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【24-08】最高人民法院知財裁判所、「新たな質の生産力」発展の後ろ盾に

代小佩(科技日報記者) 劉沛冉(科技日報実習生) 2024年08月15日

 中国の最高人民法院(最高裁)がこのほど開催した知的財産権の司法保護強化に関する専門家懇談会で、同院副院長の陶凱元氏は「ハイテク成果と新業態・新モデルの保護を強化し、技術の革命的なブレイクスルーと産業のトランスフォーメーション・高度化をさらに推進すべきだ」と述べ、「科学研究者の権益保護を確実に強化し、イノベーション創造の活力を効果的に引き出すとともに、公平な競争秩序を維持し、生産要素の革新的配置を力強く推進しなければならない」と訴えた。

 最高人民法院の知的財産権法庭(裁判所)は2019年1月1日に設立された。今年6月26日時点で、同法庭の受理案件は計2万件以上に達し、うち戦略的新興産業関連の案件が3割以上を占めている。同法庭の郃中林副庭長によると、テクノロジーイノベーションの保証や「新たな質の生産力」発展支援の面で、一連の進展を遂げているという。

 知的財産権法庭は、証明責任軽減や罰金刑の判決強化、懲罰的賠償の積極的な適用などの措置を通じて保護を強化するとともに、知的財産権をさらに全面的に保護するための一連の措置を打ち出し、イノベーション創造の活力を引き出している。例えば、「新エネ車のシャシー」に関する技術の秘密侵害事件を見ると、法庭は懲罰的な倍額賠償を適用して計6億4000万元(1元=約20円)以上の罰金刑を言い渡した。また、侵害を停止させる必要がある場合、民事責任を負う具体的な方法や内容、範囲などの面で画期的な模索を行っている。

 同法庭はまた、オリジナルの創造力と実際の生産力のウィンウィンを推進している。技術関連の案件は、いずれも非常に高い産業応用性と市場価値を有している。権利を侵害したと訴えられた被告も、関連技術を切実に必要としている。もし、被告に侵害をやめさせ、賠償金を払わせる判决を安易に下したなら、知的財産権の保護こそ確保できるが、生産力の保持という面で課題が残る。そのような背景の下、知的財産権法庭は、ライセンサーと侵害者が権利侵害の損害賠償と使用許可を組み合わせた包括的な和解をするよう取り組んでいる。

 司法の場が新たな質の生産力の後ろ盾になるためには、市場の法則に従うことが重要な一つの原則となる。

 第14回全国人民代表大会の代表で、最高人民法院第4期特約監督員の馬一徳氏は、「適度に保護し、一体化して実施することで、知的財産権保護に対する安定した期待を生み出すことが必要だ」と述べ、「新たな質の生産力の発展が根本的に求めているのは、イノベーション主体としての企業の地位を尊重することだ。特に新たなテクノロジー革命に直面し、司法は市場が自発的に調整を行う過程を尊重しなければならず、機械的に法を適用することは避けなければならない」と指摘した。

 そして、「紛争の実質的な解決と業界競争者の協力・ウィンウィンを推進する必要がある。人民法院は法に基づいて裁判を行う過程において、産業界との連携・協議を強化し、中国国内の産業発展に関する政策の方向性を明確にし、産業の協同イノベーション、協力・ウィンウィンを推進する必要がある」と見解を述べた。

 第14回全国政治協商会議委員の滕樹静氏は「テクノロジーイノベーション主体としての民間企業の地位を明確にする必要がある」と指摘し、イノベーション成果が効果的に保護されるよう、民間企業を知的財産権保護の重点対象にするべきだと提案した。

 北京大学国際知的財産権研究センターの主任を務める易継明教授は「イノベーション要素を育成し、発展させ、テクノロジー成果を実際の生産力に転化し、包摂的で慎重な監督・管理理念を堅持し、新技術、新モデル、新業態、新分野の成長を後押しする必要がある」と強調した。

 裁判のメカニズム整備も新たな質の生産力発展促進につながる。懇談会に参加した複数の学者は、国家知的財産権法院の設立を加速させ、専門的な知的財産権裁判体系の構築を全面的に推進するよう呼び掛けた。

 1億元以上の罰金刑が下された案件や、独占行為があったと認定される案件が近年、増え続けている。これに対して易氏は「知的財産権の損害賠償規則をさらに細分化し、懲罰的賠償を理性的に適用しなければならない」と提起した。

 このほか、専門家らは、法律規定の明確性、適用性、実行可能性を保証するために、テクノロジーの発展に対応していない法律規定を速やかに改正し、技術秘密の保護水準を全面的に高める必要があるとの見方を示した。


※本稿は、科技日報「最高人民法院知识产权法庭:司法护航新质生产力发展」(2024年7月5日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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