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【22-37】AI融資審査員が小規模・零細企業の「融資困難」の解決をサポート

洪恒飛 江 耘(科技日報記者) 2022年09月05日

95%以上
 
 中国のネット銀行「網商銀行(MYBank)」が打ち出したシステム「百霊」は既に、契約書や領収書、営業許可証を含む証票26種類、建設車両、店舗、陳列商品といった400種類の物体を識別しており、正確度は95%以上に達している。

 デジタル融資は、サービスの幅広さと便宜性の面では、従来の融資に勝っているものの、インタラクティブ性と両立させるのは至難の業だ。

「網商銀行」は最近、スマートインタラクション型のリスクマネジメントシステム「百霊」を発表した。マン・マシン・インタラクション技術を融資の分野に活用する業界初の試みで、小規模・零細企業が借入に必要な証書を積極的にアップするよう誘導することで、融資限度額の審査を進めることができるようになる。

 網商銀行の高嵩最高技術責任者(CTO)によると、「小規模・零細企業のオーナーのスマホの中に、365日24時間待機するAI融資審査員がいるようなものだ。このシステムは今年初めにテスト運営が始まって以来、小規模・零細企業200万社以上の融資限度額が増えた」と説明する。

26種類の証書を識別できる"鋭い眼力"

 中国でデジタル融資が登場して10年以上になり、多くの小規模・零細企業の「融資困難」という問題が少しずつ解決されている。ただ、関連の調査・研究によると、さらに多くの融資を受けたいと考えている小規模・零細企業は非常に多い。

 中国銀行業協会が発表した「2021年中国銀行業サービス報告」によると、2021年末の時点で、中国銀行業金融機関が小規模・零細企業に使われる融資残高は50兆元(1元は約19.6円)に達している。うち、1社あたり与信限度総額1000万元以下の小規模・零細企業向けの包摂融資残高が19兆1000億元で、前年より成長率が24.9%上昇した。

 業界関係者は、「金融機関が小規模・零細企業に対してまだしっかりとしたイメージを描き出せておらず、客観的に見て、融資限度額上昇は押し下げ圧力が働いている」と分析している。

 デジタル融資機関はこれまで、信用調査情報、商工、税務、モバイル決済の入出金明細、オンラインゲーム経営行為といったデータを識別することができた。それ以外にも、小規模・零細企業のオーナーは、契約書や領収書、出入金記録、店舗、在庫といったその経営実力と安定性を証明する書類を持っている。しかし、こうした書類はあまりにも多いうえに複雑で、識別するのは非常に難しい。契約書を例にすると、印刷された文字や表、手書きのサイン、会社のハンコといった異なる様々なタイプの情報を含んでいる。

 取材では、「百霊」は、マルチスケール・モアレ・アルゴリズムといった検証技術を駆使して、検証結果の正確性、有効性を保証しており、信用できる証拠としてリスクマネジメントシステムが採用されていることが分かった。

 高CTOは、「機械が契約書上の情報を正確に識別するためには、少なくとも3種類のマルチモーダルセンサー技術を駆使して高い正確度を実現しなければならない。また、改ざん防止、複製防止いった検証をめぐる問題も考慮しなければならない。『百霊』は、図形処理技術をベースに、現在の業界最大規模の動的企業グラフと業界グラフを構築し、業界の経営周期、資産構成、川上・川下のロジックなどもリスクマネジメント評価に組み込んでいる。また、業界の専門家の経験に基づく判断をリスクマネジメントに利用できる知識ベースに組み込んで、『百霊』の証票書類を理解する能力を高めている」と説明する。

 発表会では、「百霊」は既に、契約書や領収書、営業許可証を含む証票26種類、建設車両、店舗、陳列商品といった400種類を識別しており、正確度は95%以上に達していることが明らかにされた。

スマートインタラクションの性能向上でロボットに「人間味」

 スマートインタラクションは、柔軟性に欠けるスクリプト化された対話になり、ちょっと油断すると混乱してしまうと、悪いイメージを抱いている人も多いかもしれない。

 リスクマネジメントシステムの小規模・零細企業オーナーに対して、個性化した融資サービスを提供する能力をどのように高めることができるのだろう?スマートインタラクションの性能向上がその切り込みポイントとなる。

「百霊」は、クロスモーダルマルチタスクのトレーニングモデル構築といった技術を駆使して、自然言語の意味分析に基づいて、スクリプト的ではなく、リアルタイムに意思決定ができる対話を実現し、人間味のあるロボットに仕上がっている。

 高CTOは、「従来のカスタマーサービスロボットは固定のパターンであるのと違い、この種の対話スタイルは、ユーザーのリテンション率と返信率を効果的に高め、スムーズに対話を進めて、ユーザーが業界、出入金、仕入れ関係などの有効情報を提供するよう誘導し、小規模・零細企業に、融資限度額を増やす適切な方法をリアルタイムで提案するとともに、クライアントがアップした証票と画像をチェックすることもできる」と説明する。

 これまで、デジタル融資では、ユーザーから権限を得た金融機関が、他の機関などからユーザーの情報を取得するというスタイルの模索が一般的だった。しかし、「個人情報保護法」や「「データ安全法」、「信用情報収集業務管理規則」が相次いで制定され、社会各界ではデータ情報の保護に対する注目がますます高まっている。

 高CTOは、「今後、デジタル融資では、他の機関からの情報取得と、自ら取得する方法を組み合わせたスタイルが採用されるようになるだろう。ユーザーは自分で直接情報を提供し、金融機関に自分のことを十分に知ってもらえるようになるだろう。小規模・零細企業は自社ニーズに基づいて、リスクマネジメントシステムとスマートインタラクションを展開することで、ケースバイケースで個性化した書類を選択的に提出することができる。その過程は一層可視化され、管理もしやすい」と説明する。

 そして、「小規模・零細企業が、人間の融資担当者と交流するように、『百霊』と円滑に交流することを望んでいる。現時点ではまだ模索段階にあるが、この技術の見通しが明るい。『百霊』が融資界の『AlphaGo』のようになり、年商1千万元規模の小規模・零細企業に、プロフェッショナルなデジタル融資サービスを提供できるようになることを願っている」と語った。


※本稿は、科技日報「AI信貸審批員:助力破解小微企業融資難」(2022年8月3日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。