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【24-01】中国の会社法の第三回改正(2024年版)について

2024年01月29日

柳陽

柳 陽(Liu Yang):
柳・チャイナロー外国法事務弁護士事務所代表

北京大学、慶應義塾大学法学修士。2006年より弁護士業務を行っており、日本企業の中国における新規投資、M&A、事業再編、不祥事対応、労務及び紛争処理等中国法業務全般を取り扱っている。

事務所ウェブサイトhttp://www.chinalaw-firm.jp

 中国の会社法の第三回改正案(以下「新会社法」という)[1]は、パブリックコメント募集を経て、2023年12月29日に中国の立法機関である全国人民代表大会常務委員会から採択され、2024年7月1日に施行される。新会社法は現行の会社法をもとに、改正又は追加した条文が約300個にも及んでおり、改定幅が今まで最も大きいと言われている。

 新会社法は、現行の会社法と比較して、主に登録資本金の払込、会社の組織機構、持分譲渡、董事、監事及び高級管理職  [2]の経営責任等について多くの改正がなされ、日系企業を含む外商投資企業にも影響が大きいと考えられている。本稿では、新会社法の重要な留意点を紹介する。

1.株主の出資責任の強化

(1)資本金の払込期限

 現行の会社法では、登録資本金の払込期限が定められておらず、会社設立時や増資時に長期間の払込期限を設定するができる。これに対して、新会社法は、株主は引き受けた資本金を会社設立後5年以内に払い込まなければならないとしている(法47条1項)。この規制が、設立済みの既存の会社にも猶予期間を与えた上で適用されるとの見方が有力である。これまで既存の日系企業において、長期の払込期限が設定される事例が散見されるが、新法施行後には、新会社法に沿った対応を検討する必要性が出てくる。

 また、新会社法では、会社が期限内に債務を弁済できない場合、会社又は期限が到来した債務の債権者は、すでに引き受けたがまだ出資期限が到来していない株主に対して、前倒しで出資金を払い込むよう要求することができる(法54条)。

(2)董事会の催促義務

 新会社法では、董事会が株主の出資状況を確認する責任を負い、期限内に出資金が払い込まれなかった場合、株主に対して書面で出資を催促することが規定されている(法51条1項)。また、董事会が当該催促義務を履行せず、これにより会社に損害をもたらした場合、催促義務を履行しないことに責任がある董事は賠償責任を負うとされている(法51条2項)。

(3)出資義務を履行しなかった場合の株主の権利喪失

 株主が書面で催促された期限内に出資の義務を履行しなかった場合、董事会の決議に基づき、会社は株主に権利喪失通知を発行し、通知の発行日から株主は未払込分の出資権を失う(法52条1項)。かかる権利喪失された持分は法に基づき譲渡されるか、登録資本を相応に減少して抹消登記をする。また、6か月以内に譲渡又は抹消されなかった場合、他の株主は出資比率に基づいて相応の出資を払い込まなければならない(法52条2項)。

2. 持分譲渡の要件緩和

 有限責任公司の株主の持分譲渡に関して、新会社法は、株主が持分を外部に譲渡する際に他の株主の同意が必要だった規定を撤廃し、代わりに他の株主に通知するだけで足りるようになった(法84条2項)。これにより、株主が持分を外部に譲渡する手続が簡素化され、株主の持分譲渡自由がより一層図られる。

 また、新会社法では、株主が持分を譲渡する際には、会社に書面で通知し、株主名簿の変更や変更登記の手続きを請求することが規定されている。会社がこれを拒否し、または合理的な期限内に応答しない場合、譲渡者及び譲受人に救済を求める権利が与えられ、また、譲受人は株主名簿に記載されている時点から株主の権利を主張する権利が明確にされている(法86条)。

 さらに、新会社法は、出資不足の瑕疵がある持分譲渡に関する責任を規定し、すなわち、譲渡者及び譲受人は不足分の範囲内で連帯責任を負うべきとし、譲受人が瑕疵出資の状況を知らないか、知っているはずがない場合、責任は譲渡者にあると規定している(法88条2項)。

3. 会社の組織機構の変更

(1)監査委員会の新設

 現行の会社法では、会社の財務及び会計等に対する監督の権限は、監事又は監事会に付与されている。これに対して、新会社法は、監事又は監事会の代わりに、同様の監督権限を有する機関として、董事により構成される監査委員会を設置することを認めている(法69条)。

(2)株主会の権限

 新会社法では、株主会での決議事項のうち、経営方針と投資方針の決定及び年度財務予算案と決算案の審議が削除されている。この点については、会社の運営管理について、そもそも、株主会が責任を負うべきでないという観点や、経営方針と投資方針に関する実務上の不透明な点で疑義もあったところである。

(3)董事の辞任又は解任

 新会社法では、董事が自発的に辞任する場合、書面で会社に通知することが求められ、通知を受けた日から辞任が発効し(法70条3項)、法定代表者を務めている董事が辞任する場合は、同時に法定代表者を辞任したものとみなされる(法10条2項)。なお、法定代表者が辞任した場合、会社は新しい法定代表者を30日以内に決定する必要がある(法10条3項)。

 一方、董事の解任に関しては、新会社法は株主会が董事を解任できると規定し、その決議が採択された日に解任が発効する。正当な理由がないにもかかわらず、任期満了前に董事が解任された場合、当該董事は会社に対して賠償を請求することができる(法71条)。

4. 董事等の責任強化

(1)董事等の忠実及び勤勉義務

 新会社法は、董事、監事及び高級管理職  の忠実及び勤勉義務を詳しく定めた。具体的には、忠実義務とは、自身の利益と会社の利益との対立を避けるために対策を講じ、権限を利用して不当な利益を取得することを禁止するものであり(法180条1項)、勤勉義務とは、職務を遂行する際には会社の最大の利益のために、通常の合理的な注意を払わなければならないことを規定している(法180条2項)。

(2)利益相反取引の規制

 利益相反取引に関しては、新会社法は、従来の董事及び高級管理職の他に、新たに監事を規制対象とした。董事、監事及び高級管理職は利益相反取引について報告及び情報開示の義務を負うこととし(法182条1項)、当該義務は、董事、監事及び高級管理職の近親者、董事、監事及び高級管理職又はその近親者が直接又は間接的に支配する企業、ほかに董事、監事及び高級管理職と関連する者にも適用される(法182条2項)。

 また、新会社法は、①職務を利用して自分自身又は他の人のために会社のビジネス機会を奪うこと、➁董事会又は株主会に報告せず、董事会又は株主会の同意決議を得ずに、自己又は他者のために会社と同種の業務に従事することを禁止する対象として、董事及び高級管理職の他に、新たに監事を追加した(法183条、184条)。

(3)第三者に対する賠償責任

 董事及び高級管理職が職務の履行により他人に損害を与える場合、原則として会社が賠償責任を負うが、董事及び高級管理職に故意又は重大な過失がある場合、賠償責任を負うことが規定されている(法191条)。

(4)董事責任保険に関する規定の新設

 新会社法が董事の責任を強化する一方で、董事の責任保険の規定も導入している。すなわち、会社は董事の任期中に、董事が職務を履行する際に負う賠償責任に関して責任保険に付保することができる(法193条)。これまで中国では董事責任賠償保険はあまり活用されていなかったが、新会社法の施行により董事の責任が強化され、今後は責任保険も一般的に利用される保険になっていくものと思われる。

5. 支配株主等の忠実及び勤勉義務

 新会社法では、会社の支配株主又は実際的支配者が董事を務めていないが実際に会社の業務を執行している場合、董事、監事及び高級管理職と同様に忠実及び勤勉義務を負うと明確に規定され(法180条3項)、支配株主及び実際的支配者に対する規制が強化された。

 また、支配株主及び実際的支配者が、董事及び高級管理職に対して会社又は株主の利益を損なう行為を指示した場合、当該董事及び高級管理職と共に連帯責任を負うものとされている(法192条)。

6. まとめ

 以上のとおり、新会社法は、株主の出資責任の強化や会社の組織機構、持分譲渡条件の緩和、董事等の経営責任など、様々な領域での変更を行っている。新会社法の施行により、中国に進出している日系企業にも大きな影響があり、新会社法に合わせた対応が必要とされている。今後は新会社法に関連する規則の制定や法の施行後の実務に目を離さないこと  である。

以上


[1] 新会社法の中国語原文は以下のリンク先から参照されたい。
  http://www.npc.gov.cn/npc/c2/c30834/202312/t20231229_433999.html

[2] 高級管理職とは、会社の総経理、副総経理、財務担当者、上場会社董事会秘書及び会社の定款に定めたその他の者をいう(新会社法265条1号)。


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