知財・法律
トップ  > コラム&リポート 知財・法律 >  File No.22-01

【22-01】中国における法人登記制度Q&A

2022年06月23日

柳陽

柳 陽(Liu Yang):
柳・チャイナロー外国法事務弁護士事務所代表

北京大学、慶應義塾大学法学修士。2006年より弁護士業務を行っており、日本企業の中国における新規投資、M&A、事業再編、不祥事対応、労務及び紛争処理等中国法業務全般を取り扱っている。

事務所ウェブサイトhttp://www.chinalaw-firm.jp

 本稿では、最近の法改正により注目された中国における法人登記制度について、実際に質問を受けた内容を踏まえ、Q&A形式で解説を進める。

Q:中国で法人に関する登記を行う際に、適用される主な法令を教えて下さい。

A:市場主体登記管理条例(以下「管理条例」といいます。)及びその実施細則(以下「実施細則」といいます。)があります。

 中国では、法人に関する登記について、これまで会社登記管理条例や企業法人登記管理条例といった行政法規が多くありましたが、2022年3月1日に施行された管理条例及び実施細則に一本化されました。

Q:管理条例及び実施細則の適用対象は何でしょうか。

A:管理条例及び実施細則の適用対象は、市場主体、即ち、中国域内で営利目的により経営活動に従事する以下の自然人、法人及び非法人組織です(管理条例第2条)。

➤  会社、非会社企業法人及びその分支機構
➤  個人独資企業、パートナーシップ企業及びその分支機構
➤  農民専業合作社(聯合社)及びその分支機構
➤  個人事業主
➤  外国企業の分支機構

Q:法人の登記が必要な場合を具体的に教えて下さい。

A:法人の登記は、設立登記、変更登記及び抹消登記があります。法人は設立した際に、以下の登記事項を登記する必要があります(管理条例第8条)。

➤  名称及び類型
➤  経営範囲
➤  住所又は主要な営業場所
➤  登録資本又は出資額
➤  法定代表者の氏名
➤  有限責任会社の株主又は株式会社の発起人

 変更登記は、以上の登記事項を変更する場合に必要となり、変更を決議し又は変更が生じた日より30日以内に申請しなければなりません(実施細則第31条)。抹消登記は、法人を解散する等の場合に必要となり、清算が必要な場合は清算が完了した日より30日以内に、清算が不要の場合は解散を決議した日より30日以内に申請する必要があります(実施細則第44条)。

Q:登記を行うにあたり、申請資料の入手方法や所要時間を教えて下さい。

A:申請資料は、市場主体別の登記資料リスト及び文書の書式は政府機関のウェブサイトや登記機関の窓口等を通じて一般公開されます。例えば、法人の設立登記に必要な資料は、主に以下のとおりです(管理条例第16条、実施細則第26条)。

➤  申請書
➤  申請者の資格証明書
➤  住所又は主要な経営場所に関する文書
➤  定款
➤  法定代表者、董事、監事、高級管理職の任命書類と身分証明書
➤  (募集設立の株式会社の場合のみ)監査法人が発行した「資本金出資証明」

 登記機関は、申請資料について形式的に審査し、申請資料が揃えており、法定の形式に合致することが確認された場合は、その場で登記を行います。また、その場で登記できない場合でも、最長でも6営業日以内に登記が行われます(管理条例第19条)。

 なお、直接登記機関に申請資料を提出するほかに、市場主体登記注冊システムを通じて申請を提出し、オンラインで登記手続を行うこともできます(実施細則第17条)。

Q:コロナ禍の影響により当社は経営困難になっており、しばらく会社を休眠させたいと考えています。中国では会社の一時休業は可能でしょうか。

A:はい、一定の要件を満たせば、一時休業(いわゆる「休眠」)は可能です。

例えば、自然災害、事故災害、公共衛生事件、社会安全事件等が原因で経営が困難になった場合、会社は、事前に従業員と協議の上、休業を登記機関に届け出ることにより、最長3年間に亘り一時休業することが可能です。また、休業期間等は、国家企業信用情報公示システムにより一般公開されます(管理条例第30条)。

Q:法人を清算する場合に清算委員会を届け出る必要がありますか?

A:公告すれば足り、届け出る必要はありません。

 従来、法人を清算する場合は、清算委員会を成立させ、清算委員会の成立日から 10日以内に清算委員会の構成員、清算委員会の責任者の名簿を会社登記機関に届け出る必要があるとされていました。

 しかし、管理条例の施行により、清算委員会の届出手続は廃止され、法人の清算を行う場合は、国家企業信用情報公示システムを通じて清算委員会の構成員、清算委員会の責任者の名簿を公告することで足りることとされています。

Q:法人を抹消するときに簡易手続がありますか。

A:抹消予定の法人が以下の条件を全て満たす場合、原則として、簡易手続により抹消手続を行うことができます(管理条例第33条)。

➤  債権債務がなく、又は債権債務の弁済が完了していること

➤  清算費用、従業員賃金、社会保険料、法定補償金、税金(滞納金、過料)の未払がなく、又はその支払いが完了していること<

➤  投資者全員が上記事項の真実性について法的責任を負うことを書面により承諾すること

 法人は、国家企業信用情報公示システムを通じて承諾書と抹消登記申請を公示しなければならず、公示期間は20日です。当該期間内に政府部門、債権者及びその他利害関係者から異議がなければ、法人は、公示期間の満了日から20日以内に登記機関に抹消登記を申請することができます。

Q:法人の登記を怠り又は不正に登記を行った場合、罰則がありますか?

A: 例えば、設立登記を経ずに経営活動に従事する場合、登記機関から是正命令、違法所得の没収、及び1万元以上10万円以下の過料を科され、さらに情状が重い場合には、閉鎖・営業停止が命じられ、10万元から50万元以下の過料を科される可能性があります(管理条例第43条)。他に、住所及び株主等に関する変更登記を行わず、定款、董事、監事、高級管理職等の届出事項を届け出なかった場合も、過料等の罰則が設けられています(管理条例第46条、管理条例第47条等)。

 また、虚偽の資料を提出し、又はその他の詐欺的手段により重要な事実を隠匿して、法人の登記をした場合は、是正命令、違法所得の没収、及び5万元以上20万元以下の過料を科され、さらに情状が重い場合には、営業許可証の没収、20万元以上100万元以下の過料を科される可能性があります(管理条例第44条)。

以上