【09-013】大連理工大学金属材料学部日本語強化クラスについて
譚毅(Tan Yi):大連理工大学材料科学与工程学院・教授、
大連理工大学エネルギー研究院副院長
1961(昭和36)年中国遼寧省生まれ。1983年大連理工大学(当時大連工学院)機械工程系金属材料専攻卒。大連理工大学材料系修士課程を経て1993年東京工業大学工学博士号取得ニューエネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究員、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)研究員を経て2005年から現職。専攻はニューエネルギー材料、材料科学と技術。著書として《新材料概论》中国冶金工業出版社(2004)共著、《ニューエネルギー材料および応用技術》,清華大学出版社(2005)共著、《石油化学装置寿命予測と時効分析工程実例》化学工程出版社(2007)共著。
大連理工大学金属材料学部日本語強化クラスは、本学の材料学院が東京工業大学金属学科からのご協力をいただいて設立したものである。このコースは、2007年に中国教育委員会の許可を得て、同年の8月に第1期目の学生を迎えてきたが、2009年10月現在、すでに3期目、計90名の学生を迎えてきている。
日本語強化クラスのコースデザインは、両学の間に意見交換を繰り返した上に本学の金属材料専攻コースのカリキュラムに基づき、東工大材料科学のそれを参考しながらオリジナルのものを作った。
強化クラスは、通常の4年間コースから5年間コースに延ばした。新入生の第一外国語は英語である。日本語はほぼゼロからのスタートである。
最初の3年間は通常の基礎科目の勉強、英語学習のほかに、日本語の強化トレーニングを行う。第4年目と第5年目は専門知識の教育、2ヶ月半の卒論、及び企業研修を行う。学生は卒業する際、英語が中国国家教育委員会規定の英検4級(大体古いTOEFLの520点相当)以上、日本語が日本語能力試験1級に達し、工学学士学位を獲得するのを目標とする。
強化クラスは、金属材料の専門知識をベースに、毎年一クラスに30名の学生を募集する。大学入試の成績は、本学の採用基準点数より20%を上回り、材料学院における普通クラスの平均点数より約20点高くなっている。本コースはとくに英文能力を重視し、それを総合能力として高く評価する。学生の出身は、遼寧省、山東省、吉林省などの十数省であり、男女比も適切である。
本学は、この強化クラスを設立するために、専用資金を調達してきた。材料学院は、水流奨学金、富崗奨学金などを設立した。日本留学経験のある先生に担任教員になってもらっている。更に、東工大と学生訪問などの合意書を結び、連携して教育を行っている。今後合意書に基づき、毎年、卒業生から2名を選んで東工大の大学院に進学させる予定である。
金属材料日本語強化クラスは、国際的な視野と志および材料科学の専門知識を持たせるような人材を育成することを目標としている。学生たちは、日本語と専門知識を勉強するだけでなく、異文化を理解する能力、研究能力、材料科学最先端の知識なども幅広く勉強しなければならない。日本語を勉強すると同時に、異文化コミュニケーションの能力を身に付け、基礎知識とR&D能力をしっかりと蓄積し、将来、材料学科分野における国際人が備えるべき能力と知識を持たなければならない。
第1期の日本語強化クラスである材料学院0707班は、入学3年以来、知識の勉強、キャンパス生活および社会活動などの諸方面にわたり、良い実績を取ってきた。クラスの皆は、懸命に勉強するほかに、積極的にキャンパス内外の日本文化活動に参加し、課外生活も多彩で大学および材料学院より高く評価されている。2008年には、大連理工大学優秀クラス、および大連市優秀クラスを受賞した。
日本語強化クラスは、日本語の勉強と中日交流を重視し、日本人訪問者の講演・講義を積極的に聴講し、日本への渡航・短期留学などにも参加している。また、積極的に大連地域の日系企業へ企業訪問・研修などを行ったおかげで、今現在、日常会話および普段の日本語での交流が自由にできるようになっている。
幅広い国際交流活動
東京工業大学―大連理工大学の
日本語強化クラス合作覚書調印式
日本語強化クラスの教育を推進するため、大学と材料学院はいろいろの機会を設けて、日本と幅広い協力を行った。互いに何度も訪問し合い、連携して学生の養成方法を決めてきた。材料学院の譚毅教授は、2008年3月、大阪大学で開催された第10回専門日本語教育学会研究討論会に参加し、日本語強化クラスの養成目標、カリキュラムおよび大概の状況を初めて日本で紹介させていただいた。出席された日本の大学や企業の方々の関心を引いた。何かお手伝いできることがあれば教えて下さいという好意もいっぱい頂いたのである。
2008年3月、東京工業大学材料科学専攻長である水流澈教授、金属工学科学科長丸山俊夫教授、史蹟准教授の3名は本学に来訪された。双方が人材育成、科学研究、国際交流などについて、十分に意見を交換した上で、材料学院院長の張興国教授と協力覚書に調印した。本学の盧中昌副校長、朱泓教務処長は調印式に参加し、東京工業大学と大連理工大学の両校が共同してこの日本語強化クラスを推進することになった。
大倉一郎副学長(左4)、郭東明副学長(左5)
ほかの皆さん 東工大にて
東京工業大学材料科学先生たちと
大連理工大学訪問者の記念写真
2008年11月4日に、大連理工大学郭東明副学長、材料学院張興国院長および国際交流処の方々と一緒に、東京工業大学を訪問し、材料科学専攻の先生たちと歓談した後に、東工大大倉一郎副学長と国際交流、特に日本語強化クラスの協力などについて合意した。
2008年12月8日から13日までの間、本学教務処副処長張維平教授、材料学院副院長周文龍教授など6名と学生5名からなる訪日代表団は、東工大の招待で、日本を訪問した。シンポジウムを開催して、日本語強化クラスのカリキュラムなども討論した。また、日本物質・材料研究機構(NIMS)、東日本製鉄所(JFE)などを見学した。
2009年4月、東京工業大学材料科学の水流教授と竹山準教授は大連理工大学の海天学者(教育類)に当選され、毎年、日本語強化クラスで全2週間の集中講義を行うことになった。日本語強化クラスのカリキュラムに、日本人教師より5単位の専門知識を教えることを明記し、東京工業大学を窓口として、毎学期、日本から専門知識を教える先生を派遣し、日本語で講義を行うことに決めた。また、東京工業大学は日本語強化クラスの学生たちを将来の日本留学や進学のため、毎年2名の学費免除を提供することになった。
高い日本語勉強の意欲
第1回日本語知識コンテスト
日本語強化クラスの学生は日本語の勉強を非常に重視している。大学に入学した際、日本語の知識がほぼゼロであったが、2年間の勉強を経て、全員、日本語能力試験の2級レベルに達した。日本語能力を高めるために、材料学院は外国語学院と一緒にさまざまな日本語交流活動を展開し、また、本学の国際交流処と力をあわせて日本への留学・研修・訪問ができるように努力し実行してきた。
2007年12月、教務処主催で、材料学院、外国語学院、機械工程学院が連携して第1回日本語知識コンテストを開催した。単語クイズ、総合知識クイズ、ニュースクイズ、有名人、歴史人物クイズなどのクイズを通じて日本に関する知識を楽しみながら学んできた。0707班は最優秀賞を獲得した。上図は、0707班の皆さんが担任の譚毅教授とコンテストの直後に取った写真である。
0707班の学生たちと東京工業大学
からご来訪の先生方との写真
九州工業大学荻原益夫教授講演の風景
大学は時々日本の大学からの訪問者を迎える。日本強化クラスの学生諸君は積極的に講演や公開講座を聞いたり、座談会を開いたり色々な形で日本語を勉強する機会を活用する。この2年間にわたり、東京工業大学水流徹教授、丸山俊夫教授、史蹟准教授、超高温材料研究所田中良平教授、九州工業大学荻原益夫教授、東北大学金属材料研究所中嶋一雄教授など、多数の日本の先生の講演を聴いた。日本語を勉強すると同時に、金属材料分野の最前線の知識も理解して、視野が広げられている。
本学の国際交流処と材料学院は、さまざまなチャンスを作って、優秀な学生を日本へ留学させたり見学させたりして、本場の日本語を勉強し、日本文化を体験することを通じて日本語および専門知識の学習意欲を高めた。
新日本製鉄にて見学
日本語強化クラスの学生らの
東京工業大学への表敬訪問写真
2008年12月、日本語強化クラスの学生2名は東京工業大学の招待により5日間の短期交流のため日本に渡った。彼らは1年間の大学生活やクラスメートの状況などを日本語で東京工業大学金属工学科の先生や学生に報告し、沢山の関心が寄せられた。訪問期間中、日本の企業、国立研究所、街の様子、和食文化なども見学した。時間は短かったが、収穫は非常に大きかった。帰国後、クラス全員に訪問の状況を報告した。このおかげで、学生諸君の勉強意欲が向上し、留学に対する関心がさらに強くなった。
2009年、日本語強化クラスの学生が一人選ばれ、9月から金沢大学へ1年間交流留学をすることになった。ほかに日本の大学へは、いくつかの短期留学コースを検討している。また、日本語強化クラスの皆さんは、積極的に大連地域の日系企業とコンタクトし、企業訪問・研修などを行い、授業外の時間を利用し、自分の日本語能力を高めるよう努力している。
懸命な知識の習得
日本語強化クラスの学生は日本語を勉強すると同時に、英語と材料学専門知識も勉強しなければならない。このクラスの特徴は学習能力と言葉の基礎能力が高いことである。また、学習意欲とチャレンジ精神も強い。0707班を例にとると、2007年12月の1回目の中国大学生4級英語能力試験で、普通のクラスは85%しかパスしなかったが、強化クラスは95%に達した。ちなみに通過できなかったのは1人しかいなかった。
課外活動をしている強化クラスの
学生と先生との写真
大学1年目に、日本語強化クラスの学生は大学の数学と線形代数学などの数学基礎科目を勉強する。二年目には大学物理と物理化学などの専門基礎科目を勉強する。三年目に専門科目の授業が始まる、四年目に専門科目の更なる知識を勉強する。ほかにまだ10数単位の物理実験、技術訓練、認識実習などの授業を受けなければならない。第五年目には2ヶ月半の卒業論文を完成するため、集中的に材料専門知識応用という知識を勉強する。日本語強化クラスの授業科目数と単位数は多くてプレッシャーが大きいわけであるが、にもかかわらず、学生は強い学習意欲と興味を持ちつづけている。この数年来、クラスの平均成績は材料学院でずっとにトップになっている。50%の学生が奨学生になっている。
日本語強化クラス担任は譚毅教授である。譚先生はクラス学生の勉強振りを非常に重視し、よく教室と寮で学生と学習方法などを検討しあう。自分の経験を語り、学生が日本語書籍を読書する習慣を身につけるように勧めたり、日本語の資料を翻訳するように指導したりする。
材料学部主催の外国語の夕べ
専門知識を勉強するほかに強化クラスの学生はまた積極的に大学主催のさまざまな課外活動に参加しているし、いい成績を取ってきた。専門科目を勉強するほかに科学研究に強い興味を示した学生もいる。大学生トレーニングプランに参加したり研究室に入って、研究意識や感覚を磨いたりしている。
日本語強化クラスの学生は自分の勉強意欲を高めるためにさまざまな学習活動に参加している。2008年と2009年の二度、本学外国語主催の「日本語の夕べ」に参加し、日本語の歌を合唱したり日本語の時代劇を演じたりした。流暢な日本語で先生に褒められたほどである。また何度も日本語のスピーチコンテスト、日本語単語コンテスト、数学のモデルを作るコンテストなどに参加した。多種多様の活動の中で日本語がどんどん上達してきたわけである。
毎年、三年生から優秀な学生を一人選んで、新入生の指導員を担当させることにしている。新入生が良い習得をし、一日も早く大学生活に慣れるためである。強化クラスの学生は積極的に新入生を指導し、良好な学習習慣の養成、早期の個々人の目標の確立など一生懸命やってきた。
多彩な課外活動
元旦にお寿司を作る学生
街でオリンピック精神を宣伝
材料学院の日本語強化クラスの学生は良い雰囲気とチームワークを養うために、勉強する時間以外にさまざまな課外活動を展開している。
毎年、日本語強化クラスは材料学院の長距離競走に参加する。クラスの栄誉のために全員を動員し、代表選手を応援する。0707班は2年連続でトップを獲得した。
日本に親しむ文化活動現場
またクラス委員会がクラスメートを説得して大学学生会主催の課外活動に参加させる。孤児院に行って、子供を慰めたり、町でオリンピック精神を宣伝したりした。ほかにもクラスの中でもさまざまな楽しい活動を展開した。中秋節に海辺でバーベキューをしたり、元旦に日本人学生から寿司の作る方を教えてもらったりした。それに大学主催の日本に親しむ文化活動にも参加した。これらの活動はクラスメート同士の友情を深め、大学生活を豊かにした。
日本語強化クラスを設立してまだ3年しか経っていないが、大学から高く評価されたばかりでなく日本の大学および日本(日系)企業にも高い関心を引いてきた。金属材料日本語強化クラスコースデザインに関する研究論文も5篇ほど、中国と日本の研究雑誌で発表した。同時に本コースは大連理工大学の国際化教育改革の先端として評価され、遼寧省および本学の教育改革名目の一等賞、中国の教育教学改革賞の二等賞を獲得した。2009年入学の学生は高い志を抱いて、胸いっぱい新しい勉強に励み、材料日本語強化クラスの明るい未来に向かって頑張っている。