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【20-029】ネットゲームは人民の職業になった!

2020年12月11日 ケンリー(文)

実は世界ではすでにeスポーツ強豪国の1つとして知られている中国。人気のあるゲームで数々の世界大会の優勝を勝ち取ってきました。今回はその中国のeスポーツの歴史、そして中国でeスポーツが産業になるまでの少し変わった紹介となります。

 中国のeスポーツは実は20年以上の歴史があります。

 eスポーツ(電子競技)が中国国家体育局に正式スポーツ項目として認定されたのは2003年ですが、その始まりはさらに古く、中国で民間のeスポーツ活動が活発になったのは1998年からと言われています。当時はRTS(リアルタイムストラテジー)やFPS(ファーストポジションシューティング)のゲームが主流で、強豪である韓国や欧米諸国に挟まれた状態でした。2003年に開催された最大の世界大会の1つであるWCG(ワールドサイバーゲームズ)ではWarCraftⅢというゲームで中国選手は惜しくも準優勝でした。しかしそれをきっかけに、2004年の北京の万里の長城で開催されたグランプリでは中国選手が中国eスポーツ史上初の賞金百万元を手に入れ、その後2005年、2006年のWCGでは中国選手が2連覇という快挙、中国のゲーマーたちにeスポーツ選手になるという選択肢と希望を与えました。

 ここでようやく中国におけるeスポーツの組織が誕生し、企業協賛などの商業的活動が活発になり始めました。

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 そこから、ゲームの流行がMOBA(マルチプレイヤー・オンライン・バトル・アリーナ)へと変わり、現在の中国eスポーツを支える三本の柱(RTS、FPS、MOBA)が正式に形成されました。

 何より注目すべきなのはその規模の大きさです、中国でスポーツ選手になるためには正式な登録をする必要があります。当然eスポーツ選手も同じく登録をする必要があるのですが、現在のeスポーツ選手の在籍数は中国のプロサッカー選手の在籍数を越えてしまいました。

 2003年の公式認定から17年、ここまで成長できたのは各種のメディアが大きな役割を果たしていたと思います。

 2000年初頭にはすでに地方テレビ局でeスポーツ試合の中継がおこなわれていました。2003年のeスポーツの体育局による認定とともに、CCTV(中国中央電視台)の体育チャンネルではeスポーツ専門の番組が放送を開始、1年後の2004年6月で番組は風評被害を受けてやむを得ず終了しましたが、これをきっかけに各地で有料のeスポーツチャンネルが設立されるようになりました。

 これらと並行して中国でのネットインフラ建設が進み、PCゲームのローカル通信の仲介プラットフォームがかなり増え、その後各動画サイトで大会の解説動画や攻略動画が投稿されるようになりました。そして、その最終形態としてライブ配信が誕生したのです。

 2020年10月12日eスポーツライブ配信の古参であるテンセント系の闘魚、虎牙は正式に資本提携すると発表しました。それに加えてリーグオブレジェンドの公式大会S10の中国配信権を買い占めたbilibiliとともに、新参者でありながら今年の7月で月間アクティブユーザーが2億以上と発表したことで、事実上の最大手である快手遊戯に対抗する状態になりました。噂ではバイトダンスも配信事業に参入しようという動きがあり、いまのコンテンツ産業の中でも最も勢いがあると言えます。

 ライブ配信サービスが誕生したことによって、いままで商業化が難しいといわれたeスポーツがようやくそのチャンスを摑みました。各ライブ配信企業を支える最も大きな柱として活躍しています。2019年の市場規模は208億元(約3,300億円)を超えており、そのうち9割以上は配信による直接の収益であり、現在赤字続きのbilibiliに比べ、闘魚は2019年の時点ですでに黒字の収益を実現していたのです。

 そのライブ配信をビジネスチャンスとして考える人や企業が多く、1人のゲーマーやeスポーツファンとしては、配信というのは選手たちにとって最も人気の再就職先といえます。現役選手はもちろん、引退したスター選手がその人気を利用し、ライブ配信主として再就職するのです。引退したスター選手はゲームの配信や解説をし、既存の人気を有効活用して食品やゲーミンググッズのECなどで生計を立てることができます。これはいま流行りのライブ配信販促(中国語で「帯貨」)の原点の1つとも言えます。ファンも退役した好きな選手のプレイが観られて、選手とより身近に交流できるので、配信者と視聴者の利害が一致するわけです。

 また、この盛況に合わせて政府が16年ぶりに動き出し、専門学校の課程に電子競技専攻を設立、eスポーツ選手でも専門学校の学歴を得られるようにかなり手厚くサポートしています。eスポーツ選手を供給するだけでなく、学歴を有することで職業としての正当性はもちろん、職業としての将来性を保証する試みとも考えられます。

 もちろん、eスポーツという産業にとってライブ配信や政策のサポートというのは助力にすぎません。しかし、これらのサポートがなかったらいまのeスポーツというのはやはり少数のゲーマーの娯楽のままで、全国の若者が熱狂するほどの規模にはならなかったでしょう。2018年の中国eスポーツ業界の従業者収入報告によると、従業者数は44.3万人で平均月収は1.1万元(約17万円)となっています。一流選手なら年収2,000万円も夢ではありません。

 これらのデータを見る限り、eスポーツを職業としても何の問題もないと感じるかもしれませんが、そこには1つ大きな見落としがあるのです。ゲームによってはその選手生命は非常に短い。例えばいま最も大会賞金が高いゲームの1つである「リーグオブレジェンド」では、2019年に23歳の年齢で引退宣言をした選手がいました。23歳といえばほとんどの人が大学を出て社会人になり、ようやく1年目が始まる年にも関わらず、競争が激しいMOBAの世界では25歳以上の選手は「老年選手」と呼ばれています。eスポーツの世界では16歳から20代前半までの時期が選手の全盛期であり、もちろんゲームによっては30代でも40代でも活躍する選手もいますが、やはりスポーツとして見ると選手生命はかなり短い方です。

 また、現役を終えた選手の進路は決して明るくありません。大学に再進学できる人はごく少数、非社交的な性格によってライブ配信や実況動画配信などのエンタメクリエイターに再就職できない場合もあります。現役時代に成績を出せなかった選手にとっては、人生の最も貴重な青春時代を棒に振った結果となるでしょう。

 ゲームが主役と言われてきたeスポーツですが、その脇役であるメディアの成長や進化から見ると、また違うものが見えてきます。

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職業と認められ、産業規模も拡大してついに専門学校課程も登場したeスポーツ。


※本稿は『月刊中国ニュース』2021年1月号(Vol.107)より転載したものである。