【22-40】キーテクノロジーイノベーションで石炭をクリーンかつ効率的に利用
劉園園 陳 瑜(科技日報記者) 2022年09月08日
国家エネルギー集団宿遷発電有限公司 画像提供:取材先
中国の主要エネルギーである石炭は、中国の経済・社会の急速な発展を力強く支えてきた。
二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトとカーボンニュートラル(ダブル炭素)の目標達成を目指す中国では石炭産業がさらに注目を集めるようになっている。石炭は中国の資源の中でも、最も豊富な化石燃料であると同時に、エネルギー消費におけるCO2の主な排出源ともなっており、石炭を利用して排出されるCO2の量は、エネルギー起源CO2の約70%を占めている。
中国が2016年に国家重点研究開発計画「石炭のクリーンで効率的な利用と新型省エネ技術」重点特別プロジェクト("煤炭清潔高効利用和新型節能技術"重点専項)を始動させて以来、石炭のクリーンで効率的な利用関連の技術の面で多くのブレイクスルーが実現し、ダブル炭素の目標達成に向けてテクノロジーの分野から強力にサポートしている。
発電に二段再熱を採用して石炭を最大限活用
発電において石炭をどのように効率的、かつクリーンに利用することができるのだろう?
中国科学技術部の「効率的で柔軟性ある二段再熱を採用した発電プラントの研究開発・工学実証」プロジェクトが満足できる回答を与えてくれている。同実証プロジェクトは国家エネルギー集団宿遷発電有限公司で実施されており、定格出力660メガワット(MW)で、二段再熱方式の超々臨界圧プラント(USC)2機が導入されている。
国家エネルギー集団江蘇公司の梁志宏社長は、科技日報の取材に対して、「USCの蒸気温度は600--620℃、圧力は約31メガパスカル(MP)に達し、技術と経済がほぼバランスを取っている今の『天井』にほぼ達している」とし、石炭の利用効率をいかに向上させるかについて、「『効率的で柔軟性ある二段再熱を採用した発電プラント研究開発・工学実証』プロジェクトでは、従来の一段式の再熱プラントと違い、蒸気をボイラーに戻して2度再熱する」と説明する。
そして、「高温高圧蒸気を利用した蒸気タービンは回転の過程で、温度、圧力が下がり続けるに伴い、作業効率も下がり続ける。『効率的で柔軟性ある二段再熱を採用した発電プラント研究開発・工学実証』プロジェクトでは、主蒸気が超高圧タービンを推進した後、ボイラーに送られて再熱システムで加熱され、再び高圧タービンを推進する。そして、高圧タービンから排出される蒸気が再びボイラーに送られてもう一度再熱システムで加熱され、その時の温度は620℃に達する。それから、中圧タービンを推進する。最後に、低圧タービンを推進して復水器に排出される。蒸気を二段式で再熱し、中圧タービンに送られる蒸気の温度が上がり、中・低圧タービンの回転効率も上がっている」と説明する。
従来の一段再熱方式のUSCの発電効率は通常約46%であるのに対して、二段再熱技術を採用した場合、それが48%以上に向上する。
梁社長は取材に対して、「プラントの安全性、効率、柔軟性、クリーン、スマートな稼働を実現するために、当社が筆頭となって複数のキーテクノロジーを研究開発した。そして、数えきれないほどの改良、アップデート、難関攻略を経て、最終的にプロジェクトの各種任務の目標を無事達成した」と強調した。
梁社長によると、2021年、国家エネルギー集団宿遷発電有限公司の石炭消費は、1kWh当たり265.8グラムで、全国平均を37グラム下回った。そして、標準石炭を27万トン節約し、CO2排出量も73万トン削減した。標準石炭を1トン当たり1000元(1元は約20.1円)として計算すると、燃料コストを2億7000万元削減できたという。
さらに効率的になっただけでなく、よりクリーンにもなった。梁社長は取材に対して、「2021年、定格出力660MWで二段再熱方式のUSC2機の排ガス量や二酸化硫黄、窒素酸化物の濃度はいずれも国の大気汚染物質の排出基準の半分ほどで、大気汚染物質の超低排出を実現している」と説明した。
CTLとアルケンが石炭の「華麗なる転身」を演出
中国は石炭資源が豊富である一方、石油資源は非常に少なく、海外への依存度が高い。アルケンといった大口化学工業原材料は、国の経済産業において重要な位置を占めている。では、石炭を油とアルケンに変えることはできるのだろうか?「石炭液化(CTL)/アルケン大型近代石炭化学工業の一連技術の開発と応用」プロジェクトがその問題を解決し、石炭の「華麗なる転身」を実現している。
国家エネルギー集団化工公司の王建立社長は、科技日報の取材に対して、「当社は技術研究開発から、プロジェクト建設、生産、運営までの一連の仕事を行っており、世界初の100万トン級の石炭を直接液化して液体燃料を生産する実証プロジェクトを実施した。これは石炭を直接液化して液体燃料を生産する、現時点で、世界で唯一稼働中のプロジェクトだ」と説明した。さらに同社は世界初の石炭からアルケンを生産する実証プロジェクトも実施している。
石炭の「華麗なる転身」を実現するだけでなく、その過程はクリーンでエコでなければならない。
王社長は取材に対して、「プロジェクトでは、CTLや石炭からアルケンを生産する際に発生する高濃度汚水と汚染物質を処理する一連の技術を確立し、その汚水排出ゼロを実現した。また、排ガスや固形廃棄物の排出、処理も環境保護の最も高い規準をクリアしている」と説明する。
近代石炭化学工業産業は現在、中国で勢い良く発展している。統計によると、第13次五カ年計画(2016‐20年)終盤の時点で、中国で実施されていた実証モデル、産業化推進プロジェクトは、CTL8セット、石炭から天然ガス生産4セット、石炭(メタノール)からアルケン生産32セット、石炭からエチレングリコール生産24セットとなっている。2020年には、CTL、ガス、アルケン、エチレングリコールの4大主力製品の生産量は合わせて約2647万トンで、年間約9380万トンの標準石炭が変換された。その産業規模にしても技術水準にしても世界でトップレベルとなっている。
CO2回収・貯留が石炭利用のCO2排出削減を後押し
中国のダブル炭素の目標達成に向けて、CO2の回収、有効利用、貯留技術は、石炭燃料利用によるCO2排出削減を後押しする可能性を大いに秘めている。
中国華能集団有限公司(以下「華能集団」)テクノロジー部の許世森部長は、「CO2回収、有効利用、貯留技術は、CO2排出を大規模に削減するポテンシャルを秘めた新技術で、化石燃料のゼロ・エミッションを実現する唯一の技術的選択」との見方を示す。
華能集団を取材すると、国家重要テクノロジープロジェクトと同社独自のプロジェクトのサポートの下、同社は10数年の研究開発を経て、独自の知的財産権を有する燃焼前や燃焼後のCO2回収理論、一連の技術体系を確立し、独自の知的財産権を有する技術を駆使して、複数の石炭燃焼CO2回収モデル装置を設置していることが分かった。
許部長は、「基礎研究の面では、当社は高性能CO2回収溶剤開発、効率的な分離設備開発、CO2回収プロセスの最適化、発電所集積最適化シミュレーション、CO2化学工業利用、CO2によるメタン置換技術開発といった一連の発電所排ガスCO2回収・利用技術を確立し、CO2回収、利用、貯留技術の産業化に向けて基礎を築いている」と説明する。
そして、「プロジェクト化・建設の面では、当社はCO2回収技術成果実証、転化、産業応用を積極的に推進し、独自の知的財産権を有する技術を駆使して、中国初の石炭火力発電所CO2回収システム、中国初のガスプラントCO2回収システムなどを構築し、運営している」という。
王社長は取材に対して、「石炭化学工業プロジェクトのCO2排出問題を解決するために、国家エネルギー集団化工公司は2011年に、世界初の石炭化学工業産業10万トン級CO2回収、液化、貯留プロジェクトの実施を始めた。世界初の割れ目が少なく、透水性が低い地質条件下でのCO2回収・貯留プロジェクトで、CO2を回収するとともに液化し、地下1500‐2500メートルに永久に貯留できるようになった。また、複数のモニタリング指標を設置し、CO2が漏れ出ていないかをモニタリングし、安全、環境保護を確保している」と説明した。
中国華能集団有限公司の会長で、中国工程院の院士である舒印彪氏は第6回CO2回収・利用・貯留国際フォーラム(第六届碳捕集利用与封存国際論壇)で、「CO2回収、利用、貯留技術は、賦存している化石燃料を利用した時のCO2排出ゼロ実現を推進し、グリーン経済の新たな成長源育成につながる」との見方を示した。
※本稿は、科技日報「関鍵技術創新譲煤炭利用清潔高効」(2022年8月8日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。