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【22-08】江西省:「カギとなる変数」を活用した質の高い発展

魏依晨(科技日報記者) 2022年05月24日

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江西天漪半導体有限公司の生産現場で、ウェハーの検査を行う技術者。画像提供:取材対象者

4億7900万元
 江西省では現時点で、イノベーションを奨励する39プロジェクトに応募があり、その額は4億7900万元に達している。同省の自然科学基金などの6類プロジェクトも現在、財政請負制のテスト事業を実施しており、『負担軽減行動2.0』を積極的に展開して、科学研究者を、煩わしく、不必要な体制、メカニズムの束縛から確実に解放できるようにしている。

 どのようにしたら先進地域と足並みを揃え、経済の飛躍的な発展を実現することができるのだろうか?江西省はテクノロジーイノベーションを、質の高い発展を促進する主な原動力としている。同省は近年、テクノロジー発展に持続的に力を入れている。テクノロジーイノベーションの民生志向が日に日に際立つようになり、民生テクノロジーのボーナスが絶え間なく放出され、地域経済が効果的な下支えを得るようになっている。江西省のテクノロジー当局は4月1日の取材に対して、2021年、省全域のハイテク産業の付加価値額が一定規模以上の工業(年売上高2000万元以上の工業)の付加価値額に占める割合は38.5%、成長率は16%に達し、テクノロジーが経済の質の高い発展を下支えする能力が目に見えて増強されていることを明らかにした。そして江西省のテクノロジーシステムは今年、質の高い飛躍的発展を促進するべく、「三争」(星級支部、優秀共産党員、優秀党務活動者を競う)活動を展開して、さらに多くのテクノロジー成果の益が企業や民生に及ぶよう取り組む計画だ。

企業はテクノロジーと経済の「接着剤」

 テクノロジーイノベーションはどれほど重要なのだろうか?それは企業の命綱だ。

 筆者がこのほど、江西天漪半導体有限公司の生産工場を取材したところ、数多くの生産ラインが高速で稼働していた。同社は以前、原材料のウェハーを主に手作業で測量し、カットしていたため、精度が低く、製品のランクも低かった。しかし現在、ターゲットを絞った研究を通して、補助ポジショニング構造を搭載したセッティング設備を開発し、精度も製品のランクも質的飛躍を遂げた。

 同社の孫海浪工場長は取材に対して、「たくさんのエネルギーを費やして、電気回路ウェハー技術の難関を攻略した。そして、製品の質が高まり、生産量が増えて、会社の利益もますます増えている」と語った。

 統計によると、同社はテクノロジーイノベーションに、2020年は100万元、2021年は200万元を投じ、発明特許や実用新型特許など10数件を取得。売上高も最初の400万元から今では3000万元以上にまで増えた。

 孫工場長は、「今年、当社の研究開発費は1000万元を超える見込み。研究開発に専念し、売上高を2億元以上に引き上げたい考えだ」と説明する。

 江西省科技庁の関係責任者は、「企業はテクノロジーと経済の密接に繋ぐ『接着剤』。質の高いテクノロジー型企業が多いほど、地域経済の競争力が高いことを意味している。当省のテクノロジーは現在、イノベーションの主体にスポットを当て、企業の技術革新能力を大々的に増強し、さらに当省の航空や電子情報、設備製造、中医薬、新エネルギー、新材料といった優位性を誇る6大産業及び関連の14産業チェーンをめぐって、省内外の優位性を誇る企業、科学研究機関を中心プラットフォームとした産業チェーンテクノロジーイノベーション連合体を構築している」と説明する。

 このほか、江西省は、テクノロジー型企業を順次育成する活動を大々的に展開し、発展の大きなポテンシャルを秘め、成長が著しい、イノベーション能力の高い企業を育成したり、さらなる成長をバックアップしたりしている。

 2021年末の時点で、登録されているテクノロジー型中小企業は8361社、有効期限内のハイテク企業は6299社だった。省全体のハイテク産業の付加価値額が、一定規模以上の工業の付加価値額に占める割合は38.5%に達し、鄱陽湖国家自主イノベーションモデルエリア内の各ハイテクパークも急成長を実現した。中国科技部国家ハイテクパークの評価結果によると、南昌ハイテクパークの全国ランキングは前年の26位から24位に、景徳鎮、新余、鷹潭、吉安、贛州といったハイテクパークの順位は2桁上昇を実現した。

テクノロジーボーナスが放出され地域の経済発展を下支え

 100年に一度の大変局を経験している今、テクノロジーイノベーションは既に、経済、社会の質の高い発展を牽引する一番の原動力となっている。

 全国人民代表大会の代表である、紅板(江西)有限公司のシニアエンジニア・郭達文氏は、「独自の知的財産権やコアテクノロジーを持ってはじめて、企業はコア・コンピタンスを持つ製品を生産することができ、熾烈な競争において、不敗の地に立つことができ、100年以上の歴史を誇るブランド、企業を作るための強固な基礎を築くことができる」と指摘する。

 2021年だけでも、郭氏は、発明特許5件、実用新型特許5件を出願し、紅板有限公司の新製品6種類が省級新製品認定を取得した。郭氏は、「企業は、積極的に責任を担い、イノベーションの主体としての役割を果たし、テクノロジーイノベーションを企業発展の第一戦略とし、テクノロジー研究開発への資金投入を強化し、各種優秀な人材を大量に呼び込み、テクノロジーイノベーションプラットフォーム構築を重視し、さらに多くのキーテクノロジーを確立し、業界の発展において優位性を確保しなければならない」との見方を示す。

 江西省科技庁の責任者は、「イノベーションを奨励することで、活力が湧き出るようになる。さらにイノベーションによるチェーン強化が最大の効果を発揮することができる。現時点で、39プロジェクトに応募があり、その額は4億7900万元に達している。当省の自然科学基金などの6類プロジェクトも現在、財政請負制のテスト事業を実施し、ハイレベルなリーダー的存在に、さらに多くの人・資金・物資の支配権やテクノロジー・ロードマップの自主権を与え、そして『負担軽減行動2.0』を積極的に展開して、科学研究者を、煩わしく、不必要な体制、メカニズムの束縛から確実に解放できるようにしている」と説明する。

 このほか、江西省は現在、テクノロジーと経済のマッチングを強化し、テクノロジー成果の転化の「ラストワンマイル」を埋めるのに力を入れている。同省は土地資源運用スタイルを参考にして、テクノロジー成果を政府と銀行が共同で買い上げ、第三者機関が公正な評価を行い、企業が転化にベストな相手を選び、科学研究者ができるだけ早く実益を得ることのできる事業メカニズム実施を模索している。そして、産業化の見込みのあるキーテクノロジー成果を買い上げて、その市場価値を発掘・PRし、金融と組み合わせて、成果の転化を促進し、テクノロジー成果の市場価値や社会的効果をできるだけ早く実現できるよう取り組んでいる。また、同省は科学研究者に、職務テクノロジー成果所有権や長期使用権を与えるテスト事業を展開して、中国で初めて「区、校、院」からなる構造を打ち出し、贛江新区や南昌大学を含む大学12校、科学研究院・所で改革のテスト事業を行い、テクノロジー成果200件以上に権限を与えてきた。

 江西省科技庁の党組のメンバーである鄢幇有副庁長によると、今年第一四半期(1~3月)もハイテク産業が成長を続けた。まず、1~2月期、省のハイテク産業の成長率は21.1%に達し、一定規模以上の工業の付加価値額に占める割合は38.2%と、前年同期比で2.3ポイント上昇した。技術契約の総額は前年同期比7.2%増、1万人当たりの発明特許保有件数は同38.9%増となった。テクノロジーイノベーションプラットフォームの建設も継続的に最適化されている。産業チェーンをめぐってイノベーション連合体が構築され、銅産業チェーンテクノロジーイノベーション連合体建設が加速し、23のイノベーション連合体の建設計画が全面的に展開されている。

イノベーションの土壌作りを強化し一流のテクノロジーイノベーションエコシステムを構築

 コアテクノロジーは国の代表的な製品であり、最もカギとなり、最も中核となる技術は、独自のイノベーション、自立自強に立脚していなければならない。江西省では現在、テクノロジー体制メカニズム改革が深化し続けており、イノベーションの土壌づくりをしっかり行い、一流のテクノロジーイノベーションエコシステムを構築し、省全域でテクノロジーイノベーションの駆動力を継続的に強化している。

 南昌市ハイテクパーク京東大道の江西珉軒智能科技有限公司は地元企業で、10年かけて技術を蓄積し、「スマート都市AIデジタルエンジン」を作り上げた。同社の責任者・晏麗娟氏は、「江西省はここ数年、企業へのサポートを強化しており、当社にもたくさんのプロジェクト、資金、人材などの面のサポートを提供してくれている。それで、当社も好機を迎え、成長し続けている。当社は修士号、博士号を持つ社員の割合が40%以上に達しており、20以上の国、省、市の科学研究プロジェクトを担当している」と説明する。

 江西省のテクノロジーイノベーションに存在している課題について、江西省科技庁の責任者は、「テクノロジー体制、メカニズム改革が不十分。また、イノベーションプラットフォームと産業発展のマッチング度も低く、テクノロジーのリーディングカンパニーも少なく、強化が必要。さらに、イノベーション成果の実用化も不十分で、円滑でない。金融イノベーション体制の整備も進んでいない」と率直に語る。

 こうした課題について、同責任者は、「今後、テクノロジー体制改革難関攻略の実施に力を入れ、応募制・競争制』の活用を推進し、『需要側が問題を提起し、テクノロジー界が解答する』という新たなメカニズムを整備し、キーテクノロジーの発展の地を構築する。また、重要イノベーションプラットフォームの能力強化、レベルアップの推進に力を入れ、国家重点実験室、省実験室、省重点実験室を中心とした実験室体制構築に取り組み、イノベーション資源を集積し、画期的で牽引型の総合的オールチェーンプラットフォームを構築し、南昌大学をバックに立ち上げた複合半導体江西実験室の建設を加速し、国家重点実験室の再編テスト事業と積極的に連携する。江西省は今後、テクノロジー型企業を順次育成する活動を展開し、テクノロジー成果の転化と応用推進に力を入れる」と説明した。

 また、「江西省は今後、優位性を誇る重点産業や未来産業にスポットを当てて、技術イノベーションセンター、産業イノベーションセンター、企業技術センターなどを中心とした技術イノベーションプラットフォーム体制を構築し、国家レアアース技術イノベーションセンター、国家中医薬資源・製造技術イノベーションセンターの創設を加速する計画。さらに、重要科学研究インフラや大型科学研究器具・設備、実験動物、遺伝資源、生物サンプルなどを中心とした科学研究基礎条件プラットフォーム体制構築に注力し、本草物質科学研究(中医薬ビッグサイエンス装置)、電波望遠鏡、発酵工学研究といった重要テクノロジーインフラの建設推進を加速させる計画だ」という。

 江西省は現在、イノベーション主導の発展戦略、テクノロジー強省戦略を一歩踏み込んで実施し、テクノロジーイノベーションという「カギとなる変数」が、同省の質の高い発展の「最大のインクリメント」となっている。


※本稿は、科技日報「江西:用"関鍵変量"撬動高質量跨越式発展」(2022年4月8日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。