【23-12】中国におけるAI関連立法の道筋と原則
高紹林(中国法学会立法学研究会顧問) 2023年11月30日
デジタル社会や人工知能(AI)技術の急速な発展は、経済・社会の発展や人類文明の進歩に大きな影響を与え、世界に大きなチャンスをもたらしている。
中国は近年、国内法治と対外法治の両面で、AIガバナンスの推進に力を入れている。国内法治では、ネットワークやデータ、アルゴリズム、計算能力、アプリケーションという5つの基本的分野で、法制化を全面的に強化し、AIの立法ガバナンスを積極的かつ安定的、慎重に進めている。
全国人民代表大会常務委員会は、サイバーセキュリティ法やデータセキュリティ法、個人情報保護法、EC法、電子署名法、独占禁止法、不正競争禁止法などの法律を相次いで制定し、電気通信法やサイバー犯罪対策法などの法律の起草も進めている。国務院は政府情報公開条例などの行政法規を制定した。国務院の関連部門はインターネット情報サービスアルゴリズム推薦管理規定や、生成AIサービス管理暫定弁法、次世代AI倫理規範、科学技術倫理審査弁法(試行)などの部門規則や規範的文書を制定、公表している。
最近では「データの越境流動の規範化および促進に関する規定(意見募集稿)」が各方面からの意見を公募している。これは国のデータセキュリティを確保し、個人の情報や権益を保護した上で、法律と秩序に基づいたデータの自由な越境流動をさらに規範化し、促進することを目的としている。
第3回「一帯一路国際協力サミットフォーラム」の開催期間中、中国は「グローバルAIガバナンスイニシアチブ」を発表した。これには、▽AIの発展において「人間本位」の理念を堅持すること、▽他国向けにAI製品・サービスを提供する場合、他国の主権を尊重し、他国の法律を順守し、他国の法律の制約を受け入れること、▽AIの発展において「AIフォー・グッド」の原則を堅持し、適用される国際法を順守し、平和、発展、公平、正義、民主、自由という人類共通の価値に合致すること-など11項目の提言が含まれている。
破壊的新技術の登場は、現行の社会秩序や法秩序に一定の混乱をもたらすものだ。技術革命が引き起こす新たな状況や問題に対し、中国は積極的かつ包容的で慎重な規制策を講じている。
中国のAI法制化の研究は早い時期から進められてきた。インターネットやビッグデータ、AIなどの技術の発展に伴い、法律や行政法規、地方性法規、部門規則、規範的文書などを総合的に活用し、AIガバナンスの需要に速やかに対応してきた。
中国のAI関連立法の主な特徴として、以下の4つが挙げられる。(1)党の指導を堅持する。党中央が全体を統括し、関連する指導方針と政策計画を速やかに発表し、AI法制の方向性を明確に示す。(2)中国の特色を持つ法律規範体系の総合機能を十分に発揮させる。法律、行政法規、地方性法規、部門規則、地方政府規則、規範的文書などが互いに連携し、国務院の部門規則と規範的文書がけん引して規範化する役割を担い、法制化の条件が整った段階で、国の法律や行政法規へと昇格させる。(3)問題志向を堅持し、分類に基づいて施策を進め、安定的に推進する。AI技術の初期発展段階では、大規模で包括的なAI関連立法を急いで進めることはなく、その代わりに際立った問題に焦点を当てた特定分野のみ適用する法律、法規、規則、規範的文書を制定する。(4)地方の法律制定が模索的役割を果たし、国の法律制定のために、徐々に経験を蓄積する。
私は、以下の5つの原則を堅持することが、AIの新たな発展傾向を把握するための着眼点や足掛かりになると考えている。(1)イノベーションを奨励する原則。AI法制化は、イノベーションの奨励を最優先原則とし、中国がAI分野で世界の先頭集団に入るようにしなければならない。(2)発展を促進する原則。AIの発展のために良好な法治環境を創出し、AIが社会全体の各分野において幅広く応用されるよう促進しなければならない。(3)安全を保証する原則。安全はAI発展のボトムラインで、全体的な国家安全観を徹底し、サイバーセキュリティやデータセキュリティを保証し、個人情報を保護しなければならない。(4)社会の公共利益を保護する原則。AI立法化は「テック・フォー・グッド」を促進し、AIが多くの人々に幸せをもたらし、社会福祉を増進させるようにしなければならない。そして(5)は、国内法治と対外法治を統一的に推進する原則である。
つまり、中国は世界各国と足並みを揃え、国際交流・協力を深化させ、AI産業の革新的発展を推進し、サイバースペースの運命共同体構築を加速させ、手を携えてさらに幸福で素晴らしい未来を切り開かなければならない。
※本稿は、科技日報「中国人工智能立法的路径与原则」(2023年10月20日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。