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【22-34】筆ではなく計算で描く、アート創作に可能性もたらすAI絵画

羅洪焱 陳 科 2022年08月31日

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画像提供:視覚中国

「ハートの形をした灯台、波が逆巻く海辺、一筋の光、黄色で配色」といった幾つかのキーワードを話すと、個性あふれる作風のイラストが自動で生成されるという様子を思い描けるだろうか?躍動感ある構図で、さまざまな色を使い、繊細なタッチのそのイラストからは、作者の芸術的なセンスがあふれ出ている。ただ、それは人工知能(AI)によるものだ。

「Disco Diffusion」と呼ばれるAIシステムがこのところ、デザイナーの間で流行している。ユーザーがランダムにキーワードをいくつか話すと、AIがさまざまな作風のイラストを描き出してくれる。一部のデザイナーたちは、それらイラストを自身の作品のバックにしたり、それをそのままベースにして作品を仕上げたりしている。

 イラストを描くAIというのは今や珍しいことではなくなっているものの、「Disco Diffusion」は、想像している絵のキーワードを話すだけで、それをイラストにして描き出してくれることには本当に驚かされる。まるで、AIが人の言葉を理解していて、「口で絵を描く」時代がいつの間にか到来していたかのようにさえ感じる。

 AIを活用してイラストを描くことができるようになるまでに、どのような段階を経て来たのだろう?その目を見張るような作品はどのようにして描き出されるのだろう?AIの作品と人間の作品の関係性のバランスを、どのようにうまく取ればいいのだろう?

AIアートが新たなアートの重要な形態に

 AIアートとは、コンピューターが自動で生成する芸術作品の総称で、1950年代から60年代にかけて誕生した。人々は、コンピューターを使ってアート作品を創作するポテンシャルを少しずつ見出し、それが発展して、今ではAIアートはアートの新しい重要な形態となっている。

 実際には、一番初めにコンピューターを使って絵を描くことを模索したのはアーティストではなく、コンピューターの専門家やエンジニアたちだった。一番初めに、コンピューターを使って描き出す主な絵の形式はオシログラムだった。1960年代中期に、コンピューターが生成した作品が、新しいアートの形態として受け入れられるようになり、より多くのコンピューターの専門家やアーティストがこの分野に進出するようになった。そして21世紀に入り、ディープニューラルネットワークがAI絵画の急速な発展を促進するようになった。

 AIアートは1960年代から商業化され、少しずつ機関や個人によってコレクションされるようになった。そして、1990年代の後期になると、美術館がそれを展示したり、計画をサポートしたりするようになった。

 四川大学のコンピューターアート研究グループのメンバーは、「アート創作の過程の一部を自動化することができるというのは、アーティストや学者の共通の認識となっている。現在、AIアートをアートの形式の一種と見なすことに、ほとんど異論はない。今の各種現代アート展において、その種の作品を見ることができるようになっている」と説明する。

 AI絵画は、コレクションの分野でとりわけ評価されている。2018年10月にオークションハウス・クリスティーズが開催したオークションでは、輪郭がぼんやりとしていて、幻想的な雰囲気を漂わせ、芸術感あふれる絵画が注目を集めた。有名な画家の作品のように見える「ベラミ家のエドモン・ド・ベラミ」というタイトルの同絵画は、実はAIが描き出したものだ。そして、最終的に43万2500ドルで落札され、クリスティーズは「AIアート作品を今後、世界のオークションの舞台に登場することを示している」とした。

 デザインの分野を見ると、ある芸術的なスタイルを持つ絵画を生成するというのが近年、画像処理やコンピュータグラフィックスの分野において人気の研究課題となっている。これについては、AI絵画には大きなメリットがある。

 四川大学コンピューター学院(ソフトウェア学院)のデータスマート・コンピューターアート実験室でAI絵画の創作研究に携わっている李茂准教授は、「コンピューターが生成するクリエイティビティな画像は、一般の人々が追求する独特性、オリジナル性を実現し、クライアントが追求するオリジナル化のニーズを満たし、工業製品のオリジナル化を実現することが、ある程度できる。AI絵画を商業化する場合の『ブルー・オーシャン』の1つは装飾への応用だろう。例えば、ネクタイの模様やベッドシーツの柄、トレンディな服のプリントなどをAIによって生成すれば、オリジナリティある工業製品を作ることができ、市場のポテンシャルは巨大だ」との見方を示す。

「計算」して描き出しされたAI絵画

 AIが今ほどのトレンドとなるかなり前から、中国ではAIアートの研究に従事するチームが複数登場していた。四川大学コンピューター学院(ソフトウェア学院)のAIアートグループもその一つだ。

 中国の著名なアーティストで、四川大学芸術学院の程叢林ディスティングイッシュトプロフェッサーと、当時四川大学コンピューター学院(ソフトウェア学院)の院長を務めていた章毅教授の提案の下、同学院は10年前に、AIアート分野の創作研究に注目し始めた。そして、同学院の院長を務める、データスマート・コンピューター芸術実験室の責任者・呂建成教授が、コンピューターアート研究グループを立ち上げ、コンピューター技術を組み合わせたアート創作の模索を行ってきた。

 呂教授は、「当チームは実験室のビッグデータやAI分野の研究基礎を活用し、ディープラーニングといった先端コンピューター技術と組み合わせて、AI絵画やAI詩歌、AI音楽などの創作研究に取り組んでいる。実験室はAIを使った中国画の細密に描く画法、画家の精神または対象の本質を表現する画法、さらに抽象画の生成などを試みてきた。また、アーティストがそれを写生したり、参考にして画像を作成したりするスタイルに基づいて、コンピューター技術を活用し、参考画像の色彩と数理の関係を導き出し、創作も行っている。そして、コンピューターに、画面の視覚要素のバランスや密度、リズム、韻律、黄金比、三分割法といった、伝統的な経験則を学習させ、抽象画を生成するモデルを作り出し、最もシンプルな点、線、色彩、肌理といった要素を、抽象画の表現要素として創作を行っている」と説明する。

 四川大学コンピューターアート研究グループの研究と違い、「Disco Diffusion」は、シーンを描写するキーワードに基づいて、対応する画像をレンダリングする。Disco Diffusionのその画期的な画像生成機能を支えるのは、機械学習モデルだ。このモデルは、単にたくさんの画像を無理やりつなぎ合わせるのではなく、キーワードを基礎にして、コンピューターがレンダリングの結果と入力されたキーワードのマッチ度が最高になったと判断するまで、レンダリングが繰り返される。

 原理的に言えば、AIが、キーワードに対応する画像情報に基づいて、計算して画像を描き出している。四川大学コンピューターアート研究グループのメンバーは、「近年、詩や音楽、絵画といったAIアートの分野で、ほとんどの場合使われているのは敵対的生成ネットワーク(GAN)。これは、最もよく使われている技術だ。GANのアルゴリズムは、『生成』と『判別』が互いに争いながら学習し、結果を導き出す。それは、贋作家と鑑定家の交流のようだ。贋作家が新たな画像を模作し、鑑定家がそれは生成されたものか、本物かを、識別できなくなるまで鑑定を続け、最終的な判断が下されるかのようだ」と説明する。

限界を超えて人間に無限のサプライズを提供するAI

 ボタンを押すだけで、AIが絵を描き出してくれるようになると、模写やイノベーションに、産業労働者は不必要となるということは、懸念材料であり、よく考えるべき点でもある。AIが発展すると、最終的に、画家などの仕事がなくなってしまうのだろうか?AI絵画の到来は、伝統的な絵画にとっては「死」を意味するのだろうか?それとも、絵画には今後、さらに幅広い無限の可能性があるのだろうか?

 李准教授は、「実際には、人間の想像には往々にして限界があり、現実の影響を必ずと言っていいほど受けてしまう。コンピューターを利用して、アート作品を創作すると、伝統的な美学や社会心理学のビジュアルアート創作に対する障害を打破することができる。技術的、ツール的特性を考えると、コンピューターは人間の創作能力や想像力、文化、環境の制約をある程度超えることができる。その結果、これまでに誰も見たことがなく、想像もつかないような画像を生成することができる可能性があり、アート作品の創作に新たな可能性をもたらすことができるかもしれない」との見方を示す。

 AIアートが誕生して間もない今、AIとアーティストの関係性が注目を集める話題となっている。李准教授は、「AI絵画は私たちに一体何をもたらしてくれるのかを、多くの人が今考えている。一般的には、AIに、特定のアーティストの作風を模倣させたり、特定のビジュアル効果を実現させたりするというのが普通だ。しかし、新しいアート形態としてのAI絵画は、独立したアート体系に発展する可能性を秘めている」としながらも、「AI絵画は、伝統的な絵画の代わりではない。また、それに完全に取って代わることは不可能だ」との見方を示す。

 では、AIが描き出した絵画をどのように評価すればよいのだろう?AI絵画の受け入れ度は、専門分野の受け入れ度と、一般の人々の受け入れ度という2つの評価体系に沿って見ることができる。李准教授は、「アート機関や学術評価といった専門分野の範囲内では現在、この種の絵画形式は広く受け入れられている。一般の人々の評価・審査という分野に関しては、AI絵画と、世界の有名アーティストの作品を混ぜて展示し、鑑賞する人に匿名で見分けてもらったり、評価査定してもらったりするというのが一般的なやり方。大半の場合、AI絵画が高い評価を得ている」と説明する。

 呂教授は、「AIアートは現在、コンピューターツールを活用して人のイノベーションやアイデア、感情を表現する段階。本当の意味でのAIアートの最も本質的な特徴は、アートのクリエイティビティやアイデア、感情にあり、一部、または全てをAIが生成し、AIがインスピレーションを得ることができる状態だ」との見方を示す。

 李准教授は、「テクノロジーの発展は、往往にして線状ではないので、将来、AI絵画が私たちに何をもたらしてくれるのかを予測するのは難しい。ただ、今の時代特有の方法で表現するというのはとても面白みがあり、意義深い」と話す。


※本稿は、科技日報「絵画不靠"筆"靠"算" AI給芸術創作帯来更多可能」(2022年5月23日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。