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【17-005】ゴーストタウンのモデルと言われたオルドスのその後(その2)

2017年 7月28日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

その1よりつづき)

今もオルドスは一人平均GDPで中国一の都市

 最近の康巴什新区の状況を論じる前に、オルドス経済の概況を述べる。

 高成長が終わり、固定資産投資が減少してオルドスの地区生産総額(GDP)の伸び率は大きく低下した。だが、一人平均可処分所得も一人平均GDPも2012年より増加し、今も一人平均GDPでオルドスは中国一の都市である。

図1
図2
図3
図4

 2015年のオルドスの社会消費品小売総額は2010年の1.77倍、市街区のそれは1.89倍である。2015年の100家庭(農村も含む)当たりの自動車保有数は61台、携帯電話は232台で全国平均よりかなり高い。同年の中国都市家庭100戸当たりの自動車保有数は30台、上海は26台である。筆者がオルドスを訪れた時も農家の庭に乗用車が駐車されている光景が印象的だった。オルドスへの旅行者数は2015年に868万人で、2013年の651万人から1.33倍の増加で、旅行総収入は1.68倍に増加している。

図5

 淘宝や京東、蘇寧などの電子商取引企業も農村地域のサービスや物流施設の充実に力を入れ、インターネット契約戸数は2013年度13.5万戸から2015年に24.3万戸に増加している。今もオルドスの所得や消費の大きな減少は見られない。

ピーク時に戻りつつある康巴什新区の住宅価格

 次に最近の康巴什新区の状況について述べる。

 新区の建設資金の多くが市の開発会社など、融資平台の借金である。

 2012年の全国の地方政府債務残高は地方政府年間予算収入の311%である。オルドスの2012年の予算収入は800億元ほどで、平均的債務とすれば約2,500万元である。

 債務の詳細は不明だが、民営企業からの借金、炭鉱開発許可証交付と引き換えに投資を募るなどの対応と返済条件の見直し、借換えで現在は深刻な時期は過ぎたと思える。

 政府は、古い市街の老住宅(棚戸)改造をゴーストタウン(鬼城)対策として進めた。老住宅の立ち退き補償で新住宅購入を促進している。

 裁判の進展で銀行や不動産業の不良債権処理、在庫処分も進み出している。

 大手の住宅では、在庫の90%を減らして入居率が80%になった団地もあり、筆者も駐車場の自動車数や洗濯物、カーテンで入居の進展を感じた。

 2010年の建設時は8,500元(㎡)であった住宅価格が2011年に9,000元まで上昇したものの、その後5,000元まで下がったが、現在では8,500元から9,000元に戻っている団地もあるようだ。次のグラフは統計の住宅販売面積と売上合計から計算した1㎡当たりの販売単価の推移である。統計でも下落前の水準に戻りつつあることがわかる。

図6

 オルドスの人口も増加している。2004年の常住人口は154.49万人、2015年は204.51万人で32.4%の増加。その間の中国の人口増加率は5.8%であり、上海の増加率は31.6%である。市中心の東勝区の人口は2005年の43万人から2014年は61万人に41.9%増加した。60万都市は日本では船橋市や鹿児島市である。市の小学生数も2005年の96,361人から2015年に123,155人に増えている。2015年末の康巴什新区の人口は15.3万人になった。

 オルドスには「旗」(県の内モンゴルの呼称)がある。康巴什新区は伊金霍洛旗に接している。2015年の東勝区の就業人口は83,387人、伊金霍洛旗は53,374人で、伊金霍洛旗の年平均賃金は82,204元で東勝区より高い。

 伊金霍洛旗市街にはホテルや飲食業も増え、人口は2005年の17万人から2014年は24万人に増加している。伊金霍洛旗市街地の拡大が新区にも影響していくと思われる。

図7

 だが商業不動産は住宅より厳しい状況にある。多くの投資がオルドスから引き揚げ、産業構造の転換や新たな投資も途上である。

 産業構造の転換には投資環境、インフラ整備、技術者の定着と育成、資材加工と調達、物流の産業バリューチェーンの充実などの課題が残る。いくつかの工業団地もまだ寂しい状況が続いている。それが活発に動いてこそオフィスや店舗需要が増える。

 商業不動産が動くまでは、しばらく時間はかかる。だがゴーストタウンのモデルと叫ばれた時からこれまでの変化を見ると、康巴什新区は道路、公園、施設、環境などが整備されてきており、さらに人口が増えれば中国有数の美観都市になる可能性も見える。

康巴什新区建設が“先見の明”と評される日が来る

 オルドス経済は石炭や天然ガス、鉱物資源と冶金、鉄鋼、PVCの化学工業の素材と資源に依存してきた。資源が経済を支えた一方で、一般製造業や電子産業、高技術産業の育成は遅れた。その必要がなかったのかも知れない。

 2012年のオルドス市の産業別就業人口は製造業の3.6万人に対し、採鉱業従事者は5.57万人で就業者全体の29.9%を占めている。鉱物資源とエネルギー消費依存の経済は、経済成長や資源相場の影響を受けやすい。オルドスに隣接する阿拉善盟の謄格里砂漠の工業団地では石炭化工工場の深刻な排水汚染も起きている。地球環境問題で石炭エネルギーへの依存度も今後低下する一方である。

 将来を考えた場合、不安定な石炭依存経済からの転換は重要な課題である。現に2012年からの石炭不況はオルドスの経済に打撃を与えた。2013年のオルドスの経済成長率は5.4%で、それまでの5年間の平均成長率25.9%から大きく低下した。

 しかし、経済の構造転換を進めるにもオルドスの賃金は次のグラフのように高い。

図8

  電子や装備産業、コンピュータなどの高賃金を吸収できる先端産業ではないとオルドスでの事業存続は難しい。それらの産業の誘致には、技術者の招聘、定住が不可欠である。こうして都市景観や環境を重視した新区建設が始まった。同時に石炭長者や域外の投資が殺到し、不動産投資が過熱した。ゴーストタウンを見れば新区建設は批判の対象となる。新区の建設には利権や腐敗もからむ。だがオルドスの将来を考えた場合、新区の建設は重要である。それは、当時は馬鹿にされた80年前の大阪御堂筋の拡幅工事と似ているかも知れない。

 経済の分散は中国政治の使命でもある。進め方を間違えば癒着と腐敗、排他的な地方保護の弊害が現れるが、地方が競うことが活力と成長持続の源ともなる。

 今後の中国経済の成長と重ねる時、康巴什新区の建設が30年先を見据えた先見の明と評される日が来るかもしれない。

 康巴什と同じくゴーストタウンと呼ばれた内モンゴルの街が、オルドスの西170㎞にある。呼和浩特市の清水河県である。康巴什新区の建設と同じ頃、街を流れる清水河沿いの棚戸を壊して新しい街がつくられた。やはり「建設途中で放置されたお化けビルが立ち並ぶ荒涼とした街」と揶揄された。だが今は、清水河に面して幼稚園や小学校の建設が進み、住民も増え、整備された農村都市の姿を見せつつある。筆者が街を訪れた時、都会の小学校と同じように子供たちを出迎えるお年寄りで賑わっていた。空き室の住宅も残るが、その多くは販売済で価格も3,100元~3,500元(㎡)、高いもので4,800元程度と下落前の水準に戻しつつある。

ゴーストタウンの報道に日本の中国情報の問題が見える

 長期的視点に欠けた意見が、多くの日本の中国情報で見られる。先日もNHKの番組で「景気の減速が続く中国、経済成長率は26年ぶりの低い水準になった」と語られた。なぜ6.5%~7%の成長を減速と捉えるのか。26年前と現在を単純に比較していいのかの疑問が湧く。

 高速鉄道を取り上げた新聞では巨額赤字で「鉄路の夢は画鋲の懸念」と指摘された。中国の高鉄計画は「四縦四横」から「八縦八横」に変わり、さらに「十縦十横」を目指しており、まだ建設途上だ。計画が完成すれば利便性ははるかに増し、旅行市場への影響は計り知れない。だが何故か今だけを見て問題が指摘される。高速鉄道については次回のこの欄で詳しく取り上げたい。

 ゴーストタウンの指摘も長期的な視点に欠ける。今では国際金融センターとなった上海浦東新区も、1991年の建設当初は「浦東の1部屋より浦西の瓦」と蔑まれた。上海の象徴ともなった東方明珠タワーをダンゴタワーと笑う人もいた。

 中国は、年率7%近い経済成長を続けている。それは社会の姿が刻々変わることで、高い成長率は一時の負の要素も帳消しにする。笑っている間に中国は大きな変化を遂げ、日本が逃したビジネスチャンスも計り知れない。

 日本人は目の前のことに関心も強く、まじめに一生懸命それに対応する。だが一方で長期的、戦略的対応に弱い。メディアも目先の中国問題ばかりを追いかけているように思う。

 世論調査では日本人の83%が中国を良く思わない。良い情報は共感を得ず、迎合から問題情報を強調して伝えているように思える。それが日本人の中国理解をさらに歪めている。

(おわり)

参考文献