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【19-001】2019年の中国経済展望~中国経済は沈まない~(その1)

2019年2月18日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

過度に強調される「陰る経済」

 2018年の中国経済の各種統計速報が発表された。

 日本の報道の多くは、“90年以来の28年ぶりの低水準”など減速を強調している。

 1990年の中国はどんな姿だったのか。改革開放が何をもたらし社会がどう変わったのか。

 それを見ずに、わざわざ90年の3.9%の成長率を持ち出し、それ以来の低水準というのも違和感がある。

 どうも中国をとらえる報道には過去の極端な事例や数値を持ち出し問題が強調されることが多い。

 中国の国防費を語る場合もわざわざ30年前の国防費と比較し、50倍と報道されたりする。全く“意味”の無い比較で、その“意図”も感じられる。

 確かに昨年の実質成長率は前年の6.9%から6.6%に下がり、四半期の成長率でも、第四四半期の成長率、6.4%はリーマンショック後、2009年以来の低い率で、製造業のPMI指数(購買担当者景気指数)も芳しくない。そのため「陰る経済」「下振れ」という言葉で減速が報道される。

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 だが、中国を除くG20の平均成長率は中国の半分にもならない。中国経済は年々成熟し、社会も「和諧社会」を目指している。成長率が落ちることは当然なのに、なぜか過度に「陰る経済」が強調される。

 昨年の成長率低下の大きな原因は、地方政府債務の抑制や不動産市場のコントロールのために金融監督が強化され、抑制的な金融政策がとられたこと、さらに影の銀行への対策もあり地方政府への指導を強めたことで基礎固定資産(インフラ)投資が減少したことが大きい。また、住宅建設の低下も関連消費低下に影響した。そこに中米貿易摩擦が重なり株価も低迷し、それが消費マインドを下げて車などの基幹物資の消費に影響したことである。また、需要が大きい北京や上海など主要都市の車や不動産取得規制も市場が大きいだけに経済に影響を与えた。

 しかしそんな状況でも仔細に中国経済を見れば、これから経済が上向きに転じるいくつかのポイントが見られる。「陰る経済」にばかり目を向けず、変化にもっと着目すべきである。今回の日中論壇は昨年の中国経済の変化が、これからの経済にどんな影響を与えるのかを考える。そのポイントは次の六点である。

1.95后及び00后世代とインターネット小売市場の成長

2.製造業投資の増加

3.GDPに占める最終消費比率の拡大

4.貿易の変化

5.外資投資の変化

6.労働年齢人口と就業人口の下降

1.6億人の95后と00后世代が消費社会を牽引する

 まず95后(95年以後に生まれた世代)、00后(2000年以後に生まれた世代)とインターネット小売販売、EC市場の成長について考える。

 2018年の社会消費品小売総額の伸び率は9.0%で、前年より1%以上低下した。

 月別でも、昨年春以降、低下が続いた。

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 しかし成長率が低下し、さらに自動車販売額が3兆8,949億元、前年比2.4%のマイナスの中での9%の増加は、消費の底が固いことを表している。

 昨年の中国の自動車生産台数は2,796.8万台で、取得時の優遇税の終了も影響して台数では3.8%低下した。特にこれまでの市場の好調を支えたSUV車の生産台数が924.4万台、前年比6.7%減少している。

 自動車消費は社会消費品小売総額の10%を超え、その影響は大きい。

 そんな中で、消費を支えているのは、95后世代や00后世代の旺盛な消費と彼らが牽引するインターネットの小売販売である。EC市場の売上伸び率はグラフのように推移している。2018年は前年比23.9%の増加である。当然ながら以前のように大きく伸びる時代は終わったものの、依然、活発な消費が続く。それを支えるのが95后や00后世代である。

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 南方都市報ビッグデータ研究院の調査では2013年から2017年の化粧品小売売上の年平均伸び率は11.53%である。その間のネット売上の年平均増加率は29.47%だった。

 昨年の18歳~25歳の香水消費額の前年伸び率は30%を超えている。

 “小仙女”“小鮮肉”とも呼ばれ、美しさに憧れ、美しくなることにお金も時間も惜しまない95后や00后世代が市場を引っ張り、化粧品などドラッグストア関連商品の売上が急激に増加した。昨年までの5年間で化粧品などドラッグストア関連商品の売上は5.3倍になり、18歳~25歳の年齢層の購買が32.6%になったと中国EC第2位の京東は発表している。

 訪日中国人が真っ先にドラッグストアを訪れる姿そのままに、中国国内でもそれらの消費は好調である。中国の20歳~24歳の人口比率は6.39%、15歳~19歳の比率は5.17%で、その人口は約1.6億人である。日本の人口をはるかに超え、消費社会の成長とともに育った世代がネット社会の進展で中国の消費の牽引役になっている。

消費を押し上げる多くの事柄が控えている

 95后や00后は「小皇帝」と呼ばれ育った世代である。「小皇帝」は家計の消費内容にも影響を与えている。

 グラフは中国人一人当たりの年間の消費内容別金額を2013年と2017年を比較したものである。交通通信情報や文化、娯楽面での消費の伸びが大きい。

 95后、00后の成長とともに情報、文化、娯楽への消費のシフトはますます激しくなる。

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 中国の2017年末の100家庭当たりの自動車保有台数は29.7台、昨年の1,000人当たりの自動車保有台数は160台ほどで、米国や日本に比べまだはるかに低い。

 これから95后や00后世代が車の取得層に入る。筆者が関係する工場でも95后世代で車通勤をする女性が目立つようになってきた。

 中国では親が子供の結婚にまで深く関わる。上海では子供のために公園での親同志のお見合いアピールも盛んである。子供のために車の資金の一部を負担する親も多いだろう。

 さらに中国には農村の都市化が控える。2018年の都市化率は59.58%と60%に近づいた。しかし米国や日本に比べまだ低い。今後都市化はさらに進む。最近、中央政府は1億人の農村から都市戸籍への転換が予定どおり進んでいるか、地方に調査を求めている。

 リーマンショック時、政府は景気刺激策の一環で家電下郷(家電の農村普及の奨励)を行った。今後、景気のテコ入れのために汽車(自動車)下郷を実施するかも知れない。

 さらに、環境や渋滞問題からの制約はあるものの、市場の大きい北京や上海など1級都市での自動車取得制限を少し緩めるだけでも経済への刺激にはなる。

 また中国では就業者一人当たりの賃金の伸び率が次のグラフのように推移している。最近、日本では首相が賃金支払総額は上昇しているので経済も好調云々の話があったが、本来、景気指標で重要なのは賃金支払総額でなく一人当たりの賃金であることは常識でもある。賃金支払総額が上昇しているので経済も好調であるとの論はありえない。中国でも景気の観測で使われる指標は一人当たりの平均賃金や平均可処分所得で、賃金支払総額が持ち出されるようなことは無い。

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 賃金の伸び率が下がったとは言え、2017年にはまだ年10%程度の伸び率を維持している。中国は、日本のように実質賃金がプラスかマイナスかが議論されるような国ではない。

 これも底堅い消費の根拠でもある。

 昨年の社会消費品小売総額伸び率が低下する一方で、まだ消費を押し上げる多くの要素が控えていることに着目すべきである。

製造業の設備投資が増加している

 1月21日の国家統計局の発表では、昨年の農家を含まない社会固定資産投資額は63.6兆元、前年比5.9%の伸びだった。(中国統計では2017年の社会固定資産投資額は63.2兆元で、それで計算すれば5.9%にならないが、ここでは5.9%の伸び率を使う)

 しかし製造業投資は前年比9.5%増加している。昨年後半には翳りは見えたものの、製造業設備投資は昨年、8カ月連続で前年を上回った。2016年と2017年は5%を割る低水準だったが、製造業設備投資は昨年、9.5%に回復した。

 経済新聞「21世紀経済報道」によると、ハイテク製造業や金属製品製造業、専用設備製造業、計算機、通信とその他の電子設備製造業の設備投資伸び率は各々16.1%、15.4%、15.4%、16.6%だった。

 前回の日中論壇 でも新時代の経営者が積極的な設備投資を進めていると述べた。それが昨年の統計にも現れている。後に述べるように、労働可能人口や就業人口が昨年、減少に転じた。そのため今後さらに製造業の自動化投資が進む。

 製造業の設備投資が増加していることは、「中国製造2025」が進んでいることでもある。

 これもこれからの中国経済を見るポイントである。

中国は消費とサービスが経済を引っ張る社会に変わった

 以下のグラフは2018年の中国のGDPの増加に占める最終消費支出の貢献率の推移である。

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 昨年は純輸出がマイナスになり、消費支出の貢献率が上昇して76.2%になった。

 中国は長年、投資牽引経済と言われた。筆者は中国のような国では投資牽引経済は当然、投資は消費の布石で、何も問題ではないと言い続けたが、投資の結果、今や消費が増えて、GDPの最終消費支出の割合は2010年の48.5%から、昨年には55%ほどに上昇していると思われる。そのため第三次産業のGDPの増加貢献率は上がり、昨年は59.7%になった。

 その結果、GDPに占める第三次産業の比重は52.2%となり、中国はますます「世界の工場」から「消費とサービスが経済を牽引する社会」への道を歩んでいる。

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 2017年までの5年間の非民営企業と民営企業の年平均賃金伸び率は11.8%である。

 そのような国が「世界の工場」から消費とサービスが経済を引っ張る社会に変わるのは当然な姿でもある。

その2へつづく)


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