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【24-02】時代の発展に対応した知識集約型産業分類体系の構築を

玄兆輝(中国科学技術発展戦略研究院研究員)、蒋仁愛(西安交通大学経済・金融学院教授)
2024年03月18日

 2022年に行われた中国共産党第20回全国代表大会は、報告で「現代化産業体系の建設」という戦略的計画を打ち出した。ハイテク産業や知識・技術集約型産業、知的財産権集約型産業などは、現代化産業体系において重要な位置を占めている。これら産業の分類基準を見ると、最初は経済協力開発機構(OECD)や欧州連合(EU)といった国際機関や、米国などの先進国が打ち出したものが中国に導入され、幅広く応用されるようになった。しかし、現代化管理体系の構築という現実的必要性を前にして、これら産業の分類基準はテクノロジー管理と実践・応用の面で「関連する概念が多すぎる」「混乱が起きやすい」「分類が重複している」「正確な政策を実施できない」といった問題が少しずつ起きており、中国の国情に合った知識集約型産業分類基準を制定し、新時代の発展ニーズにより良い形で対応することが急務となっている。

知識集約型産業の分類体系構築が必須

 中国には、知識集約型産業の概念と分類基準がまだ存在せず、関連する概念や基準はいずれも海外のものを採用している。うちハイテク産業は米国が最初に提起し、その後、OECDによって推進されたものである。1990年代半ばの時点で、その範囲は主に製造業に集中し、産業のR&D(研究開発)投資規模に基づいて判別されていた。その後、知識経済の誕生に伴い、米国は2010年にハイテク産業(製造業のみを指す)と知識集約型サービス業の2つを含む知識・技術集約型産業という概念を打ち出した。米国は2012年にも知的財産権集約型産業という概念を打ち出し、EUもその後、この分野の研究を始めた。これらの概念や基準の普及と応用は、中国のテクノロジー管理・実践において積極的な役割を果たしたが、同時に多くの問題ももたらしている。

 まず、関連する概念が多すぎるため、混乱が起きやすいという問題がある。中国国家統計局は2002年、OECDの分類基準を採用して「ハイテク産業統計分類目録」を制定した。また、国家知的財産権局などの機関は2014年、「国家知的財産権戦略を深く実施するための行動計画」を発表し、知的財産権集約型産業の発展を、国の知的財産権戦略の主要目標と強力な突破口として初めて打ち出した。現時点で、知識集約型サービス業や知識技術集約型産業の統計分類基準は公式には発表されていないものの、国や地方のテクノロジー計画においては、知識集約型サービス業の発展目標が既に掲げられている。加えて、多くの地方が、それぞれの必要性に合わせてハイテク産業概念を打ち出しているため、似たような概念が多くなり、テクノロジー管理業務においてお互いが混乱するという状況が時々起きている。

 次に、分類が重複しているため、正確な施策を制定できないという問題がある。ハイテク産業や知識技術集約型産業、知的財産権集約型産業はいずれも標準産業分類から派生した分類だ。その発展動向をモニタリングし、ターゲットを絞った発展戦略を打ち出すことが、こうした産業を識別する重要な目的となる。しかし実際には、こうした分類基準には、重複という問題が存在している。例えば「ハイテク産業(製造業)分類(2017)」を見ると、ハイテク産業には「医薬品製造」「電子・通信機器製造」「コンピューター・事務機器製造」「医療機器・設備」「器具・計器製造」の6つの分類が含まれている。一方、「知的財産権(特許)集約型産業統計分類(2019)」は、「特許集約型産業とは情報通信技術製造業、情報通信技術サービス業、医薬医療産業などを指す」と規定している。こうした分類は重複度が高く、ターゲットを絞った制度体系の構築と正確な施策の制定にとってマイナスとなる。

 三つ目として、関連する統計データの分析、使用が制限を受けるという問題がある。中国は毎年、「中国ハイテク産業統計年鑑」を発表しているものの、統計データの精度には向上の余地がある。例えば、産業付加価値額といった中核指標となるデータが発表されていないため、その種のデータを応用する際、世界銀行や米国科学基金会などの機関が提供している中国のデータをチェックしなければならない。こうしたデータは試算されているものが多い。米国などの国はこうしたデータに基づき、中国の知識技術密集産業の発展動向に関する認識・判断を形成している。それに対し、中国ではこれらの認識を速やかに把握することが比較的難しい。中国国家知識産権局と国家統計局が2022年末に共同で発表した「2021年全国特許集約型産業付加価値額データ公告」によると、中国の特許集約型産業の付加価値額は14兆3000億元(1元=約21円)だったが、他の知的財産権集約型産業は、権威ある定義が不十分で、データ発表メカニズムがまだ構築されていない。

関連する概念と分類の効果的な統合が必要

 こうした問題を解決するために、われわれはこれらの概念の内包的特徴やその分類基準から着手し、関連する概念と分類を効果的に統合する必要がある。概念をはっきりさせ、基準を明確にしてはじめて正確な施策を制定し、力を合わせて中国の現代化産業体系構築をサポートすることができる。

 第一に、「投入側」と「産出側」を融合する管理メカニズムを構築する。OECDや米国が打ち出しているハイテク産業と知識技術集約型産業の分類基準はいずれもイノベーションチェーンの「投入側」基準に属している。すなわち、細分化された産業のR&D投資の規模を試算することで、産業の平均水準を大きく上回る細分化産業を一つの産業タイプに分類する。一方、米国とEUが打ち出している知的財産権集約型産業は、イノベーションチェーンの「産出側」基準に属している。つまり、人口1人当たりの特許保有件数といった指標を試算し、業界の平均水準を大きく上回る細分化産業を一つに分類する。こうすると、説明が似通っている概念があまりに多くなったり、細分化された産業分類が重複するという問題が必然的に起きることになる。また、その他のタイプの分類基準が打ち出されると、このような問題はますます深刻化していくことになる。この問題を完全に解決するためには、「投入側」と「産出側」を切り離す思考パターンを捨てるべきで、ハイテク産業や知識技術集約型産業、知的財産権集約型産業などを「知識集約型産業」に融合することを提案する。

 第二に、国情に合った知識集約型産業分類基準を構築する。長期にわたり、「国際基準を参考にする」というのが一般的な思考パターンとなっていた。中国の産業規模が急拡大したことに伴い、他国の経験が中国の国情に合わなくなってきている。「投入側」と「産出側」を融合し、中国の国情に合った知識集約型産業分類基準を制定し、中国での実践指導に用いることが当面の急務になっている。この問題の総合性と複雑さを考えれば、国のテクノロジー管理機関が筆頭になって関係部門と連携し、テーマ別の研究を実施する必要がある。活動メカニズムの面では、指導グループ、活動グループ、データグループ、研究グループを立ち上げることを提案する。指導グループの指導、活動グループやデータグループの支援の下、研究グループが国民経済業界分類の4桁コード小分類を基準として、過去の研究開発費や知的財産権、売上高、従事者といった関連指標、データに基づいて試算を行い、研究開発投資の規模(投入側)、または知的財産権の密度(産出側)が評定基準を上回っている場合、知識集約型産業に分類することができる。

 第三として、知識集約型産業が急発展できる政策的環境を構築する。中国の産業発展の国情に合った分類基準は、関連産業の発展に対する指導を強化するための重要な基礎で、正確な施策を制定するための重要な拠り所となる。ただ、分類基準を制定してからも、関連政策の整備という問題を解決する必要がある。現在、知識集約型産業の発展を促進する関連政策には、「体系的でない」「不十分」「実施が難しい」という現実的な問題が存在している。そのため、関連政策制定の健全化と統合の最適化を強化し、具体的な産業発展の特徴に基づいて分類し、施策を制定することを提案する。知識集約型産業においては、研究開発投資の規模が大きいが、知的財産権をあまり生み出していない産業に対して、一つでも多くの知的財産権を取得するよう奨励し、一方で、知的財産権を数多く生み出しているが研究開発投資の規模が小さい産業には、イノベーション投資を強化するよう働きかけることで、知識集約型産業がより競争力を持つよう促進していく。


※本稿は、科技日報「建立适应时代发展的知识密集型产业分类体系」(2024年2月5日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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