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【20-017】よみがえる武漢

杜瑋、賀斌、劉遠航、李明子(『中国新聞週刊』記者)、江瑞(翻訳) 2020年07月15日

4月8日、武漢のロックダウンは解除された。
解除を前に、店は少しずつ再開を始めていた。
アツアツの熱乾麺。楚河漢街や解放大道に軒を並べる商店。
武漢人にとっての永遠の心のふるさとだ。武漢は長い眠りから目覚め、
人々はどんよりした冬から陽光きらめく春へ駆け出そうとしている。

 「ただいま、武漢」。3月30日午後6時頃、武漢のランドマークの1つ「楚河漢街」の中ほどで営業するある店舗がLED広告にこんなメッセージを流した。この日は楚河漢街の営業再開日。武漢市最大の繁華街・解放大道にある武漢国際広場ショッピングセンターも入口のドアを大きく開けて買い物客を迎え入れた。

 武漢の街には、バス停でバスを待つ市民や、シェアサイクルで出かける学生、忙しそうに動き回るフードデリバリーの配達員の姿が見られるようになっていた。行き交う車も増え、ここ数日は、市街地で渋滞も発生。3月25日には武漢市内の117のバス路線が、28日には6本の軌道系交通が運行を再開した。

 武漢はいま、再び立ち上がろうとしている。感染者ゼロの居住区は市全体で9割を超え、新型コロナウイルス感染者以外の診察を請け負う医療機関も60以上に増えた。市民らは居住区を出られるようになり、公園の散歩や広場でのダンスを満喫している。

 武漢と武漢の人々は、いま正に2カ月を超える封鎖から解き放たれ、どんよりした冬から陽光きらめく春へ駆け出そうとしている。

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3月28日、武漢の東湖周辺を散歩する家族。4月8日に「封鎖解除」を迎えた武漢では、市民らが秩序を守って日常生活を取り戻そうとしている。 撮影/『中国日報』王敬

熱乾麺、買い物、健康コード

 まだ熱いテイクアウト容器を片手に持ち、待ちきれないとばかりに芝麻醤〔ごまペースト〕を混ぜる。武漢人のソウルフード・熱乾麺。3月29日午前9時、武漢市の地元グルメと文化が融合する吉慶街の有名熱乾麺店「蔡林記」の入口には、早くも配達員たちが待機していた。

 同店は3月24日の営業再開以降、注文がうなぎのぼりだ。29日は雨だったが、店内には熱気が立ちこめ、受注分のテイクアウト容器がテーブルの上にところ狭しと並んでいた。約30分の間に10人ほどの配達員が入れ代わり立ち代わりそれらをさばいていく。臨江大道にある「蔡林記」の支店は28日から営業を再開したが、29日は朝から50以上の配達注文が舞い込んだ。これは感染拡大前とほぼ同等の販売量だ。

 フードデリバリーの配達員は、新型コロナによる武漢の変化を肌で感じてきた。「餓了麼」の配達員・周凱が言うには、旧正月の3日〔2020年1月27日〕にはまだいくらか出前の注文があったが、飲食店が次々と休業を決めるにつれ注文も減っていき、営業を続けているのはスーパー、コンビニ、薬局・ドラッグストアのみとなっていった。それ以後しばらくの間、彼らの仕事はほとんどが顧客の依頼を受けて代わりに用事を足す、いわゆる「お使い」に変わった。1日あたりの依頼は30件ほどで、感染拡大前と比べると約半分に落ち込んだ。幸い会社から1日100元の「コロナ手当」が支給されたため、収入は以前とほぼ変わらなかった。最近になり、やっと飲食店のオンライン注文受付が再開され、デリバリーの仕事が増えてきた。

 デリバリーだけでなく、宅配便も徐々に再開されていった。ウイルスが猛威を振るっていた間に武漢で宅配便・配送サービスを提供していたのは、EMS、順豊〔SFエクスプレス〕、京東などごく少数の企業のみで、居住区の外出制限と配達能力不足も加わり、大量の荷物がたまっていた。3月25日、武漢の宅配便企業12社が全面的に業務を再開した。アリババグループの物流会社・菜鳥網絡(cainiao)によると、同社では営業所780カ所・配達員2,000名あまりが稼働を始めた。

 これにより武漢市民の買い物問題は解決へと大きく前進した。居住区の外出制限に配達能力不足が加わり、武漢の人々は欲しいものが自由に手に入らないという我慢の日々を2カ月以上も耐えてきたのだ。

 ロックダウン当初は、スーパーに買い物に行くことはできた。それが2月中~下旬に入り、新規感染者の増加スピードが加速しだした頃から居住区の外出制限措置が取られるようになり、スーパー側も個人への商品供給を停止し、居住区ごとの共同購入を実施するようになった。しかし共同購入できる商品は種類が少なく、居住区の人手不足もあり、自由な買い物は到底かなわなかった。

 「野菜がない、肉が欲しい、熱乾麺も魚も食べたい。数え上げればきりがなかった。幸い買える商品はどんどん増えて、価格も下がっていった」。この日、劉亜萍は夕食に大エビの油炒めを作ろうと考えていた。エビは前日に注文しておけば、次の日の朝には配達される。「一番苦しかった日々はやっと終わった」

 市民の需要と店舗の供給との間には、配達能力不足といういかんともし難い壁があった。武漢に18店舗を構えるスーパーマーケット「盒馬鮮生」は、感染拡大開始から現在に至るまで、一度も休業や閉店をしていない。同社の武漢・長沙・西安エリア広報担当者の李楠は語る。「中国人は春節前に年越し用の品物を大量に買っておく習慣があるため、春節期間中は通常、売上が減少する。それで春節期間は勤務するスタッフを減らすシフトを組んでいたところ、感染拡大で都市がロックダウンされ、却って注文が激増するとは予想外だった」

 通常のオンライン注文の場合、1人の配送員が一度に3~5件分の注文を配達する。しかも普段なら多くてもせいぜい3日分ほどの買い物をするところ、感染拡大の影響下では、多くの人が一度に1週間やそれ以上の品物を注文するようになった。配達能力には限界があり、注文量は拡大。当時、武漢に残っている職員を全員出動させ、自家用車を使っての配送も試みたが、荷物をすべて配達し終えることはできなかった。

 そうした理由から、「盒馬鮮生」は2月初頭から居住区ごとの共同購入に踏み切った。武漢市が居住区からの外出制限措置を打ち出すと、「盒馬鮮生」はオフラインでの小売りを一時的に休止し、居住区単位の共同購入に商品を集中的に供給する方向に舵を切った。武漢市商務局も同社を支援するため、各店舗に1台ずつ、居住区の共同購入用のバスを配備した。

 3月21日、武漢のスーパーは個人客向けの営業を再開した。「盒馬鮮生」も徐々にオフライン営業を再開させた。現在のところ、各店舗の1日の来店者数は約200~500人ほど。「中百」「武商」などのスーパーや一部コンビニも、人数制限をしながら個人客への小売りを再開しており、登録済みの湖北省健康コードを提示し、体温が平熱であれば、入店しての買い物が許される。これは公共交通を利用する際も同様で、例えば地下鉄に乗る場合は、駅に入り安全検査を受けるときに健康コードを登録し、電車を降りる前にもう一度健康コードを登録する。

 今回の感染拡大では、非接触決済手段、各種オンラインショッピングやSNSアプリが大いに役立った。しかし、こうしたものに不慣れな高齢者は、そこからはじき出されてしまう。居住区のボランティアが高齢者向けに買い物代行及び配送サービスをおこなっているが、武漢のロックダウンが解除されたとしても、今後しばらくは警戒を緩められない状態が続き、買い物も外出も健康コードと非接触決済がなければ、ほぼ不可能であると思われる。

 劉亜萍はこれまでずっと広州で仕事をしており、去年武漢に戻ってきた。武漢のロックダウン時に70代になった両親の側にいることができたのは不幸中の幸いだった。さもなくば、両親は食事すらままならなかっただろうと彼女は吐露する。

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3月29日、武漢市の百歩亭居住区で、全身を防護し市場に買い物に来た市民。 撮影/『長江日報』陳亮

出産、外来、回復者

 発熱スクリーニング外来から、産科の受付、医師による診察に至るまで、もし医療従事者が防護服を着ていなければ、感染が収束したばかりとは到底信じられないほど、湖北省婦幼保健院は混雑していた。同院は感染拡大期間中、武漢市の新型コロナウイルスに感染していない妊産婦の指定医療機関だった。3月16日に通常の診療体制が復活して以降、同院の外来受診者は14日間連続省内1位を記録し、29日12時から30日12時までの24時間には、外来受診者がのべ2,732人にも達した。

 感染拡大期間中に蓄積した妊婦たちの健診ニーズも、外来受診者数を押し上げる一因となった。武昌市の徐東地区に住む30歳の劉娜は3月28日朝7時半に夫に付き添われて同院を訪れたが、手にした受付番号は114番だった。つまり、この日の午前中に産科外来で114番目にならないと診察してもらえないということだ。妊娠29週に入った劉娜は、感染が比較的落ち着いたと判断し、後期スクリーニング検査を受けにきた。この2カ月あまり、彼女の周りでは妊婦健診を見送っていた人が多かったという。彼女は本来2月14日に中期スクリーニング検査を受ける予定になっていたが、感染拡大の影響で、3月1日になって仕方なく診察待ちが10人ほどしかいない民営の産婦人科医院で検査を済ませたという。

 午後1時過ぎ、湖北省婦幼保健院産科外来の電光掲示板には、受付番号が500人を超えた旨が表示された。産科副主任の湯則男の記憶では、この状態は既に3週間も続いている。湯則男の説明によると、外来診察数と入院者数の増加により、病院側も感染対策強化を強いられているという。同院では、受診者の増加と無症状感染者による潜在的な院内感染リスクを避けるため、疫情防控指揮部〔新型コロナウイルス肺炎予防抑制指揮部〕の要求に従い、入院妊婦及び付き添い家族全員にPCRとCTの「二重検査」を義務付け、PCRの結果が出ていない場合は緊急度に応じてまず「緩衝病棟」〔新型コロナウイルス感染症が治ったばかりの患者や、感染がはっきりしない患者を収容する病棟〕に収容するようにした。3月17日から29日までの間、既に800を超える新たな命がここで誕生している。

 感染拡大が収束し、武漢市の各大病院の外来も通常の秩序を取り戻しつつある。3月29日12時から3月30日12時までの24時間で、これらの病院の外来受診者は、のべ2万4,000人を超えた。武漢市第五医院では、患者の密集を避けるため診察を予約制とし、入院が必要な場合はまず緩衝病棟に入りPCR検査を受けることを義務付けている。同院はまた、新型コロナウイルスによる感染症が治癒して退院し回復期にあるが、基礎疾患を持っている患者の指定病院にもなっており、退院して14日以内で、基礎疾患を発症した感染者の診察を請け負っている。

 湖北省中医院光谷分院では、既に退院し、且つ隔離施設で14日間の経過観察を終えた新型コロナウイルス感染者に再検査とリハビリをおこなうため、3月5日から全省初の回復外来を開設した。

 楊琪は1月27日頃に発症し、その後、武漢市第三医院光谷分院に入院した。夫、子供、夫の姉と兄の計6人も次々と感染が確認された。2月29日に第三医院を退院した楊琪は、3月15日に湖北大学の隔離施設から帰宅した。「軽症者の中では重症」という分類だったものの、帰宅後、息切れ、呼吸困難などの症状が出た。そこで彼女はその日のうちに回復外来を訪れ、PCR、CT、肝機能などの検査を受けた。

 湖北省中医院感染科副主任の医師・肖明中は回復外来の業務責任者だ。3月30日の取材では、回復外来は当初、電話予約のみで1日30人限定だったが、ここ数日は移動の自由度と患者のニーズが増えたことから受け入れ人数を徐々に増やし、現時点で受診者数は合計1,000人に上っていると語っていた。診察の対象となるのは、咳、胸苦しさ、息切れ、発汗、不眠などの症状がある患者、胸部X線検査で肺の炎症が完全におさまっておらず、肺が線維化を起こしている患者、隔離から14日後、28日後に再検査を受ける患者の3種類で、それぞれが約3分の1ずつを占めているという。

 肖明中は新型コロナウイルス肺炎から回復した患者を診察するうち、ウイルスが患者の心・肝・腎機能を損傷させ、血糖値にも影響を与える可能性があることに気づいた。診察したある70歳前後の男性患者は、画像診断の結果、肺に10%~20%の炎症が残っており、線維化も見られた。また、食後の血糖値は、平常時の食後の血糖値より明らかに高くなっていた。他の数名の回復途上の患者も、以前は1~2種類の薬で血糖値を抑えることができていたが、いまは3~4種類の薬を飲んでもあまり効かないという。しかし、こうした現象が生じる具体的なメカニズムや原因については、肖明中もまだはっきりしたことが分からずにいる。

 肖明中のチームが1,000名近い回復途上の感染者を観察した結果、再陽性になる割合は3~4人と高くなく、しかも臨床症状が現れず、肝・腎機能、血液一般検査、CT検査のいずれも結果良好で、「よく食べよく飲みよく眠れる」状態だった。だが同時に、新型コロナウイルス肺炎から回復した感染者の多くは、臨床症状の発現と画像診断の結果が一致しないことも分かった。「症状が軽くなり、治った、家で30分くらいなら運動できる、と感じる人が多い」が、画像診断では肺部にすりガラス状の陰影、線状・索状の陰影が見られ、炎症は完全におさまっていない。それゆえ肖明中は、患者に対し、定期的な再検査とフォローアップの重要性を説いている。

 「これはまったく新しい病気で、解明されていないことも多い。画像診断で最終的に完全に炎症がおさまったと判断されるのか、感染者は完全に回復できるのか、体への影響はどれくらいあるのか、いずれも長期間の観察が必要だ」。肖明中はまた、身体的側面だけでなく、感染者の心のケアにも気を配り、社会が寛容に受け入れ、できるだけ早く日常生活に戻れるようにしていくバックアップが必要だとも強調している。

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3月21日、湖北省武漢市児童医院の新生児隔離病棟で、医師と看護師が新型コロナウイルス肺炎に罹患した妊婦が出産した新生児のケアをしている。 撮影/『中国日報』陳卓

回復への関門:心のケア

 2月21日、上海市楊浦区精神衛生センター主任の伍毅は、第9陣他地域医療チームのメンバーとして武漢にやってきた。計50人から成る精神科医のチームは5人1組に分かれ、コンテナ病院や指定病院に配置された。伍毅のグループが配置されたのは武漢市紅十字会〔赤十字〕医院。カウンセリングに来た人のことは、患者とは呼ばず、「来訪者」と呼ぶ。来訪者は新型コロナウイルス肺炎の回復者や、医療従事者だ。

 感染拡大以降、他地域医療チームとして派遣された精神科医は合計で約300名に上る。これら専門の精神科医の他、市内に無数に散らばる居住区病院も、患者が回復の過程でぶつかる心の問題のケアに当たる必要がある。感染者は退院後、リハビリステーションで14日間の隔離生活を終えてようやく帰宅が可能となる。

 洪山区長動医院(長動居住区衛生サービスセンターを付設)公共衛生科の主任として長期にわたり感染者とつきあってきた肖冬は、この都市の最も辛く暗い時期の生き証人だ。武漢の停止ボタンが押された1月23日、突如として来襲した感染爆発がもらしたのは、病気の苦しみと暮らしの停滞だけではなく、心の隔たりや人間関係の断絶といったものもあったに違いない。都市封鎖の前夜、去るか留まるかで意見が分かれ、離れ離れになった恋人同士もいた。引き離されるか、それともそばにいつづけるか、家族の間でも辛い選択を迫られた。

 新型コロナウイルス肺炎は、多くの感染者を生死の境に追いやった。医療従事者による必死の救命活動で瀬戸際を乗り切ったあとに浮かび上がったのが、彼らの心のケアだった。最も辛く暗かったあの時期、外来に殺到する人々に対応した医療従事者には想像を絶するプレッシャーがのしかかった。防護物資の不足、交代なしの長時間勤務、毎日目にするおびただしい死亡例......。その途方もないストレスに真っ先にさらされたのは、年若い看護師たちだった。心のケアは喫緊の課題だった。

 これが伍毅が武漢に着いたばかりのころ目にした状況だった。それは2月頭に深刻さを極めた。「他地域からの応援チームも含め、看護師らは毎日、膨大な重労働を担っていた。彼らは経験が少なく、重症病棟で頻繁に死と向き合ったこともない。それなのに、今日食事を食べさせていた患者が、次の日病室に行ってみると亡くなっていたという経験をしなければならなくなった」と伍毅は指摘する。

 ある日、伍毅の元をカウンセリングに訪れた看護師がいた。年齢はまだ26歳と若く、元々は武漢市のある一般病院で勤務していたが、最初に赤十字医院の支援に志願した8名のうちの1人だった。しかし、患者のケアをする過程で彼女自身も新型コロナウイルスに感染してしまった。

 この看護師の症状は比較的軽かったが、彼女には同じく新型コロナウイルスと第一線で戦う看護師の姉がいた。両親は田舎で暮らしている。彼女は自分が感染したことについては特に不安を感じなかったが、姉も感染してしまうことだけが心配で、胸苦しさや不眠など一連の症状を覚えるようになった。

 周囲の同僚や家族に自身の心情を打ち明けることは、彼らのような医療従事者にとって簡単なことではない。そうした理由から、他省から来た精神科医が彼らの感情のはけ口役を務めたのだった。

 伍毅の所見では、一般的に、認知に偏りが生じることで、情緒に異変が生じるため、それを吐き出す方法を見つける必要が出てくる。「吐き出し方が分からない人、吐き出せない人もいる。社会の支えがあれば、患者の心の問題はかなり解決するはずだ」

 他地域医療チームの援軍が増えるにつれ、現地の医療従事者の負担も軽減していったが、回復した患者の心のケアのニーズは急激に増加していった。伍毅がカウンセリングしたある70歳過ぎの高齢者は、新型コロナウイルスに感染し生死の間をさまよったが、重症から軽症に転じ、なんとか回復することができた。配偶者は8年前に他界しており、2人娘のうち長女と同居していた。感染発覚後は、家族間感染を防ぐため、付き添いは禁じられた。

 この高齢者は矛盾した感情を抱えていた。娘たちにうつすことを心配する一方で、2人が見舞いに来ないことで絶望感が募り、退院後は疎ましがられて見捨てられるのではないかという不安を拭えずにいた。

 リハビリステーションでの隔離期間が終了し、健康を取り戻した感染者は、そこから再び人間関係と気持ちの再建に向き合わなければならない。徹頭徹尾自分は病気ではないと考えている人もいれば、回復後も体に異常があり、ウイルスが全身のすべての器官に拡散してしまっているのではないかと訴える人もいる。また、同じ居住区の住民から差別されるのではないかと危惧する回復者もいる。

 肖冬と同じ居住区に住む友人が、肖冬にカウンセリングを依頼し、苦しい気持ちを吐き出したことがあった。友人の祖母は新型コロナウイルスに感染し、回復して自宅に戻ってきた。その後、居住区内を歩いていた友人は、壁に貼られた感染拡大に関する公告に自分の住む号棟と階が書かれているのを見つけ、辛い気持ちになった。知り合いに出会っても、意識的にか無意識にか避けられているように感じたという。

 長動センターのような居住区医療を担う病院には、心理カウンセリング専門の医療従事者は1人しか配置されていない。他にいるのは居住区のボランティアだが、心理学を専門に学んだわけではない。先日、上級部門はすべての居住区病院に対し、心理「専門職」として集中訓練に参加する職員を1名報告するよう求める通知を出した。回復者の心のケアの問題は外部からも重視されており、このことは武漢の真の意味での回復にとって、大きな助けとなるだろうと肖冬は感じている。

(文中の周凱、劉娜、楊琪はいずれも仮名)


※本稿は『月刊中国ニュース』2020年7月号(Vol.101)より転載したものである。