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【21-002】スマートフィットネスミラーで自宅がパーソナルジムになる!?

2021年02月17日

神野友里(かみの ゆり)

復旦大学国際文化交流学院を中退後、お茶の水女子大学文教育学部中国語コース卒業。損害保険会社勤務を経て、現在は航空関連企業にて国内外の旅行予約業務に従事。

突然ですが、皆さんはこの1年間でどれくらい運動されたでしょうか?この秋中国では、自宅で鏡に向かうだけで本格的なパーソナルトレーニングを受けられる新サービスが始まりました。自宅で鏡に向かうとは一体?今後ホームフィットネスの常識が変わるかもしれません。

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから早1年。3密を避けるため、昨年は自発的にジムやヨガスクールの利用を控えていた、という方も多いのではないでしょうか。

 ジムやスクールに利用者が集まらないのは、お隣中国でも同じ。コロナ禍によって密室での運動が推奨されないいま、フィットネス業界は下火......かと思いきや、中国では最近ホームフィットネス市場が急速に拡大しています。

 これまでホームフィットネスといえば、ランニングマシンやフィットネスバイク、スマートフォンの画面越しに取り組むトレーニング動画やアプリ、スマートウォッチにフィットネスゲームなど、一方通行型のものが中心でした。そんな中、ホームフィットネス分野の最先端として注目されているのが、スマートフィットネスミラー(以下スマートミラー)による双方向のパーソナルオンラインフィットネス事業です。

 スマートミラーとは、元々米国のスタートアップ企業「MIRROR」で開発された次世代のミラー型デバイス。一見するとお洒落な全身鏡のようですが、電源を入れるとオンデマンドに接続され、フィットネスレッスンを見ながら鏡に映る自分の姿をチェックしたり、内蔵カメラを通して、遠隔でトレーナーから一対一のアドバイスを受けたりできるという優れモノです。普段は普通の鏡と同じように使うことができるデザイン性の高さもポイントで、これまでにない近未来的なデバイスだと注目を集めています。

 このミラー型デバイスにインスパイアされ、中国においては上海を拠点とするスタートアップ企業「myShape」が〈mirror M1健身镜〉を、成都を拠点とするフィットネス企業「FITURE」が〈FITURE魔镜〉を、それぞれ開発しました。

 中国で開発されたスマートミラーには、基本的な性能に加えてソフトウエアやカメラにAI(人工知能)が搭載されたため、運動中に全身の3Dモーションデータを保存し、間違っている動きや姿勢があれば、その場でデジタルトレーナーからフィードバックを受けることが可能となっています。

 このスマートミラー、最新技術が反映されたハイテク機器とあって、例えば〈FITURE魔镜〉は7,200元(約11万5,000円)の本体価格に加え、年会費が1,188元~(約1万8,000円~)必要となります。アメリカで発売中のスマートミラーは、本体価格が1,495ドル(約15万6,000円)ですから、中国国内でもかなり高価な商品と言えます。一体どのような層にアプローチされるのか筆者も気になる所ではあるため、少しばかり推測してみたいと思います。

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こちらは壁掛けタイプの智能魔鏡(スマートミラー)。自分の姿を映しながら、様々なコンテンツやフィットネスプログラムを利用することが可能だ。

 現代中国でモノコト消費の中心といえば、大卒で都心在住、それなりに良い企業に勤めてお金を稼ぎ、成功よりも自分の幸せが大事、モノを選ぶ価値観はブランド力よりも品質や利便性重視といったような、いわゆる中流階級に属する人々です。世代でいえば、80後90後(80年代生まれ、90年代生まれのミレニアル世代)とZ世代(1995年以降生まれ)がこれに当たります。とある中国のリサーチ会社によれば、彼らの趣味はネットやウェブショッピング、フィットネス、海外旅行といった回答が得られたそう。仕事は真面目に取り組み、物事には贅沢よりもリアルな使い心地を求め、心身ともに健康に生きる彼らのような消費者が、多くのマーケッターのターゲットとなっています。

 従来のフィットネス市場は、初心者にはダンス・ヨガ・エアロバイクなどのスタジオ系フィットネスを、上級者には専任パーソナルアドバイザーやトレーニングコーチによる自宅やプライベートジムでのトレーニングを、それぞれの嗜好や能力に合わせて多種多様なコンテンツを提供し、消費を促してきました。

 新型コロナウイルスのパンデミック以降は、手元のスマートフォンやタブレット、パソコンなどのデジタル機器を活用した、手軽に始められるホームフィットネスが話題となりました。ジムに行けない日々が続く中、AI搭載の次世代フィットネスデバイスが登場したことで、「わざわざ忙しい合間を縫って、質が良いかも分からないトレーナーにコーチしてもらうよりも、多少初期費用が高く付いても、データによって自分に最適化されたトレーニングコンテンツを好きな時間に視聴できる方が効率的なのでは」と考える人が増えてもおかしくありません。

 感染リスクを気にせず自宅で運動ができる、デバイスは最先端でカッコいい、コンテンツも面白く充実している......となればミレニアル世代の彼らの興味を引くのは当然の結果でしょう。

 実は日本でもほぼ同時期に2020年10月から「1/3rd Fitness」で、12月から「MIRROR FIT.」でミラーデバイスを利用したコンテンツ提供がスタートしています。気になる内容はというと、用意されたオンデマンドコンテンツの中には、ヨガやピラティス、自重トレーニングや燃焼系エクササイズなどのほか、キッズ向けや姿勢矯正トレーニングもあるそうです。

 いよいよ始まったスマートミラー事業。もしかすると近い将来、スマートミラー・パンデミックによって、パーソナルジムが身近なものになるかもしれません。


※本稿は『月刊中国ニュース』2021年2月号(Vol.108)より転載したものである。