舒蘭市で感染経路が分からない市内の感染者1人が確認され、2日後の9日には、同市でさらに新規感染者が11人増えたからだ。舒蘭市のケースは感染経路がわからないうえ、予想以上のスピードで伝播しており、第2波発生への警戒が一気に高まった。このため、吉林省も非常に果断な措置を講じた。

 この措置は、3ヶ月前に広州で起きたことを思い出させる。春節(旧正月、今年は1月25日)前の1月20日午後、会社の上司が各部門の従業員を集めて、緊急会議を開催し、緊急対策を通達した。

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マスクや消毒液などが入った中山大学の学生の健康セット

 その時は湖北省武漢市で感染が流行していると聞いてはいたし、中央政府も既に感染拡大対策を講じてはいたが、広州では特に大きな動きもなく、皆いつも通り仕事をしていた。この緊急会議の通達を聞いて、ようやく事態の深刻さを知ることになった。

 第1に、既に2019年末に感染は発生し、感染は主に武漢市の華南海鮮卸売市場付近に集中していた。1月20日の時点で、中国全土の感染者数は198人、入院者数は170人、退院者数は25人、死者は3人だった。広東省の感染者数は1人、感染の疑いがある人は13人で、発生地はそれぞれ深圳、珠海、湛江だった。

 第2に、中央政府と国務院は事態を非常に重視し、既に全面的な指示を出していた。国務院の首脳陣は、「早期発見、早期報告、早期治療、感染経路の明確化を強調し、速やかに、公開、透明に、状況を客観的に反映させ、感染拡大を防止させる」ということを強調すると同時に、世界保健機関(WHO)と効果的な意思疎通を保ち、感染状況をリアルタイムで報告するよう求めていた。中国国家衛生健康委員会も具体的な計画を進めていた。

 第3に、広東省各級組織の行動は迅速だった。速やかに会議を開催し、計画を伝えた。省の指導者は自ら指示して、装備保障グループ、世論モニタリンググループ、科学研究専門家グループなどを立ち上げ、省の指導者がグループ長を兼任した。省政府の指導者は省の衛生当局に足を運び状況を調査し、新型コロナウイルスに対応する心理的準備、組織的準備、物的準備を行った。各級医療機関はすぐに業務を強化し、全面的な感染症対策を講じた。

 第4に、新型コロナウイルスは動物からヒトに感染した可能性があった。「0号患者」を特定することはその時点でもはや困難であり、感染者のほとんどが武漢に集中し、その他の省の感染者も武漢からの流入だった。中国の著名な防疫専門家で、中国工程院の鐘南山院士は取材に対して、防疫における注意事項を発表した。

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広東省の新型コロナウイルス感染防止対策指揮弁公室の科学研究グループは、昼も夜も休まず、作業時間を延長して関連作業に当たった。

 上記の会議の方針に基づいて、職場の上司は筆者が在籍する部門に対して、感染防止のために以下の5つの指示を出した。

(1)事態を重視する必要があり、普通のインフルエンザと同一視してはならない。不十分な対応による手落ちがあっては決してならず、真剣に対応し、強大な敵に立ち向かうような姿勢で仕事をすること。

(2)自信を持って取り組むこと。政府、国民、自分、そして非常に発達しているテクノロジー医療手段を信じ、整然と秩序立てて、科学的に感染を防止する。

(3)防護策をしっかり講じること。公共衛生と個人衛生に注意し、愛国衛生運動を徹底的に実践する。会社がある公共の場の当直を強化し、厳格な防止対策を講じ、状況を毎日報告する。春節期間中、親戚、友人の訪問は慎重に行い、流行が深刻な地域を訪問しない。

(4)追跡・モニタリングを強化すること。早期発見、早期報告、早期治療を心掛ける。家族が発熱した場合も、速やかに報告するとともに、病院に行って治療を受ける。新型コロナウイルス関連の全ての情報は、衛生当局の発表を基準とし、デマを飛ばしたり、デマを信じたり、デマを流したり、根拠のないうわさを拡散させたりしない。

(5)業務グループを立ち上げ、人と力を結集して、難関攻略を強化し、新型コロナウイルス積極的に対応して、感染が発生した場合、直ちに対応できるよう備えておくこと。

 会議ではさらに、スタッフ全員に対して、携帯電話の電源を常に入れておき、毎日、自覚を持ち、必ずマスクを正しく着用するよう指示が出された。

 こうした一連の対策により、広東省、ひいては中国全土で、新型コロナウイルスとの闘いの警報が発令されることとなったことに疑いの余地はない。そして、疑心暗鬼になるまでではなくとも、重大事件が起きる前のような緊張した空気がみなぎるようになった。

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中山大学第一人民病院の検温所

 翌日、私たちはマスクの調達に出かけた。幸運にも、まだ商店や薬局で手に入れることができた。その後、いつもと全く変わらず、通常の業務を行った。いつもと違うことと言えば、マスクをしているスタッフがいた点だけだ。夜になると、飲み屋は、いつも通り、賑わっていた。ただ一方で、湖北省の実家にマスクを送る人もいた。また、春節を目前に控え、みんな帰省する予定で、列車のチケットや春節用の土産品などを既に買い揃えていた人もいたが、帰ってもいいのか、帰らないほうがいいのかというのが、多くの人を悩ます問題であった。

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広州市民向けの広州市第八人民病院のメッセージ

 1月20日付けの「新京報」の報道によると、新型コロナウイルス感染患者の受け入れ準備を進めるために、同日から、広州市第八人民病院は、医師ら職員全員に対して、春節休暇を取りやめ、広州市に留まって、指示を待つようにと通知を出した。

 同日、17年前に、広州で重症急性呼吸器症候群(SARS)流行の対応に当たった防疫専門家グループのメンバー趙子文氏が、広州市で1例目となる新型コロナウイルス感染患者を確認し、広州市の速やかな警報発令と新型コロナウイルス感染診断のための非常に貴重な資料を提供した。

「オオカミ(ウイルス)が来たら、オオカミがどこにいるか、どこから来たのかをすぐに調べなければならないとずっと言っている。1人目の感染者が確認された後、オオカミはひっそりと、隠れて流入してきたことを知った」と趙氏。

 このようにして、戦火の見えない戦争が始まった。が、当時はこの闘いが短期的な狙撃戦になるのか、長期にわたる陣地戦になるのか、それとも、国民総動員の殲滅戦になるのか、誰にもわからなかった。しかし、それがたちまち中国全土に広がる「大戦争」へと発展しようとは誰も予想していなかった。