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【22-51】個人のカーボンアカウント登場 誰もがCO2削減に参加する時代到来へ

李 禾(科技日報記者) 2022年10月14日

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画像提供:視覚中国

 統計によると、中国の住民の消費行為によるエネルギー消費量は、エネルギー消費総量の約45~50%を占めており、「カーボンニュートラル」と「二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウト」の目標を達成するためには、住民の生活を含む消費者側のCO2削減を無視することはできない情勢となっている。そのため、広東省や浙江省、上海市、四川省、河北省といった地域は、個人のカーボンアカウントを含む、CO2削減を働きかけるカーボンインクルージョン計画を相次いで打ち出している。

 9月4日、浙江省杭州市西渓誠園に住む李さんは、団地内の宅配便ボックス「菜鳥驛駅」で荷物を受け取り、中身を取り出した後、配達に使われた段ボール箱を回収ボックスに投入した。それにより、李さんはCO2排出量を37グラム削減した。削減した分のCO2は、李さんの菜鳥のオンラインコミュニティ「緑色家園」の個人のカーボンアカウントで、50グラムのグリーンエネルギーに変換された。

 中国国内外のカーボンアカウンティングやCO2排出量取引市場で現在注目されているのは、ほとんどが生産段階のCO2削減やCO2排出量取引で、CO2削減のほとんどが企業レベルで行われている。しかし、統計によると、中国の住民の消費行為によるエネルギー消費量は、エネルギー消費総量の約45~50%を占めている。そのため、今年に入り、中国各地が個人のカーボンアカウントを続々と打ち出しており、個人のレベルでCO2削減に取り組む時代に本格的に突入している。

消費分野で個人のCO2削減の可能性を開拓

 中華環境保護聯合会の杜少中副会長は、「『カーボンニュートラル』と『CO2排出量ピークアウト』の目標を達成するためには、住民の生活を含む消費者側のCO2削減を無視することはできない」との見方を示す。

 消費者側のCO2排出量を削減するべく、中国国家発展改革委員会を含む7当局が発表した「グリーン消費促進実施案」は、2025年をめどに、重点分野の消費のグリーンな消費へのモデル転換が目に見えた成果を挙げるようにし、グリーンな消費スタイルが広く推進されるようにし、グリーンかつ低炭素化された循環型の発展を遂げる消費体系をおおよそ確立することを目標に掲げている。そして、2030年をめどに、人々が自主的にグリーンな消費スタイルを選ぶ社会を作り出し、グリーン消費制度・政策体系、体制メカニズムをほぼ完成させることを目標にしている。

 政策の牽引の下、広東省や浙江省、上海市、四川省、河北省などの地域では、個人のカーボンアカウントを含む、CO2削減を働きかけるカーボンインクルージョン計画を相次いで打ち出している。個人のカーボンアカウントとは何なのだろうか?カーボンアカウントとは、CO2排出削減量データの収集、カーボンアカウンティング、CO2排出削減量レベル評価、シーン応用といった機能を含むCO2削減サポート体系のことで、企業や住民がどれほどCO2排出削減に寄与したかを「アカウンティング」し、CO2削減の効率やそれに対する意識を高めるようサポートすることができる。多くの企業プラットフォームが現在、個人のカーボンアカウントを打ち出している。ほとんどのプラットフォームでは、デジタル化手段によって、消費者が生活の中でグリーンかつ低炭素な衣食住・交通などの消費行為を行うことによって発生したCO2削減状況が自動で個人のカーボンアカウントに記録される仕組みで、ユーザーはプラットフォームで相応のグリーンポイントを受け取ることができる。そしてグリーンポイントは、グリーン食品やシェア自転車カード、クーポン券などと交換することができる。

 今年8月10日、北京市初のグリーンライフ・カーボンインクルージョン・プラットフォームである「緑色生活季」ミニプログラムが正式にリリースされた。同プラットフォームは、「緑享生活」、「緑碳ポイント」、「緑暢旅行」、「緑助ディスク」、「緑色金融」、「緑游山水」などの8つのジャンルに分けて、グリーンで低炭素な生活シーンが設定されている。ユーザーは、グリーン家電を購入したり、シェア自転車を利用したり、新エネルギー車を購入したり、使い捨て食器の使用を減らしたりすることで、CO2排出量を削減し、グリーンポイントを獲得することができる。ポイントは、ポイント交換ストアで、「美団」のシェア自転車30日間利用カードや映画館のクーポン券、駐車サービス券などと交換することができる。

 統計によると、「緑色生活季」はリリースされて以来、市民の間で人気になり、多くの人が積極的に利用している。同プラットフォームの日別ランキングを見ると、リリース1日目のCO2排出削減量トップのユーザーは、削減したCO2排出量が9.76キロに達していた。8月24日の時点で、「緑色生活季」アプリでCO2排出削減量を記録した人の数は1006万9459人、削減回数は2億1676万1710回、削減量は9万2992.24トンとなっている。

科学的な算出方法と基準が基礎

 中華環境保護聯合会の緑色循環普恵専門委員会の蒋南青秘書長は、「生産側である企業には、国が定めた温室効果ガス削減基準やガイドが既にあり、CO2排出削減量を算出することができる。しかし、消費者側には、統一された算出方法や基準がなく、消費によるCO2排出削減量を計算するのは依然として難しい課題だ」と説明する。

 消費者側がCO2削減を実行し、持続することを可能にするには、科学的できっちりしたCO2排出削減量算出統一計算基準が基礎となる。

 個人の行為によるCO2排出削減量を数値化する際の拠り所を提供するべく、中華環境保護聯合会は今年5月、団体基準「住民のグリーン・低炭素行為による温室効果ガス排出削減量数値化ガイドライン」(以下「ガイドライン」)を発表した。「ガイドライン」は、衣、食、住、交通、日用品、ワーク、デジタル金融といった7大ジャンルのグリーン・低炭素行為40項目を明確に記しているほか、住民のグリーン行動によるCO2排出削減量を数値化するための基本原則、要求、方法を定めている。それらは、住民のグリーン行動によるCO2排出削減の数値化評価や、住民のグリーン行動によるCO2排出削減の数値化評価規範の作成指導などに適用される。

 「緑色生活季」はこの「ガイドライン」に基づいて作成されている。「緑色生活季」の技術サポートを担当する北京緑普恵網絡科技有限公司の創業者・陶嵐氏は、「『緑色生活季』は『ガイドライン』を採用しており、市民がグリーンライフやグリーン消費行動を実践するだけでなく、科学的にCO2排出削減を数値化できるようにしている。また、プラットフォームの構築のために、ビッグデータやクラウドコンピューティング、ブロックチェーンといったデジタル技術エンパワーメントを駆使し、分散している消費者側の行動によるCO2排出削減を数値化し、衣、食、住、交通、日用品をめぐる様々なシーンにおけるグリーン行動の数値化、重複分削除、記録、集計を実現し、市民のCO2排出削減データのトレーサビリティを可能にし、改竄できないようにしている」と説明する。

 阿里巴巴(アリババ)も今年8月8日、個人ユーザーのカーボンアカウント「88碳賬戸」を発表した。同アカウントはメインアカウント+サブアカウントの「1+N」形式を採用し、フードデリバリーサービス「餓了麼(Ele.me)」や配送サービス「菜鳥網絡」、フリマアプリ「閑魚」、ECモール「天猫(Tmall)」といったアリババ傘下の各プラットフォームで発生したユーザーのCO2削減量を一括集計し、生活の様々なシーンをカバーしている。「88碳賬戸」で獲得したポイントは、値引きクーポンや低炭素化を応援する事業者が提供する低炭素商品の割引券、専門サービスなどと交換することができる。

 中央財経大学・グリーン金融国際研究院の王遥院長は、「各プラットフォームは現在、個人のCO削減基準を模索している。蓄積している経験は、将来、さらに一歩進んだ策として内部アカウントと外部取引を連携させるうえでも基礎となるだろう」との見方を示す。

多元化された包摂的インセンティブメカニズムでCO2削減の価値向上を

 中国全国政協経済委員会の劉世錦副主任は、「カーボンアカウンティングやカーボンアカウントを重点としたグリーン微視的基礎制度の構築を加速させなければならない。各地は、企業やその他の機構のカーボンアカウントを含むカーボンアカウントの設置を普及させる必要がある。条件が整っている地域は、個人のカーボンアカウントを設置し、個人消費の分野のCO2排出権取引をCO2排出量取引市場に組み込むことができる」との見方を示す。

 取材では、個人消費により発生したCO2削減量をCO2排出量取引市場で取引した例が既にあることが分かった。2019年、北京市交通委員会は「政府・企業連携」のスタイルを採用し、ナビゲーションアプリ・高徳地図と共同で、「北京MaaS」プラットフォームを打ち出した。ユーザーは、高徳地図などのアプリで、公共バスや鉄道交通、徒歩、自転車利用などのモビリティサービスを利用すると、CO2排出削減量を貯めることができる。そして、「MaaS」を通して、自分が貯めたCO2削減量を公共バスカードやクーポン券に交換したり、環境保護公益活動に寄付したりすることができる。また、高徳地図はユーザー個人のCO2削減とCO2排出量取引市場を連結した。それにより、プラットフォームから得られるメリットだけでなく、CO2排出量取引市場での売買という持続可能な行為も、個人の削減を働きかけるインセンティブとなった。2021年、高徳地図を通して取引されたCO2削減量は2万4500トンに達した。うち、1万5000トンは北京市政路橋建材集団有限公司との取引によるものだった。

 中国人民大学生態金融研究センターの副センター長を努める蘭虹教授は、「今後、中国のCO2排出量取引市場体系、タイプ、製品はさらに整備され、全国の義務化されたCO2排出量取引市場をメインとし、第三者認証排出削減量(VER)取引市場、カーボンインクルージョン取引をサブとする総合発展体系が築かれていくだろう」との見方を示す。

 ただ、現時点では、消費者側のCO2削減は、CO2排出量取引市場の範囲にも、VERの範囲にも組み込まれていない。蒋秘書長は、「消費者側のCO2削減は、将来はカーボンインクルージョン市場に属するものになるだろう。しかし、個人のCO2削減量は少ない。例えば、1人で1年間に削減できる量は最も多くて1トンで、現在のCO2排出量取引市場の価格に基づいて計算すると、その価値は100元(1元は約20.6円)にもならない。そのため、いかに個人の削減量の価値をさらに高めるかが、カーボンインクルージョン市場が直面している主な課題だ」と指摘する。

 そして、「CO2削減の価値を高めるためには、多元化した包摂的インセンティブメカニズムが必要だ。CO2排出量取引市場だけでなく、政府や政策、商業機構、環境保護組織の一致した努力が必要となる。例えば、個人のカーボンアカウントのグリーンポイントを、レストラン予約や商品の割引などに使えるようにするほか、金融市場とリンクさせ、銀行のアカウントのポイントに交換できるようにしたり、個人のカーボン資産、グリーンクレジット証書にしたりできるようにする。個人のカーボンアカウントには、消費財メーカーがCO2削減に参加するよう促すという役割もある。それら企業は現在、全国のCO2排出量取引市場がカバーする範囲に入っていないものの、ユーザーの生活におけるCO2削減と直接関係がある」との見方を示す。

 陶氏は、「北京の『緑色生活季』は、政府側で個人のためにカーボンアカウントを開設し、デジタル化により市民のCO2排出削減量をリアルタイムで可視化しているほか、企業の消費者側のCO2削減に対する貢献も反映しており、政府、企業、市民の三者が共に参加するカーボンアカウントブックとなっている。そして、政府または企業が単独で主導する単一的なカーボンインクルージョンスタイルに取って代わるようになっている。参加している企業は、企業プラットフォームで自社がユーザーのCO2削減にどれほど寄与しているかをリアルタイムでチェックすることができ、企業側としても『企業カーボンアカウントブック』や『企業カーボンアカウント』として活用できる」と説明している。


※本稿は、科技日報「個人碳賬戸譲減碳逐歩進入全民時代」(2022年9月6日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。