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【22-28】計算能力提供からサービス提供へ スパコンネットワークをいかにして「つなげる」か

過国忠(科技日報記者)/段 芳(科技日報通信員) 2022年08月09日

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画像提供:視覚中国

 スパコンネットワークとは、スーパーコンピューターと高速インターネットを基礎とした先進的計算インフラで、各地に分散するスパコンセンターを高速ネットワークで集約し、複数のスパコンセンターのソフト・ハードウェア資源を統合し、スパコン資源共有・取引プラットフォームを構築することを通じて、計算能力やデータ、ソフトウェア、応用といった資源の共有と取引をサポートすると同時に、多様化した計算能力サービスをユーザーに提供する。
楊広文 国家スーパーコンピューティング無錫センター主任

 新インフラ建設や東数西算(東部地域のデータを西部地域で保存・計算すること)といったプロジェクトの実施は、計算能力やアルゴリズム、データ、応用資源などの集約化とサービス化の革新に対してより高い要求を突きつけ、ハイエンド計算能力サービスを提供できる一体化先進計算インフラの構築に対しても新たな課題を提示している。

 6月22日、国家スーパーコンピューティング無錫センターの楊広文主任は科技日報記者の取材に対し、「我が国のスパコンセンターの運用が直面している課題を解決し、我が国のスパコンの応用レベルを高め、スパコンセンターが単なる計算能力の提供から複数分野にわたる応用サービスの提供へと転換するよう促すため、スパコンネットワーク構築は必然的な流れとなっている」と述べた。

 楊主任は、「現在我が国のスパコンネットワークプロトタイププロジェクト研究はすでに初歩的な成果をあげており、近いうちに対外的に正式発表される。今後、それらの成果によってスマートコンピューティングセンターの相互接続がさらにサポートされ、より高い階層における将来の計算能力ネットワークの構築と運用を支えることが可能になる」と明かした。

スパコンネットワーク構築の意義は重大

 楊主任によると、スパコンネットワークとは、スーパーコンピューターと高速インターネットを基礎とした先進的計算インフラで、各地に分散するスパコンセンターを高速ネットワークで集約し、複数のスパコンセンターのソフト・ハードウェア資源を統合し、スパコン資源共有・取引プラットフォームを構築することを通じて、計算能力やデータ、ソフトウェア、応用といった資源の共有と取引をサポートすると同時に、多様化した計算能力サービスをユーザーに提供する。

 先進的な計算インフラであるスパコンネットワークは、スパコンが提供する強大な計算能力を計算サービスへと変え、標準化された形式で計算サービス使用者に提供する。

 楊主任は、「スパコンネットワークは、資源アクセスや共有、取引などの標準を決めることで、資源共有・取引能力を備えた公益性資源プラットフォームを構築し、各レベルのスパコンセンターやクラウドコンピューティング企業、科学研究機関などが提供する計算能力やデータ、ソフトウェア、応用などをスパコン資源に統合することができ、科学研究や生産生活などに高効率で専門的なスーパーコンピューターサービスを提供する」と話す。

 楊主任によれば、従来のスパコン応用と比べ、スパコンネットワークの最大の特徴はスパコン計算能力の提供をスパコン応用サービスの提供へと転換することで、これによってスパコンネットワークの応用モデル上の極めて大きな変化がもたらされ、スパコンとその応用の発展にとってかなり大きな推進作用が見込まれるという。

 また、清華大学の黄震春准教授によると、情報インフラとして、スパコンネットワークは下層の資源提供者と上層のユーザーとをつなぐ役割を果たす。そのため、商業的運用の角度から見て、スパコンネットワークのコアサービスプラットフォームは公益プラットフォームであるべきであり、国の関係当局の支持と指導の下でスーパーコンピューターサービス市場に応用されるべきだという。

 国家スーパーコンピューティング無錫センターの研究開発エンジニアである葉躍進氏は、「スパコンネットワークを構築する際には、スパコンセンターが分散し単独で運営されていることによる計算能力のフラグメンテーションや資源利用の不均衡といった局面を変え、スパコン資源の相互接続と資源共有、取引などを実現する必要がある。同時に、スーパーコンピューター管理・応用プラットフォームサービス体系を構築し、分野を跨いだ統一サービス戦略と評価指標を提供し、パラレル応用ソフトウェアやソフトウェアの共有・取引メカニズムを提供する必要もある。また、各分野と重点業界向けの応用プラットフォーム構築を支援し、国家級スーパーコンピューター資源を十分に利用し、重点科学研究と業界ユーザーを効果的に支援し、スーパーコンピューター資源とサービスの商品化と市場化を指導・育成し、中国のパラレルアルゴリズムとパラレルソフトウェアの研究開発レベルを根本から向上させ、スーパーコンピューターが科学技術イノベーションや産業の高度化などによりよく貢献できるようにする必要がある」という見方を示す。

 楊主任は、「スパコンネットワークの構築と発展は、国家レベルで全国ビッグデータセンターの一体化協働革新を実現するために質の高いソリューションを打ち出し、計算能力経済時代を切り開く世紀のプロジェクトに堅実な基礎を提供するだろう」と語った。

スパコンネットワークは依然多くの課題に直面

 楊主任は、「スパコンネットワークの核心目標は、スーパーコンピューターサービスが従来の計算能力提供からサービス提供への革命的転換を確実に実現できるようにすることだ」と指摘する。楊主任によると、資源の高速相互接続を実現して初めて、各種スパコン資源が一つの有機的統一体になることができ、応用分野向けの業界や産業連合体の形成をサポートし、応用プラットフォームと応用システムを構築し、応用分野と関連産業に効果的で高性能の計算応用サービスを提供することが可能になるという。

 楊主任は、「現在、スパコンネットワークの構築と運用は、技術や人材、商業モデル、産業育成のどの面においても多くの課題に直面している」と説明する。

 技術的な面では、スパコンネットワークには依然として、様々なスパコンセンターと資源提供業者からの分散されたスパコン資源を高速ネットワークによって高い効率で提供し、計算能力やストレージ、データなど各種高性能計算資源の共有と高性能計算タスクを効果的に割り振ることが求められている。

 人材資源の面では、スパコンネットワークの構築と運用は高性能計算やコンピューターネットワーク、パラレルソフトウェア、分散式システムなどコンピューター分野の多くの研究方向性に関連している。特にスパコンセンターを主とするスパコン運用管理・技術開発の人材と切り離せず、関連応用分野と業界の専門知識や業界経験を持つ人材を必要としている。

 産業ビジネスエコシステムの面では、スパコンネットワークはスーパーコンピューターと高速ネットワークの基礎の上に構築され、関連産業ビジネスエコシステムへの依存が非常に顕著で、OSや基礎ソフトウェアからパラレル応用ソフトウェアの開発と最適化に至るまで、すべてがスパコンネットワークの構築と運用に影響を与える。

 葉氏は、「応用分野向けの専門スパコンサービス産業の初期と発展段階において、国は早急に産業政策などの面で力強く支援し、技術と市場の優位性を備えた企業連合やクラスターを早急に成長させなければならない」と指摘する。

ネットワーク構築過程では標準先行を堅持

 楊主任は、「スパコンネットワークの構築では、スパコンハードウェア資源と専門人材を効果的に集め、スーパーコンピューターシステム研究パラレルソフトウェアの開発、テスト、移転、共有、サービス化技術に基づいて、パラレル応用ソフトウェアの開発を支持し、奨励することになる」と述べた。

 また黄准教授は、「スパコンネットワークの構築過程においては、標準化やサービス化、分野化など一連の原則を遵守して、スパコンネットワークの開放性と汎用性を保証する必要がある。特に標準先行を堅持することが必要で、これはスパコンネットワークをめぐる協力とその普及にプラスであると同時に、成熟した標準保証システムの互換性や安定性、有用性を通じて、関連する標準の開放をさらに促進して、スパコンネットワークのさらなる発展と進化を保証することができる」との見方を示す。

 中国はスパコンネットワークプロジェクトを非常に重視しており、2020年には重点研究開発・計画した「高性能計算」重点専門プロジェクトでも、スパコンネットワークプロトタイププロジェクトである「国家高性能計算環境分野応用プラットフォーム及びサービス体系の研究と構築」を特に設置し、現在ではすでに複数の方面で重要な進展がみられる。

 特筆すべきは、スパコンネットワークプロトタイププロジェクトが之江実験室の強力な支援を得ており、同時に之江実験室の「スマート計算デジタル原子炉」重大プロジェクトの実施をよりよくサポートすることができている点だ。

 楊主任によると、スパコンネットワークプロトタイププロジェクトは複数の国家スーパーコンピューティングセンター間で毎秒千億ビットの高速ネットワーク相互接続を実現でき、毎秒200エクサスケール浮点小数点演算の計算能力と1エクサバイトのストレージ能力を合わせることが可能だという。現在のところ、スパコンネットワークの高速相互接続はオープンなアーキテクチャと標準プロトコルを採用しており、将来的なネットワーク帯域幅のアップデートやさらに多くの条件に合致した国家級及びその他の各級スパコンセンター、資源サプライヤー、ユーザーのアクセスに対応することが可能となっている。

 同時に、スパコンネットワーク構築チームは核心資源ネットワークのスーパーコンピューターシステムを念頭に、応用分野プラットフォーム構築サポート技術を研究開発し、核心資源ネットワークに基づいた応用プラットフォーム構築支援ツールを設計する。

 関連専門家は、「スパコンネットワークプロトタイププロジェクトの順調な実施は、スパコンネットワークの技術上の実行可能性と業界や多くの分野に応用が可能という強大なサポート能力を証明し、中国の科学技術イノベーション、産業高度化、社会発展などにスーパーコンピューティング能力をベースとした専門サービスを提供し、効果的に関連産業の発展を牽引し、国家関連戦略の順調な実施をサポートする」との見方を示している。


※本稿は、科技日報「従提供算力到提供服務超算互聯網如何才能真正"聯"起来」(2022年6月24日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。