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【22-45】三畳紀末の生物大量絶滅をもたらした寒冷化 恐竜はなぜ生き延びた?

張 曄(科技日報記者) 2022年09月20日

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画像提供:視覚中国

 地球の地質史上、生物種の大量絶滅が5回も起こった。そのうちの1回は約2億年前の三畳紀末だ。当時、突如襲われた災難により陸地の生物が大量絶滅したが、恐竜は絶滅しなかった。

 では、三畳紀の末期に陸地の生物が大量絶滅した原因は何なのだろう?恐竜はなぜその危機を乗り越えて生き残ることができたのだろう?

 中国科学院南京地質古生物研究所の沙金庚研究員、房亜男博士と海外の学者が共同で行った研究の成果がこのほど、世界的に有名な科学誌「サイエンス・アドバンシズ(Science Advances)」にオンライン掲載された。同研究によると、三畳紀末に陸地の生物が大量絶滅した主な原因は「火山の冬」だった。また、同研究では、恐竜が保温効果のある羽毛を有していたことと極地の寒冷気候に対する適応性を備えていたことが、三畳紀末の絶滅危を生き延びられた原因が初めて示された。

考えさせられる三畳紀生物の進化

 ペルム紀(二畳紀)末の大量絶滅後の回復と変化の後、中生代の最初の紀である「三畳紀」には、生物が繫栄し、爬虫類と裸子植物が空前の規模で拡大した。そして、テコドント類や恐竜類、単弓類といった動物がこの時代に急速的に増えた。三畳紀末期になると、多種多様な恐竜が繫栄し、生態系において非常に重要な地位を占めるようになっていた。

 だが、禍はいつやってくるか分からず、約2億年前の三畳紀末、パンゲア大陸が分裂し、急激に変化した環境が新たな生物の大量絶滅をもたらした。

 その絶滅事件があったため、三畳紀は、地質時代における各時代区分の中で唯一、前回の大量絶滅事件からすぐ後に、生命の進化が一気に進んだ後、再び生物の大量絶滅が起きた時代となった。三畳紀に起きた絶滅事件は、中生代の生物の発展、特に恐竜時代の到来に非常に大きな影響を与えた。

三畳紀の大量絶滅の原因は?

 三畳紀末に生物の大量絶滅事件が起きた原因については、これまで複数の説があった。近年、科学者の間で最も注目を集めてきたのは火山の噴火だ。火山の噴火が三畳紀末の生物の大量絶滅事件の原因であるという説を支持する科学者は、中生代初期、パンゲア大陸が分裂したため、大規模な火山活動が起き、大気中の二酸化炭素濃度が増し、生物が大量に絶滅したと考えている。

 しかし、今回の研究チームは、火山噴火後の地球の環境変化について、異なる説明をしている。研究チームは中国の新疆維吾爾(ウイグル)自治区ジュンガル盆地郝家溝の断面陸成相の後期三畳紀から前期ジュラ紀までの地層で、高解像度の測量や研究を実施し、ジュンガル盆地の古代の緯度を修正した。そして、後期三畳紀から前期ジュラ紀にかけて、同地域はパンゲア大陸の北極地域(北緯約71度)に位置していたと結論付けた。

 野外調査において、研究チームは初めて、ジュンガル盆地の後期三畳紀から前期ジュラ紀にかけての湖沼相の泥岩から、保存状態の良好な恐竜の足跡の化石を発見した。

 沙氏は取材に対して、「後期三畳紀では、草食の恐竜は主に、中、高緯度の地域に生息していた。一方、三畳紀末に生物が大量絶滅した後、恐竜は急速に地球全体に拡散し、元々低緯度の地域を占領していた他の小型爬虫類は絶滅した」と説明した。

 これまでは、三畳紀末の生物の大量絶滅は、火山が噴火して、大量の二酸化炭素が放出され、地球全体の気温が上がったからだと考えられてきた。しかし、陸地の生物が絶滅した後の状況を見ると、そのような観点を支持する証拠はほとんどない。

 研究チームは、非常に大規模な火山の噴火はまず、火山の冬をもたらしたと推測している。火山の冬とは、火山の爆発的な噴火によって、火山灰やエアロゾルが太陽光を遮ることにより、地球の表面温度が急低下する現象のことだ。

 沙氏は、「三畳紀の生物の大量絶滅の過程で、恐竜を含む陸地の四肢動物が、寒い高緯度の地域から暖かい低緯度の地域に移動したため、これまで考えられていたように、気温が『上がって』生物が大量絶滅したのではなく、『火山の冬』によって気温が『下がって』そうなったと推測している」と説明する。

恐竜はなぜ危機を生き延びたか

 研究チームは、ジュンガル盆地の後期三畳紀から前期ジュラ紀にかけての地層において、恐竜の足跡の化石と漂流岩屑を同時に発見した。漂流岩屑とは、泥岩に漂流した砂粒や小石のことだ。房氏は、「つまり、両極地方に氷河がない『温室期』であっても、極地では結氷する季節もあったということだ」と説明する。

 恐竜の足跡の化石と漂流岩屑が極地地域で発見されたということは、恐竜が寒い季節にもかなり適応し、「火山の冬」を生き延びる能力を備えていたということだ。また、それら恐竜の羽毛も生き延びる助けになったと見られている。

 房氏は、「研究者はこれまでに、恐竜に羽毛があったことを示す一部の化石の証拠を発見してきた。そのため、系統発生学を用いて、恐竜には生まれつき羽毛があり、それら羽毛の用途は保温である可能性が極めて高いと推測した」と説明する。

 保温効果のある原始的な羽毛を生まれつき持っているから、草食の恐竜は中・高緯度地域の冬の寒さにも耐えることができ、さらに中・高緯度の地域の豊富で、安定した植物資源を独占することができた。一方、保温効果のある羽毛を持たない他の大半の小型爬虫類は「火山の冬」に絶滅し、体積が小さいごくわずかな生物が穴の中などに隠れて災難を生き延びたと推測される。

 三畳紀末の大量の動植物が絶滅したものの、羽毛という「ダウンジャケット」を着ていた恐竜はその危機を生き延びることができたということだ。


※本稿は、科技日報「导致三叠纪末生物大灭绝的"冰冷"真相」(2022年8月16日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。