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【09-016】中国華東地域と東北地域の連携強化に向けて

西山 英作

西山 英作(にしやま・えいさく):社団法人東北経済連合会[1]
産業経済グループ部長・東経連事業化センター副センター長

 1966年3月生まれ。2004年3月 東北大学大学院経済学研究科卒。経営学博士。
東経連事業化センター副センター長として、大学発ベンチャーや中堅企業の新規事業の事業化に向けて、マーケティング、知的財産、セールス等の支援を実務の最前線で取り組む。現在、成長する中国との連携に向けた戦略の検討に着手。

1. はじめに

 社団法人東北経済連合会では、本年11月7日から11月12日の5泊6日の日程で中国華東地域(無錫市、上海市)に視察団を派遣した。団員は製造業の企業経営者を中心に産学官31名から構成される。一般に中国とのビジネスは、契約等の考え方の違いから取引リスクが高いと考え、躊躇する日本企業は少なくない。米国市場が低迷する中、いぜん成長を続ける中国の中心地とも言える中国華東地域の訪問を通じ、東北地域の中堅中小製造業が中国の企業とのビジネスチャンスを模索し、両地域のネットワークを強化することが視察団の目的である。

 本視察団では、11社の企業訪問に並行して無錫市人民政府幹部との面談を行い、視察団派遣終了後にSWOT分析[2]をベースとしたアンケートを実施した。これらをベースに本稿では、中国華東地域の強み、弱み、機会、脅威、東北地域のSWOTを論じた上で如何に東北地域が中国華東地域と連携すべきかを検討する。

2. 中国華東地域のSWOTを考える

 中国華東地域の強みとして、「成長する巨大都市へのアクセス」「豊富な労働力、広大な土地に支え得た量産機能」「高質なマーケット(富裕層等)へのアクセス」があげられた。弱みには「取引リスク(契約、法律等)」「ブランド力」「マーケティング・販売力」「付加価値の高さ」「製造ノウハウの蓄積」があげられた。

 また、機会として「先進国との技術提携」「海外からの投資促進」「成長するアジア市場」「優秀な人材の確保」、脅威には「民族紛争の激化」「国内企業間の競争の激化」「米国マーケットの落ち込み」「金融等不良債権問題の顕在化」があげられた。

中国華東地域のSWOT(現状)
◇強み
・成長する巨大都市へのアクセス
・豊富な労働力、広大な土地に支え得た量産機能
・高質なマーケット(富裕層等)へのアクセス
◇弱み
・取引リスク(契約、法律等)
・ブランド力
・マーケティング・販売力
・付加価値の高さ
・製造ノウハウの蓄積
◇機会
・先進国との技術提携
・海外からの投資促進
・成長するアジア市場
・優秀な人材の確保
◇脅威
・民族紛争の激化
・国内企業間の競争の激化
・米国マーケットの落ち込み
・金融等不良債権問題の顕在化
注)アンケート結果で10票を越えた事項のみ記載

 以上から中国華東地域に対する印象として、巨大市場と量産機能の強みを活かし、先進国との技術提携により競争力を強化している印象が強かったことが伺われる。

 こうした無錫市の躍進ぶりに団員からは「今の中国は、まるで日本の明治政府がおし進めた富国強兵のように、次々と官営工場を作り、民間に払い下げていくという感じを受けた」(企業経営者[青森県])、「今回視察した華東地域の工場は日本以上の規模になり、私の視点では雲の上の存在になった感じを受けた」(企業経営者[岩手県])、「米国風の大都市や欧州の1千万人前後の国が中国という大地に次から次へと新たに生まれつつある」(柴田孝山形大学教授)等、数多くの驚きの声が寄せられた。

3. 東北地域のSWOTを考える

 東北地域の現状の強みとしては、「職人的な技術ノウハウ(すり合わせ)の蓄積」「ブランド力(質の高さ、安全安心)」「人をベースとした信頼のネットワーク」があげられた。弱みには、「マーケティング・販売力」「市場の縮小(少子化)」「土地、労働力の高さ」「独自の商品開発力」があげられた。

 機会には「成長するアジア市場」「海外の量産機能の活用」「アジアとの人的ネットワークの萌芽」「優秀な人材の確保」、脅威には「米国マーケットの落ち込み」「国内企業間の競争の激化」「金融等不良債権問題の顕在化」があげられた。

東北地域のSWOT(現状)
◇強み
・職人的な技術ノウハウ(すりあわせ等)の蓄積
・ブランド力(質の高さ、安全安心を含めた)
・人をベースとした信頼のネットワーク
◇弱み
・マーケティング・販売力
・市場の縮小(少子化)
・土地、労働力の高さ
・独自の商品開発力
◇機会
・成長するアジア市場
・海外の量産機能の活用
・アジアとの人的ネットワークの萌芽
・優秀な人材の確保
◇脅威
・米国マーケットの落ち込み
・国内企業間の競争の激化
・金融等不良債権問題の顕在化
注)アンケート結果で10票を越えた事項のみ記載

 以上から東北地域の現状として、「職人的な技術ノウハウの蓄積を生かし、成長するアジア市長をビジネスチャンスに捉えるべき」との印象が強かったことが伺われる。

 次に将来の東北地域について尋ねたところ、強みは「大学との連携による新技術の創出」「環境・省エネ関連技術の蓄積」「人をベースにした信頼のネットワーク」「ブランド力(質の高さ、安全安心を含めた)」等があげられ、現状でトップだった職人的な技術ノウハウの蓄積は9票にとどまり、10票には届かず、表に掲載することができなかった。弱みに「独自の商品開発力」「マーケティング・販売力」が、市場化戦略を克服すべき課題ととらえている。機会は成長するアジア市場等、脅威に国内企業間の競争の激化がトップとなり米国マーケットの落ち込みは順位を下げ、米国マーケット依存の弱まりを予見させる。

東北地域のSWOT(将来)
◇強み
・大学との連携による新技術の創出
・環境・省エネ関連技術の蓄積
・人をベースにした信頼のネットワーク
・ブランド力(質の高さ、安全安心を含めた)
◇弱み(※克服すべき)
・独自の商品開発力
・マーケティング・販売力
◇機会
・成長するアジア市場
・アジアとの人的ネットワークの萌芽
・海外の量産機能の活用
・優秀な人材の確保
◇脅威
・国内企業間の競争の激化
・他ブロックが連携の動きを加速
・米国マーケットの落ち込み
注)アンケート結果で10票を越えた事項のみ記載

 このように東北地域の将来の強みとすべきものとして、現状のすり合わせ技術ではなく、大学との連携による新技術の創出をベースに成長するアジア市場に進出すべきとの印象が強かったことが伺われる。一方では、「なかなか真似できない部品加工をコアに連携すべき」(企業経営者[新潟県])とし、すり合わせ技術に活路を見出すべきとの強い意見もあった。

 「量産では中国のスケールにはかなわない。日本は科学技術にフォーカスして真の産学連携で取り組むべき」(遠藤芳雄東経連専務理事)や、「中国との連携は、『確かな技術』に加え、『ビジネスモデルの確立』そして『知的財産で守る』という3要素が必要」(大滝精一東北大学教授)との指摘があった。

 ほかにも「東北地域の企業は生産管理や工場内のマネジメントで優れている。この点は中国の中堅企業も非常に関心があるところ。これをテコに連携を図るべき」(大滝精一東北大学教授)、「東北の真面目な性格は、日本の他の地域に比べても信頼が厚い」(鈴木耐三東経連事業化センター事業化コーディネーター)といった指摘もあり、従来から指摘される東北の特徴も十分に強みとして活かせる可能性も示唆された。

4. 中国華東地域との連携に向けて

 取引リスクとして「契約の考え方の違い」「技術のコピー」「法律の変更」「企業の与信把握」があげられた。取引リスクの克服のための方策としては「公的機関や支援機関との連携」「支援機関間の信頼関係の強化」「法律の重視、契約の徹底」「政府間の取引の枠組みの詰め」があげられた。

 中国との商慣習の違いの溝を埋めるには、中国と東北地域の支援機関間同士がまず信頼関係を構築する等のベースを作ることが前提になることが伺われた。

  団員によると、「今回のミッションをきっかけにして、東経連等の経済団体・支援機関が日本、中国の政府・企業と連携をより深め、企業単独で突破しにくい部分の支援を頂けると、今後の連携の形もみえてくるのではないか」(企業経営者[宮城県])との声があった。

取引リスクとその克服方策
取引リスク 克服方策
・契約の考え方の違い
・技術のコピー
・法律の変更
・企業の与信把握
・公的機関や支援機関との連携
・支援機関間の信頼関係の強化
・法律の重視、契約の徹底
・政府間の取引の枠組みの詰

 以上をまとめると、団員によると、中国華東地域は巨大市場と量産機能の強みを活かし、先進国との技術提携により競争力を強化しており、東北地域は将来、大学との連携による新技術の創出をベースに成長するアジア市場に進出すべきと捉えている。両地域がwin-winの関係構築を図り連携を強化するには、東北地域で持続的な技術開発に取り組み、中国華東地域に対して戦略的な技術移転を行っていく必要があるとの問題意識が読み取れる。

 中国ビジネスに関する課題として常に議論されるのが取引リスクである。克服のための方策として、公的機関や支援機関との連携があげられた。取引コストを下げるためにも、東経連は地方政府(無錫市等)との信頼関係を醸成の上、連携を強化する必要があることが伺われる。

 本視察団では、ソニー電子(無錫)有限公司の初代総経理である鈴木耐三東経連事業化センター事業化センターの総合コーディネートで実施した。誌面では伝えきれない無錫市人民政府幹部との厚い信頼関係がベースとなり「熱烈歓迎」を受けた。視察終了後、既に複数の商談も始まっており、両地域のネットワークの萌芽がしつつある。米国テキサス州オースティンの産業集積形成発展について、インフルエンサー[3]というコンセプトがある。グローバル化の進展の中、国内マーケットだけでは成長の限界があり、国際的なインフルエンサーの存在が今後、重要になると感じた。

 東北経済連合会としても連携に向けた戦略検討を進めるとともに、東経連事業化センター[4]は、中国とのビジネスをサポートするための専門家のネットワークを拡充して参りたい。


[1] 東北地域に本社または活動拠点を持つ主要企業・団体を会員とする社団法人。略称は東経連(とうけいれん)。同法人が「東北地域」という場合は、青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島・新潟の7県である。

[2] 目標を達成するために意思決定を必要としている組織や個人の、プロジェクトやベンチャービジネスなどにおける、強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) を評価するのに用いられる戦略計画ツールの一つ。

[3] 地域の産学官のつながりと政策決定実施に大きな影響を与える人物。

[4] 「マーケティングイニシャチブで新技術、新市場へ」をモットーに、中堅中小ベンチャー企業の新規事業に対する、マーケティング、セールス、知的財産、産学官連携の支援を実施する東経連のプロジェクト。